【きつねの橋】人を化かすきつねと人間との交流。新感覚の平安ファンタジー【小学校中学年以上】

2024年3月20日

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きつねの橋 久保田香里/作 佐竹美保/絵 偕成社

時は平安。平貞道は、今日の都で一旗上げようと、源頼光の郎党となりました。あるとき、ひょんなことから妖怪白狐、葉月と知り合い、交流が始まります…… 歴史上の人物も登場する、新感覚の平安ファンタジー。

この本のイメージ 和ファンタジー☆☆☆☆☆ 平安時代☆☆☆☆☆ 妖狐☆☆☆☆☆

きつねの橋 久保田香里/作 佐竹美保/絵 偕成社

<久保田香里>
岐阜県に生まれる。現在は長野県に在住。
第3回ジュニア冒険小説大賞に応募。『青き竜の伝説』大賞受賞。作品は岩崎書店より刊行。「氷石」で第38回児童文芸新人賞受賞。ほかに「緑瑠璃の鞠」「駅鈴」「根の国物語」「天からの神火」などを刊行。

<佐竹美保>
富山県生まれ。
SF・ファンタジーの分野で多くの作品の表紙、さし絵を手がける。おもな仕事に「宝島」「不思議を売る男」「西遊記」「三国志」など渡辺仙州編訳の中国古典シリーズ、上橋菜穂子と組んだ「虚空の旅人」「蒼路の旅人」など「守り人」シリーズ、ほか内外の多数の作家から厚い信頼を寄せられている挿絵画家。

 初読です。2019年初版。

 日本は自然信仰の国なので、民間伝承や昔話などに、人間と動物の交流異聞が数多く言い伝えられています。とくに、平安時代の物語に多く、それはその時代がもっとも現実社会とオカルトが融合していた時代だからです。

 オカルトと言うのは、令和の現代だと、非科学的な迷信と言うカテゴリーに入りますが、その当時においては、科学と同様の扱いでした。れっきとした学問だったのです。

 天文学、暦、医学、薬学などが融合したものが当時のオカルトであり、都の帝に仕える正規の術師が行うものは「陰陽道」、それを扱うものは「陰陽師」と呼ばれました。

 日本の陰陽師で最も有名なのは、フィギュアスケートの羽生結弦選手が題材にしたことでも知られる「安倍晴明」。彼の母親は「葛の葉」と言う狐だと言い伝えられています。当時、人間と狐は結婚するほど近しい存在でした。葛の葉伝説を題材にした児童文学には、富安陽子先生の「シノダ!」シリーズが有名です。また、人間に化ける妖狐の物語には「白狐魔記」があります。

 このお話は、安倍晴明の葛の葉伝説にインスパイアされた、平安ファンタジー。

 主人公は、平貞道。京の都で一旗上げようと、郷里から京に登ってきた侍です。彼は源頼光の郎党になり、警護の仕事を請け負っていました。

 あるとき、高野川の橋の上で、人を化かす狐、葉月と出会います。葉月が橋の上で人を化かしていたのにはわけがありました。やがて、葉月と親しくなった貞道は、親友の季武(すえたけ)とともに、葉月の守る紫野の斎院の姫と助けつつ、宿敵、盗賊袴垂(はかまだれ)討伐に乗り出すのでした……

 ……と、いうのがあらすじ。

 史実と、言い伝え、フィクションが絶妙に入り混じった和ファンタジーです。

 登場する白狐の名は「葉月」ですが、「葛の葉」を思い起こさせます。
 葉月は、貧しく不遇な斎院の姫のために女官に化けて尽くしており、彼女を通じて貞道が姫を助けることになります。この「姫を助ける物語」と、「都を騒がせる盗賊・袴垂を討伐する物語」がクロスオーバーして展開してゆきます。

 また、東三条殿の五の君(五男坊)も登場、幼いながら只者ではない雰囲気を漂わせています。彼こそは、後の藤原道長。安倍晴明の上司。

 そして、葉月を懲らしめようと術をかける陰陽師として賀茂保憲も登場。彼は、安倍晴明の師匠となる人物です。

 このように要所要所で「あっ、これはあの人かも」と言う歴史上の人物を配置しつつ、今昔物語にも登場する盗賊・袴垂も登場し、ドラマを盛り上げます。

 一見関係なかったふたつの事件が、だんだん一つにまとまってゆく後半の展開は、お見事。
 立ち上がりはオムニバスなのかなと思わせておいて、後半で見事に伏線回収、それぞれのエピソードがパズルのようにあわさり、ぱたんぱたんと閉じてゆくのが気持ちいい。

 ラストは、続編を期待させる終わり方です。つづきはあるのかな、と調べてみたら、今年の秋、出版されていました! 主人公は、かわらず貞道のようです。

 字はほどよい大きさで、用語は歴史用語を使っているので少し難しいですが、文体は平易で読みやすい文章です。簡単な漢字以外にはかなり手厚く振り仮名が振られているので、賢い子なら小学校中学年から読めると思います。たいへん読み応えがあるので、大人も楽しめます。

 あの、安倍晴明の両親の話、と思って読むと面白さ倍増ですよ。

 ※この本には電子書籍もあります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はほとんどありません。活劇シーンも、残酷・流血描写はなく、気をつけて書かれています。
 貞道は無骨な武人ですが、やさしいところがあり、心の交流や心理描写も描かれていて、気持ちのいい小説です。オカルト要素はありますが、怖くはありません。

 読後は温かい緑茶と落雁でひとやすみしてくださいね。

 

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