【都会のトム&ソーヤ】「究極のゲーム」を目指す二人の物語。ライバルとの対決と危険な妨害【怪人は夢に舞う<実践編>】【小学校高学年以上】

2024年3月20日

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都会のトム&ソーヤ  8  怪人は夢に舞う<実践編>  はやみねかおる/作 にしけいこ/絵 講談社

「怪人は夢に舞う」が完成。テストプレイヤーとして栗井栄太を招待する創也。しかし、「頭脳集団(プランナ)」の妨害も続いている。はたして、創也たちの処女作はどうなる?わくわくの第8巻。

この本のイメージ はじめてのゲームリリース☆☆☆☆☆ 栗井栄太と対決☆☆☆☆☆ 危険な妨害☆☆☆☆☆

都会のトム&ソーヤ 8  怪人は夢に舞う<実践編>  はやみねかおる/作 にしけいこ/絵 講談社

<はやみね かおる>
日本の男性小説家(1964年4月16日~ )。三重県伊勢市出身。代表作は「都会のトム&ソーヤ」「怪盗クイーンシリーズ」「名探偵夢水清志朗シリーズ」など

 はやみねかおる先生のヤングアダルト(ライトノベル)小説、「都会(まち)のトム&ソーヤ」シリーズ第8弾。初版は2010年。

 主人公は自称「ふつうの中学生」内藤内人。しかし、実は、異常なサバイバル能力のある少年です。彼にサバイバルを仕込んだのはおばあちゃん。この名前も出てこない謎だらけの「おばあちゃんの豆知識」が、常に内人を助けます。
  幼い内人に大自然の厳しさを教え、サバイバル特訓をほどこしたらしいおばあちゃんは、たぶん
「冒険野郎マクガイバー」(古いよ)。

 これは、究極のゲームをつくりたい御曹司竜王創也が、親友の内藤内人とともに冒険を繰り広げる物語です。

 6巻くらいまでは、一話完結でどの巻から読んでも面白く読めるのですが、7巻あたりからだんだん大きな流れに入ってきます。1巻から順番に読んだほうがわかりやすいので、まずは1巻をお読みください。1巻のレビューはこちら

 もし、あなたに叶えたい夢があって、その夢について「AIがあなたの夢はいつか世の中を悪くすると予測したのでいまのうちに潰します」と言われたらどうしますか? それが、AIでなくてもいい、霊能者でも。

 今、抱いている夢が、人殺しをしたいとか、何かを破壊したいとか、そんな物騒な内容ではなかった場合、ちょっと納得がいかないですよね。

 それが、創也と内人の前に現れた敵の理屈でした。正確に言うと、AIでも霊能者でもないんですけども。

 昔からの古典SFで伝統的に題材にされてネタでもあります。きわめて科学が発達した社会で、あらゆるデータを分析した結果、「実際に犯罪を犯した人」ではなく「こいつは犯罪を犯しそう」と言う人間を事前に罰するというシステム。

 言われたほうは、なかなかに理不尽です。

 読者としては敵味方入り乱れてすごく面白い展開なんですが、実際に当人の立場になると、けっこう大変な状態です。

 ところが、今回、感動したのは、創也がそんなことでへこんでいないところ。いろいろあって、自信家の創也もへこむ事態にはなるんですが、へこむはへこむとしても、そういうことじゃへこんでいないのです。

 ふつうの人なら、そんなわけわかんない人たちが、わけわかんない理由で潰しにきたら、かなりびびるし、意気消沈します。だって、相手に理屈が通用しないんですから(その上組織力があって強い)。自分がそこで精神的に乗り越えても、相手が手段を選ばないので、周囲の人間も巻き込まれます。
 そこで心が折れてしまう人も多いと思います。

 でも、創也がへこんだのはそこじゃなかったんですね。
 自分の創ったゲームが「究極のゲーム」じゃなかったから。

 ここが、はじめてゲームを作ったばかりの創也と、ずっと創り続けていた神宮寺さんたちの格の違いみたいなものを、子どもにもわかりやすく描いていてすばらしいところ。

 創也の創ったゲームは、もちろんすばらしい出来で面白かったのですが、要所要所のパーツはうまくできていても、それが全体としてひとつの世界としてなりたっていない、と言うのです。つまり、「ゲーム思想」のようなものが、未熟であると。

 小説や漫画のようなコンテンツでたとえれば、「部分部分は面白いし、ちゃんとオチがついているけれど、何が言いたいのかテーマが見えないよね」と言うことだと思います。うわー、厳しい!

