【炉辺荘のアン】赤毛のアンシリーズ六冊目。ギルバートと結婚したアンと子どもたちの物語【赤毛のアンシリーズ】【中学生以上】

2024年1月26日

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炉辺荘のアン  モンゴメリ/作 松本侑子/新訳 文春文庫


ギルバートと結婚したアンは、三男三女とともに炉辺荘で暮らしています。医師であるギルバートを支え、子どもたちを育てる、小さな幸せを大切にする日々……アン34歳の、アンと小さな子どもたちの日常物語です。(炉辺荘のアン  モンゴメリ/作 松本侑子/新訳 文春文庫)

この本のイメージ 日々の幸せ☆☆☆☆☆ アンファミリー物語☆☆☆☆☆ ハッピーエンド☆☆☆☆☆

炉辺荘のアン  モンゴメリ/作 松本侑子/新訳 文春文庫

<モンゴメリ>
ルーシー・モード・モンゴメリ(Lucy Maud Montgomery、1874年11月30日 ~1942年4月24日)はカナダの小説家。「赤毛のアン」の作者であり、本作を第一作とする連作シリーズ「アン・ブックス」で知られている。国際的に親しまれる英系カナダ文学の草分け的人物であり、日本で訳書が出版された最初のカナダ文学者。(Wikipediaより)

<松本侑子>
松本侑子(まつもと・ゆうこ)作家・翻訳家。島根県出雲市生まれ、筑波大学社会学類卒、政治学専攻。1987年、「巨食症の明けない夜明け」ですばる文学賞を受賞して作家デビュー。訳書に、シェイクスピア劇やアーサー王伝説などの英米文学と聖書からの引用を海外の図書館で多数解明して解説した日本初の全文訳・訳註付「赤毛のアン」シリーズ(文春文庫)が刊行中。

 「炉辺荘のアン」は赤毛のアンシリーズ六作目、原題はAnne of Ingleside. 本国初版は1939年です。
 日本での初版は、村岡花子版が2008年、そして、今回ご紹介する松本侑子版が、2021年です。

 「赤毛のアン」は、主人公アン・シャーリーの成長物語で、どこから読んでも楽しく読めるものの、アンの人生を時系列に追ったほうがわかりやすいので、まずは「赤毛のアン」からお読みください。

 「赤毛のアン」のレビューはこちら

 今回は、オールスターキャストで、なんだか「堂々の最終回」みたいなお話だなあ、と思って読んでいたら、この本、モンゴメリが生前最後に書いた物語だったようです。物語の年代的には途中なのですが、不思議なフィナーレ感があるんです。

 時代的には、ちょうど第一次世界大戦の前、世界が平和につつまれていた頃の物語で、アンとギルバート、そして、三人の息子と三人の娘たちの、大家族の幸せな日々が描かれています。

 アンの子どもたちは、優秀なギルバートと想像力の塊のようなアンのあいだに生まれただけあって、全員、感受性が豊かで想像力がたくましい。けれど、ブライス夫妻は、子どもたちの感性を抑圧することなく、のびのびと大切に育てています。

 特に大事件があったり、大きな物語の山や谷があるわけではなく、お母さんになったアンの彼女らしい子育てや、子どもたちの、まさにアンの血を引き継いだと思える、ほほえましいエピソードの数々。これから戦争の時代に突入することを考えなければ、まさに、完璧なハッピーエンドです。

 孤児として生まれ、突拍子もない想像力を友にして、過酷な生い立ちを楽しく生き抜いてきたアン。
 優しいカスパートきょうだいに育てられ、勉学にいそしみ、大学でも優秀な成績をおさめ、そして、自分の意思で結婚相手を選び、結婚したアン。

 それまでのアンは、子ども時代、学生時代、大学生時代、教師時代と、つねに、自立して向上してゆく女性でした。だから、その流れでこのお話を読むと、一見、とても保守的な、伝統的な枠にアンがすっぽりと収まってしまったような錯覚を感じる方もいるかもしれません。

