【いつのまにか名探偵】物語と謎解きを楽しめる、小さな子のための推理小説。愛されるロングセラー。【小学校低学年以上】

オレの名前はミルキー杉山。探偵だ。密室盗難事件の犯人や、謎の赤い車や、宝石泥棒をみつけるのが仕事だ。どんなふうに犯人をさがしあてるのかは、読んでみればわかるさ……
この本のイメージ 謎解き☆☆☆☆☆ 物語☆☆☆☆☆ 奥様も名探偵☆☆☆☆☆
いつのまにか名探偵 杉山亮/作 中川大輔/絵 偕成社
<杉山亮>
杉山亮(すぎやまあきら)。
1954年東京に生まれる。1976年より保父として、各地の保育園などに勤務。手づくりおもちゃ屋<なぞなぞ工房>を主宰。著書に「たからものくらべ」「子どものことは子どもにきく」「子どもにもらったゆかいな時間」「もしかしたら名探偵」など。
<中川大輔>
1970年神奈川県に生まれる。児童文学美術家連盟会員。おもなさし絵の仕事に、「BOOK術・子どもの本がいちばん」「魔女のよせなべ」「はらぺこ伊助と大どろぼう」「もしかしたら名探偵」など。
ミルキー杉山の名探偵シリーズ、第2巻は「いつのまにか名探偵」。初版は1994年です。
わたしは、体調を崩して本が読めなくなった時期があり、そのリハビリとして児童書を読みはじめたのがこのブログのきっかけなのです。だから、ブログをはじめていなければ出会わなかったような本がたくさんあります。
このシリーズも、そのひとつ。
でも、わたしが知らなかっただけで、1992年に「もしかしたら名探偵」が出版されてから、かれこれ30年愛されているロングセラーシリーズなんですね。30年って一口に言うのは簡単ですが、生まれた赤ちゃんが成長して大人になって結婚して子どもができるくらいの年月です。純粋にすごい。
インターネット元年は、マイクロソフトのウィンドウズ95が発売された1995年とされていますので、1994年はその前年。
この世には、インターネットはまだなく(パソコン通信と言うものはありました)、コンピューターは一般的ではなく、電話は固定電話で携帯電話を持っている人はほとんどいない、そんな時代でした。
携帯電話が無い時代、人はどう連絡を取り合っていたと思いますか?
「ポケットベル」と言うものがありました。また、「NTT伝言ダイヤル」と言う、伝言を中継センターで録音して伝えてくれる番号があったんです。このふたつ、そして補助手段としてのFAXが緊急連絡の方法でした。
いまの人には考えられないでしょうね。
「花のあすか組!」と言う漫画がありまして、それを読むと当時の若者の連絡方法が少しわかります。めんどくさかったんですよ。(漫画のような特別な子たちだけではなく、ごくふつうの子たちもそれぞれ独自の連絡方法を編み出していました。若い子というのは、制限された環境のなかでも工夫してなんとかやってしまうものです)
※い、今確認したら、「花のあすか組!」続編出てるんですね! いったい、どういう展開なのだろう……。SNSとか使うらしい。リメイクなんだろうか。これは読まなくては。(関係ない話で狼狽してスミマセン)
ポケットベルで送れる文面は数字だけなので、仲間うちで暗号にしていた子たちもいたようです。
わたしは、ポケベル暗号派ではなく(めんどくさいのでおぼえきれない)伝言ダイヤル派でした。突然予定通りにゆかないときは、友達どうしで決めた時間おきに伝言を残して連絡を取り合っていました。
携帯電話が無い時代なので、そういう手段で突発の事態に対応していたのです。
その前の時代はどうしていたかって?
単純に「すれ違って連絡が取れない」んですよ。「君の名は」と言うドラマが有名です。(アニメのほうじゃなくて)
いやもう、本当にいい時代になりました。スマホやショートメールでリアルタイムで連絡がつくし、それができないときも、SNSと言う手段もありますしね。
でも、90年代は、子どもも若者もありったけの知恵を絞って友達どうし連絡をとりあっていたんです。
つまり、子どもや若い子は、暗号が大好き。
友達同士だけで通じる言葉を創ったり、メッセージをやりとりしたりするのは、昔からやっていたことなんです。「流行り言葉」も暗号の一種。だから、広まると消え、また新しい言葉が生まれるんでしょうね。
ミルキー杉山の名探偵シリーズは、子どもの謎解き好きの心にストライクにボールを投げてくれるお話です。
だって、そもそも「オレの名はミルキー杉山」って名乗るところからはじまるのに、「なんでミルキー? それ本名? 何かのコードネーム?」と言う疑問にはこたえてくれないんですよ。何の説明もなく、そのまま物語が始まってしまう。そして、謎のまま。子どもの名前はとも子とたかしという、ふつうの名前なのに。
そして、「わけあって別れて暮らしている」妻のたつ子さん。これも何の説明もなし。でも、夫婦仲は良好らしいのです。謎です。
こういう謎を、ミステリアスな謎のまま残して、事件の推理を楽しみながら大きな流れの物語も楽しませるという複雑なつくりが、小さな子ども相手なのに手加減なし。
小さな謎と大きな謎。すぐにわかる謎と、ずっと追い続けないとわからない謎が絶妙に絡み合っています。
収録されている事件は三つ。どれも、文章と絵、すべての情報を隅々まで見ないとわからないようになっており、とても楽しい。全部読んだあとも、またもどって読み返すと、いろんな発見があります。
ひとりでじっくり読むのも楽しいけれど、お父さんやお母さんと一緒に読むみながら、一緒に推理するのも楽しそう。
ちゃんと「事件編」と「解決編」に分かれているのもエラリー・クイーンみたいで本格的です。
子どもの学力向上に最も効果的な方法は読書です。
また、推理小説やSFは、子どもに論理的に考える力をつけ、ファンタジーは子どもの想像力を育むのです。
「ミルキー杉山」は、ぴったりじゃありませんか。
知育効果があるだけでなく、キャラクターが全員個性的で物語としても楽しめます。
ほとんどがひらがなで書かれており、とても読みやすいので小学校低学年から。かしこい子なら幼稚園から大丈夫。
もちろん、読み聞かせにもおすすめです。ミルキー杉山の一人称なので、どうぞお父さんが読んであげて下さいね。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。探偵の物語ですが殺人や暴力のシーンはないし、終始楽しい物語です。
男の子にも女の子にもおすすめです。
物語が面白い上に知育効果もあり、何度でも楽しめる本です。
読後は、ミルキー杉山が作ろうと思っていたカレーをばんごはんに。
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