【ミシンの見る夢】針と糸とミシンで生きてゆく。女性の半生を描いた物語【中学生以上】

2021年12月13日

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ミシンの見る夢 ビアンカ・ピッツッオルノ/作 中山エツコ/訳 装画/Naffy   河出書房新社

19世紀のイタリア。両親を失った私は、祖母に育てられた。祖母が服の仕上げの簡単な仕事を私にさせるようになったのは、私が七歳のときだった……お針子の半生を描いた、ドラマチックで、力強い物語。

この本のイメージ お針子の時代☆☆☆☆☆ 女性の自立☆☆☆☆☆ 人生とは☆☆☆☆☆

ミシンの見る夢 ビアンカ・ピッツッオルノ/作 中山エツコ/訳 装画/Naffy   河出書房新社

<ビアンカ・ピッツォルノ>
1942年サルディーニャ島生まれ。イタリアにおける児童文学の第一人者。「あたしのクオレ」など児童文学、小説、エッセイなど50以上の著書があり、受賞も多数。大人向けの小説でも人気を博し幅広い読者をもつ。

<中山エツコ>
1957年東京生まれ。翻訳家。訳書に、E・モランテ「アルトゥーロの島」、D・ブッツァーティ「モレル谷の奇蹟」、T・ランドルフィ「月ノ石」、「ムナーリの機械」など。

<Naffy>
イラストレーター。
 書籍の装画や、童話の挿絵、ショッピングモールのイベントビジュアル、日本・デンマーク国交樹立150周年記念アンデルセン展 」(2017~2018年)のメインビジュアルなどを手掛ける。
 同時に展示を通して個人の作品を発表し「きのこがうまれる夜」(2014)「Moment」(2017)など、絵のみで物語を伝える作品を制作。そして2019年の個展「Mou」で初の長編絵本を制作し出版に至る。

ミシンの見る夢 ビアンカ・ピッツッオルノ/作 中山エツコ/訳 装画/Naffy  河出書房新社

 「ポリッセリーナの冒険」など、いくつもの名作を生み出すイタリアの作家、ビアンカ・ピッツォルノの大人向け小説です。このサイトとしては少し年齢が高いかなと思ったのですが、名作だったので、「中学生以上」としてご紹介。

 原題は、Il sogno della macchina da cucire.  イタリアでの初版は2018年。日本での初版は2021年3月です。

 ファンタジーとかではなく、お針子である主人公の女性の半生を描く、女性の自立の物語です。「赤毛のアン」の成人編などが好きな方にはおすすめです。

 あらすじは……

 主人公の「私」は、5歳のときにコレラで両親を失い、お針子の祖母に育てられました。そこで、7歳から簡単な裁縫を教えられ、その後は祖母の助手として縫い物の仕事を請け負うようになります。

 雇い主のエステルお嬢様にかわいがられ、当時最新の裁縫器具だったミシンを買ってもらい、技術を上げ、祖母の死後も、一人でお針子として生きてゆこうとする彼女に、様々な苦難が降りかかります。

 世の中の仕組みもよく知らないまま、手探りで、技術一つで生きて行く……

 これは、そんなひとりの女性の物語。

 リボンやピンタック、レースでいっぱいの華やかな世界ながら、甘くない、ちょっとビターな、波乱万丈の物語です。日本なら、朝や昼間の連続ドラマになりそうなお話。

 お話は、六つの章とエピローグで構成されています。エピソードは、当時じっさいに起きた事件や伝え聞いたお話を脚色してつなぎ合わせて物語にしたそうで、非常にリアル。

 だからかもしれませんが、この小説の「わが命、わが心」と「至高のエレガンス」は、若い頃誰かから聞いた気がするんですよね……。
 特に女中さんが空箱持って走るっていうエピソードが。
 お嬢様の命を守るために扉にかんぬきかけて、アラバスターの置物を握って待ち構えるところは、もしかしたら「銀河英雄伝説」の記憶かもしれないんだけども。(ここ、猛烈に好きです)

