【なまえのないねこ】猫好きさんに。そして、すべての人に。なまえがない猫のほしかったものは……【絵本】【子どもから大人まで】

ぼくはねこ。なまえのないねこ。だれにも なまえをつけてもらったことがない。なまえで呼んでもらったこともない。なまえってなんだろう? 名前のないねこが、自分の名前をもとめてさすらった後に、たどりついた場所は……
この本のイメージ ねこかわいい☆☆☆☆☆ 自分とは☆☆☆☆☆ 本当にほしかったもの☆☆☆☆☆
なまえのないねこ 竹下文子/文 町田尚子/絵 小峰書店
<竹下文子>
1957年、福岡県生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。
作品に「黒ねこサンゴロウ」シリーズ(偕成社)、「風町通信」「木苺通信」(ポプラ文庫ピュアフル)、「ひらけ! なんきんまめ」「旅するウサギ」「にゃんともクラブ」「ちいさなおはなしやさんのおはなし」(小峰書店)などがある。
<町田尚子>
1968年、東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部卒業。
作品に「ネコヅメのよる」(WAVE出版)、「さくらいろのりゅう」(アリス館)、「いるのいないの」「あずきとぎ」(京極夏彦・作/岩崎書店)、「おばけにょうぼう」(内田麟太郎・文/イースト・プレス)などがある。
本日ご紹介するのは、「黒ねこサンゴロウ」など繊細なファンタジーで知られる竹下文子先生と、猫を描かせたら天下一品、「ネコヅメのよる」の町田尚子先生の絵本、「なまえのないねこ」です。初版は2019年。
これは、夢のタッグではないでしょうか。いやもう、表紙がすでにかわいい。
主人公のねこは野良猫。
名前が無く、「こねこ」とか「ねこ」とか呼ばれています。でも、街のねこたちには、みんな名前がある。ぼくも名前が欲しいな、とねこは思います。
「すきな名前を自分でつければいいじゃない」と言われ、自分で自分に名前をつけようとしますが、なんだかしっくりきません。雨がざあざあ降るなか、ねこは思います。自分のほんとうにほしかったもの、それは名前だったのかな……
……と、言うお話。
自分ってなんだろう、本当にほしいものってなんだろう。
かなり、哲学的なテーマです。
絵本でこういうテーマに取り組むというのが、さすが「黒ねこサンゴロウ」の竹下先生。「黒ねこサンゴロウ」も、小学校低学年向けにしては、かなり繊細で、深い内容です。
小さな子どもの頃に、この絵本の内容がストンと来る子は、かなり大人びているような気がします。逆に、大人は涙ぐんでしまう人もいるかも。
「自分とは何か」とか、「生きるとは何か」にも通じるような気がします。
もしかしたら、名前って、「どんな名前か」が重要なのではなくて、「誰がどんな想いでその名前をつけたか」が大切なのかもしれません。
作品中には様々な名前の様々なねこが登場します。みんな飼い猫で、ちょっと太めで、幸せそう。二人の飼い主がそれぞれ勝手に名前をつけて、ふたつ名前を持っている猫もいます。
小さなお子さまなら、「名前ってなんだろう」「どうして自分でつけないんだろう」と考え、考えながら読み、大人が読むとしみじみと、感じるものがあるかもしれません。絵はとてもかわいくて、文章は少ない、ひらがなだけの絵本ですが、とても奥行きのある作品です。
就職をきっかけに一人暮らしをはじめた頃、同じ境遇の友達同士で、よく語り合ったことは「もう何日も『ただいま』って言ってないね」でした。子どもの頃に、毎日、条件反射のように口に出していた言葉ですが、一人で暮らしていると、口に出す機会が無いんですね。朝、無言で出かけ、無言で帰宅するのみ。
なので、オンラインゲームなどで、若い方たちがログインしたときに「ただいまー」と言ったり「おかー(おかえり)」と返したりしているのを見ると、なんとなく、気持ちがわかるのです。(て言うか、「おかえり」を「おかー」って言うの、死語ですか?それとも地域限定?)
なまえのないねこがほしかったのも、きっとそういうこと。そして、ねこは、最後にほしかったものが手に入りました。ほんとうによかった。
小さな子向けと言うよりも、大人のための絵本と言う感じです。猫好きさんへのプレゼントには、間違いなし。「いい本はかぶっても問題なし」の法則により、もし相手がすでに同じものをお持ちでも、問題なくプレゼントできます。「『好き』の達人は、好きなものは三つ持つ」と言う法則もありますからね。(三つの内訳は自分用、他人に貸す布教用、汚さないで保存するための保管用です)
お風呂上りのリラックスタイムに、お気に入りの温かい飲み物を飲みながら、ひとりでしみじみ、読むのがおすすめの絵本です。傍らに猫がいたら最高でしょう。猫がいなくても、読んでいるだけで猫のあたたかさを感じられます。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
HSPやHSCの方におすすめの絵本です。子ども向けの絵本のように見えますが、かなり深いテーマを扱っているので、感じやすいHSCのお子さまのほうが、多くのメッセージを受け取れるでしょう。
大人が読んでも、気づきを得られます。
猫の絵が、とにかくかわいく、様々なねこが登場しますが、みな愛情にあふれたあたたかい筆致で描かれており、それぞれが魅力的です。子どもには、深い思索を与え、大人には気づきと癒しを与える絵本です。親子での読み聞かせにも、おすすめです。
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