 創作者として、はじめて自分の作品を世に問うた創也は、かなりへこみます。
 へこむという事は、指摘された欠点が理解できたという事で、それはそれでものすごく頭がいいと思うんですが、そこは「事前にそれに気づけなった」と言うプライドもあるんですよね……。こう言う人は、最終的にとんでもないものを創る人だ。

 実は失敗した後に「事前に気づくべきだった」と落ち込む人は、コンピューター系のシステムやゲームを作るのに向いています。なぜなら、プログラムは、「ありえそうなことを事前に予測する」ことからはじまるから。

 わたしはサポートが仕事で技術者ではありませんから、技術的なことはわかりませんが、周囲を見ていても、プログラマの重要な能力に「予測力の高さ」があるというのは、わかります。
 そして、その「予測力」は、「事前に気づいていれば」と言う後悔の数でもあります。

 バグを指摘されたときに逆ギレするようなプライドの高さは当然無いほうがいいんですけども(極限状態だとキレちゃうのも仕方がない部分はある)、失敗したりバグを指摘されたりしたときに「ここは最初にふさいでおくべきだったな」と悔しがる人は、すごく優秀な人が多いです。もちろん「ハイハイ、バグね、見つかってラッキー」とウキウキ潰す人も優秀です。これは、内人タイプですね。

 つまり、創也と内人は、「究極のゲーム」を創リ上げられる可能性がある。しかし、その「可能性」が問題なのだ、と「頭脳集団(プランナ)」は判断した……

 考えた、のではなく「判断した」と言うのが恐ろしい。予測するのはいいが、行動に移すなよとも思いますが、そこはそれ、そうしないとお話は盛り上がりませんからね。

 最終的に創也は立ち直りますが、その立ち直り方がシンブルに「遊ぶ楽しさ」を体験することで自信を取り戻してゆく、と言うのも素敵です。男の子の「遊び」の原点は、こういうところにあるんだろうなあ。

 ITやゲームは新しい文化なので、ずっと社会では日陰者でしたが、こんなにストレートに「ゲームを創る」ってことを肯定してくれるとうれしくなります。今は、「ポケモンGO」など、身体を使うコンピューターゲームも生まれてきているので、「マチトム」の世界も、びっくりするような形で実現するかもしれません。

 今回は、創也と栗井栄太の対決がメインなので、栗井栄太さんたちご一行様は全員登場します。麗亜さんが、あいかわらず最強で素敵。ジュリアスと内人は少し、距離が縮まります。

 もちろん、「夢は保育士の最強サラリーマン」二階堂卓也さんも大活躍。

 異能のキャラクターが軽快なセリフを応酬する、謎めいたお話が好きな人にはおすすめのシリーズです。「カウボーイビバップ」とか「ジョジョシリーズ」とか少女漫画なら一条ゆかり先生の「有閑倶楽部」とかね。

 今回の「マチトム」のレトロネタは「エイトマン」。あの、令和だと絶対に放映できない、主人公のエネルギー補給アイテムが煙草という……さりげなく、ではなく、ばりばりにわかるように書いています。
 さりげないところには「機動戦士ガンダム」のシャアのセリフがぶっこまれてます。わたしは年寄りなのでわかりますが、むしろ、最近のネタを入れられたらわからないと思います。
 いったい、どこ向けてボール投げてるんだ……はやみね先生……。

 と言うわけで、親子二代、もしかしたら三代にわたって楽しめそうな冒険小説です。
 物語が始まってから、現在までのあいだに、リアルの科学技術が急激に進化しているので、それにあわせて作品もパワーアップしているのも面白いです。

 このまま「究極のゲーム」の完成を見届けてみたいと思います。

 ※この本には電子書籍もあります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。軽快で、テンポのいい、冒険小説です。異能の人たちがたくさん登場するタイプのお話です。「カウボーイビバップ」「有閑倶楽部」「ジョジョシリーズ」などが好きならおすすめです。

 毎回、シニアオタク向けのレトロネタが容赦なく入ってるので、世代間コミュニケーションのネタになるかもしれません。

 読後は、創也の好きなダージリンティーと麗亜さんの好きな酢昆布でティータイムを。

 

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