 わたしは、幼い頃は身近にお針子さんがいた世代なので、この本は懐かしい気持ちになりました。
 昔は、服は全部縫ったんですよ。下手でも。お店で売っているのは服ではなく布だったので。
 ただ、わたしの年代は時代の移行期なので、わたしが思春期になる頃にはすっかり既製服の時代でした。あっと言う間に「つくるより買ったほうが安い」時代になりましたね。
 いま、電話があっと言う間にスマホに置き換わっているスピードと似ています。時代の転換は一瞬に近かったのです。

 日本の着物はまっすぐ縫うだけで完成しますが(ほどいたら布にもどると言う優れた構造でもある)、ヨーロッパのドレスはコルセットなどがあり複雑なデザインだったので、お針子というのは特殊技能でした。馬を飼ったり乗ったりするのが、現代の自動車免許以上に特殊技能だった時代の物語です。

 そう、本当に、ほんのちょっと前は、西洋では日常的に馬に乗ってたんですよね。

 これは女性の自立の物語です。と、同時に、19世紀の封建的な社会で女性が生きてゆくことはどんなに困難だったかも真正面から描いています。最近は、当時のお話だとしても、小説やドラマでもかなりマイルドになっているので、ここまでしっかりと書いてあるのは貴重な話でもあります。

 女性用のドレスを作るお針子と男性用の服を作るテーラーでは完全に別の世界だったことや、どんなに激務でも女中や召使とはちがい、お針子は通いか持ち帰りの仕事だったことなど、当時のお針子事情が詳しく書かれており、それも興味深い。

 西洋の上流階級の縫い物の量って、とんでもないですよね。服だけでなく、カーテンやテーブルクロス、ベッドカバーや枕カバー、クッションなどなど、ありとあらゆるものが布で出来ており、そして、使っていれば痛みもほころびもする。

 また、縫い物をするお針子とは別に、よく似た職業として「刺繍子」と言う職業もあったようです。あれだ、西洋のいいおうちは、持ち物すべてに家紋やイニシャルが刺繍されているのだ……。染めではなく。もう、めまいがします。

 貧しいお針子だった幼い「私」は、仕事先の嬢様から読み古した新聞の束をもらい、字を覚えます。お嬢様が読みあきた雑誌やカタログをくれるようになり、やがては小説も読めるようになりました。でも、当時、「小説を読む女性」の評価は低く、「けしからん」という認識でした。

 そんな彼女が、賢くて美しいエステルお嬢様と出会い、固い友情でむすばれ、そして、年頃になって恋をしたり、世の中の理不尽と戦ったりして、力強く生きてゆきます。

 このエステルお嬢様というのが、女性の憧れを凝縮したようなお嬢様で、かなりかっこいい。その後登場するキャラクターも魅力的な女性が多く、それだけに、すべての人が幸せに生きられるわけではない厳しい展開に胸が痛むこともあります。

 今よりもずっと貧困も病も身近にあり、突然に降りかかる災難や理不尽に抗うことが、女性にとってどんなに難しいことかも詳細に描かれています。

 何もしていない、むしろ向こうからやってきた運命に巻き込まれた「私」が、一方的に強力な力で罪を創りあげられ、あわやと言うところで大逆転するストーリーは、かなりドラマチック。けれど、そこで「めでたしめでたし」とならないところもリアルです。

 ちょっぴりビター。でも、不思議と読後感は悪くありません。現実的なハッピーエンドです。

 フリルやレース、ピンタックにあふれているけれど、骨太の物語です。振り仮名がほぼないので中学生以上対象ですが、生きてゆくことについて、真剣に考え始めた女の子なら、何歳からでも。

 「赤毛のアン」シリーズの成人編以降がお好きな方なら、好きだと思います。また、朝や昼の連続ドラママニアの方(古風なシリーズのほう)や、シニア世代ならば里中満智子先生のファンならきっとはまると思います。

 この冬、おうち時間に、または公園でのひとやすみに、おひとりカフェタイムに。読み応えのある一冊です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はあるにはありますが、気をつけて書かれています。大人向け小説ですが、色っぽいシーンはないので、中学生からでも大丈夫です。女性の自立を真正面から描いた骨太の物語です。

 この本はカフェで読みたくなる本です。綺麗なカバーをつけてカフェのテラス席で、カプチーノかココアをお供に、ゆったりと。おひとり時間をお楽しみください。

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