【のろいまんじゅう】デマにはどう立ち向かう?気の短い菓子屋の若旦那と奉公人の男の子ががんばる、お江戸パティシエ物語。第二巻【お江戸豆吉】【小学校中学年以上】
短気すぎて、修行のために外へ出された若旦那と一緒に小さな店をはじめた豆吉。菓子の味は天下一品なので、常連客もつき順調だったのですが、ある日、青白い顔の変な男が放った一言が、たいへんな騒ぎを引き起こしてしまいます……
この本のイメージ お江戸時代劇☆☆☆☆☆ 和菓子☆☆☆☆☆ これぞマーケティング?☆☆☆☆☆
のろいまんじゅう お江戸豆吉 桐生環/作 野間与太郎/絵 フレーベル館
<桐生環>
静岡県出身。本とちょんまげ好きがこうじて、子ども向けの時代物創作を始める。賞歴に、第15回小学館「おひさま大賞」童話部門・最優秀賞「コイになった とのさま」(「おひさま」本誌、おひさまセレクション「楽しくなっちゃうおはなし16話」に掲載)。第2回フレーベル館ものがたり新人賞優秀賞を受賞し、本作が初の出版となる。好きな和菓子は、みたらし団子。
<野間与太郎>
岡山県出身。児童書の挿絵、学習まんが、広告まんがなどを手がける。主な作品に「学習まんが日本の伝記SENGOKU 明智光秀」(集英社)、「幕末明治サバイバル! 小説・渋沢栄一」(KADOKAWA)など。好きな和菓子は、豆大福。
桐生環先生の、新感覚時代劇、「お江戸豆吉」シリーズ第二弾、「のろいまんじゅう」です。初版は2021年。
前作「けんか餅」の続きになります。お話は一話完結ですが、最初からお読みになったほうが、人物の関係などわかりやすいので、できれば第一巻「けんか餅」からお読みください。
「けんか餅」のレビューはこちら↓
ストーリーは……
さて、ありとあらゆるものに腹を立て、ケンカを売る短気な菓子職人の若旦那と二人で小さな店をはじめた豆吉。若旦那のお店も、薄皮餅の大福と、もちの分厚い「けんか餅」、そしてせいろで蒸したおまんじゅうがなかなか好評で、順調です。
とこがあるとき、青白い顔の男が若旦那のおまんじゅうを指差して「のろいまんじゅうだ!」と叫んだことから、変なうわさが立ってしまいました。
罪もないおまんじゅうに呪いの濡れ衣を着せられた若旦那。豆吉は、どうにかしたいと考えます。
そんな若旦那たちを助けようと、浄安寺の一玄和尚と小坊主の栄祥、火消しの辰五郎、髪結いのお竜姐さん、そしてお駒ちゃんが団結して、計画した秘密の作戦。
さて、若旦那のまんじゅうの濡れ衣は晴らせるのでしょうか?
……と、いうのがあらすじ。
表紙に、新キャラ一玄和尚が登場しています。美貌の僧侶なのですが、意表をつくキャラクター。
最初、表紙絵を見たときは、若旦那のまんじゅうに呪いをかける悪の僧侶なのかしら……と、勝手に想像していたのですが、いい意味で想像を飛び越えていました。
一玄和尚、善い人なのです。そして、かなり頭がいい。この方が今回、若旦那のために大活躍してくださいます。
青白い顔の男、留次郎も悪い人ではありません。誤解に継ぐ誤解で、若旦那のまんじゅうを「のろいのまんじゅう」と思い込んでしまっていたのです。
しかし、この「ふとした一言」が尾ひれがついて広まってしまいました。おまけに読売(当時のかわら版新聞)にも、「のろいまんじゅう」の根も葉もない作り話が載る始末。
不名誉な噂で縁起の悪いまんじゅうになってしまった若旦那のおまんじゅうの評判を上げるために、豆吉チームが頑張ると言うのが今回のお話です。
これ、現代でもありますよね。ひょんなことで、SNSなどで事実ではない噂が拡散されてしまう。あれよあれよと言ううちに話がどんどん大きくなって、ネットニュースになってしまったり……
そうなってしまうと、一人や二人の力で「それはちがいますよ」と訂正して回っても、どうしようもありません。
この難しい事態を、一玄和尚が一計を案じて、解決してくれます。ごめんなさい、悪役なんて思っちゃって。人間の先入観って、こわいですね(海より深く反省)。
時代劇と言う設定ながらお話はかなり現代的。一玄和尚の解決方法も「そうきたか!」とうならされます。「けんか餅」は純粋な日常時代小説として面白かったのですが、「のろいまんじゅう」はSNS社会の風刺のようでもあり、そこがさらに面白い。
お話は六つの章に分かれており、合間に「豆吉のお江戸豆ちしき」が挿入されています。
キャラクターは、一巻に続いて、今回も濃いキャラばかり。
個人的にいいなとおもうのは、怒ってばかりいる若旦那は菓子の腕は天下一品、おびえてばかりの留次郎は優秀な絵師など、登場する人物たちが欠点ばかりではないところ。
おそらく、短気な若旦那は未熟な自分にも腹を立てて修行をがんばったのでしょうし、怖がりの留次郎は感受性が鋭いので良い絵が描けるのでしょうね。
まだまだ未熟な豆吉も、若旦那から蒸しまんじゅうの作り方を教わり、がんばります。
簡単な漢字以外には振り仮名が振ってあり、字もほどよい大きさなので、小学校中学年から。でも、大人が読んでも楽しく読めます。
菓子をきっかけに、若旦那と豆吉の周りの人の輪がどんとん広がってゆく展開で、読むと心がほっこりします。怪談や捕り物のような深刻な要素は無く、日常の問題を解決しつつ心の交流を描く、昔懐かしいホームドラマのような物語。
舞台はレトロなのに、題材はわりと現代的で、小さなお子さまには共感できるところも多いかもしれません。
SNSに疲れたときは、デジタルから離れて、読書で癒されてみてくださいね。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。今回は少しだけ謎解き要素がありますが、暴力や流血などのシーンはいっさいない、さわやかで優しいお話です。SNSで疲れきっているお子さまにおすすめ。
大人が読んでも面白く、さっぱりとしているので、週末の大人の和み本としても。
読後は、おいしい大福とおまんじゅう、そして緑茶でティータイムを。
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