 「炉辺荘のアン」では、アン・ブライスは、医師ギルバート・ブライスの妻として、三男三女を子育てし、家を守り、きりもりする良妻賢母です。

 ところが、この物語が、モンゴメリにとって生前最後に書いたアンの物語であること、書かれた時代が第二次世界大戦の時代であること、そして、物語中の年代的には「炉辺荘のアン」のあとは、第一次世界大戦が始まってしまうことを考えると、まったく別の側面が見えてきます。

 ささやかな市井の人間にはどうすることもできない、大嵐がやってくるまえの、かけがえのない幸せな日々。

 子ども時代は尊い。親にとっても、子どもにとっても。成長した子どもたちは、遅かれ早かれ親のもとを離れ、過酷な世界に旅立ってゆく。だから、ささやかだけれど宝物のように貴重なこのときを大切にしましょう……

 そんなモンゴメリのメッセージが感じられるのです。

 終始「幸せとはこういうものだ」と言う、ほほえましいエピソードがちりばめられています。
 冒頭のアンとダイアナの久しぶりの再会、いくつになっても変わらぬ二人の女子トークと、ラストのギルバートの元カノ、クリスティーンの登場でちょっぴり心が乱れるアンとギルバートのエピソードにはさまれて、アンファミリーの日々のささやかな事件が淡々と語られます。

 平和な時代には、せいいっぱい学び、働き、駆け回るように人を支え、助けてきたアンを描いていたモンゴメリが、動乱の時代には足元のささやかな幸せを大切にするアンを描く。

 表面的にはまったく正反対の女性の生き方を描いているようでいて、モンゴメリの心には、ゆるぎない信念が感じられます。やはり、アンは女性の自己実現の物語なのです。

 アン以外の女性たちも、魅力的に描かれています。
 前半で「生きる災厄」のような存在として猛威を振るうメアリ・マリアおばさんの強烈な悪役ぶり。悪人ではないのに悪役と言う、絶妙なキャラクターです。心優しいお手伝いさんスーザンと、「風柳荘」のレベッカ・デューの固い女の友情もほほえましい。ひさしぶりの「腹心の友」ダイアナには、読んでいるだけで同窓会気分のおすそわけをしてもらえます。

 また、この本の冒頭には「W.G.Pへ」と言うささやかな献辞があります。

 W.G.Pとは、ギルバート・ブライスのモデルになった、モンゴメリの親友ウィラード・ガン・プリチャードのこと。プリンス・エドワード島で育ったモンゴメリが、十代の頃一時的にカナダ本土で暮らしていた時に、最も仲良くしていた男の子の大親友でした。
 しかし、モンゴメリが島に戻ることになり、ふたりは離れ離れになります。その後もふたりは文通を続けていましたが、ウィルは24歳のとき、突然インフルエンザをこじらせて死んでしまいます。

 ふたりのエピソードは、巻末の解説で詳しく書かれており、これを頭に入れてから読み返すと、この淡々とした日常の物語は、親友の死や大きな戦争を経験したモンゴメリが人生の最後に書き残そうとした「アンの物語」の締めくくりとして、胸にせまるものがあります。

 人ははかなく消えてしまうけれども、一瞬一瞬はかけがえのない宝物なのです。

 文春版のアンシリーズは、装丁もかわいらしく、今回は、イギリスのお菓子「ローリーポーリー」(アンの娘リラのニックネーム)とティーセット、編み物と猫がモチーフになっています。イチゴジャムのような赤もかわいい。

 少女小説としても楽しむことができ、大人がノスタルジーに浸りながら読むこともできる、中学生以上なら何歳でも楽しめる物語です。

 寒い冬、温かいお茶とひざかけをお供に、ゆったり読むのがおすすめの本です。

※この本は、電子書籍もあります

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。日常のささやかな幸せを描いた物語です。子どもたちが、それぞれ、子どもらしい悩みを抱えて真剣に苦しむのを、アンが馬鹿にすることも軽んじることもなく、母親の愛と知恵を総動員して適切な言葉をかけ、悩みから解放してあげる姿に、こちらまで心が洗われます。

 読後は、ローリーポーリーと、温かい紅茶でティータイムを。スーザンの金銀ケーキもおいしそうですね!

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