【火狩りの王】もうすぐアニメ化! 終末後の世界を救うのは誰?怒涛のダークファンタジー第2巻【影ノ火】【小学校高学年以上】
首都にたどりついた灯子たちは、想像とはかけ離れた様子に愕然とする。一方、煌四は養父である油百七の真の野望に気づきつつあった。これで本当によかったのか……緻密な世界観のダークファンタジー第2巻!
この本のイメージ 緻密な世界設定☆☆☆☆☆ ダークファンタジー☆☆☆☆☆ 世界の謎☆☆☆☆☆
火狩りの王 <二>影ノ火 日向理恵子/作 山田章博/絵 ほるぷ出版
<日向理恵子>
児童文学作家。主な作品に「雨ふる本屋」シリーズ、「魔法の庭へ」(いずれも童心社)、「日曜日の王国」(PHP研究所)など。日本児童文学者協会員。
<山田章博>
漫画家、イラストレーター。主な漫画に『ロードス島戦記~ファリスの聖女~』、挿絵に「十二国記」シリーズ(小野不由美著、新潮社)、「ドリームバスター」シリーズ(宮部みゆき著、徳間書店)など、作品多数。第27回星雲賞(アート部門)受賞。
もうすぐアニメ化が予定されている、日向理恵子先生の「火狩りの王」第2巻です。初版は2019年。
非常に緻密な世界観の本格ファンタジーで、バイオレンスシーンも真正面から描かれており、容赦なく人が死にます。終末後の苛酷な環境で、死と隣りあわせで懸命に生きる少年少女と世界の謎を描いています。
ストーリーは……
最終戦争後の世界。人体発火病原体に犯された人類は、「ほんものの火」が少しでも傍にあると燃えてしまう体質に変貌してしまっていた。この世界で、「火」として人類が扱えるのは、黒い森に巣食う「炎魔」と呼ばれる獣を倒したときに体内から取れる金色の液体のみ。
犬を連れ、炎魔を倒して火を採集する人々は「火狩り」と呼ばれた。
黒い森で「炎魔」に襲われ、自分を守って死んだ火狩りの形見を遺族に届けるために村を出た灯子は、ついに首都にたどりつく。しかし、そこは灯子が夢見たような地ではなく、荒廃した世界だった。
一方、首都の偽肉工場の主、油百七の養子になった煌四は、屋敷の地下室でひそかに「雷火」を兵器にする研究をするよう指示されていた。しかし、研究を続けるうち、油百七には別の目的があるのではと疑いを持つようになる。
この世界はいったい、どこへ向かおうとしているのだろうか……
……と、いうのがあらすじ。
お話が完全に続いていますので、まずは、「火狩りの王 <一>春ノ火」からお読みください。「火狩りの王 <一>春ノ火」のレビューはこちら↓
灯子の年齢が11歳なので、対象年齢は小学校高学年だと思いますが、流血シーンなどは真正面から描かれており、人もたくさん死にます。ただ、最近は、「少年ジャンプ」などでも過酷なダークファンタジーが多いため、若い子たちでも問題なく読めるのかもしれません。
緻密に計算された構成と世界観で、善と悪に簡単に別れる安易な勧善懲悪ではなく、歴史の流れのように世界を俯瞰するストーリーです。
主人公たちが非常に歳若いためライトノベルにありがちな恋愛要素がないぶん、一途な想いに満ちていて、それが過酷な世界設定とあいまって、胸を掴まれます。無念に散ってしまう子たちも、懸命に生きる子たちも、みな純粋なのです。
そのまっすぐな気持ちを利用する大人たちもいれば、精一杯守ろうとする大人たちもいます。
しかし、いい人だから報われるわけでもなく、悪い人だから罰を受けるわけでもない、非情な世界の物語です。
子ども向けの物語は何かしらのわかりやすい因果応報が込められることが多いので、ここまで善良な人々の報われなさと理不尽さ、そして、それらに立ち向かう少年少女を真正面に描いた物語には、覚悟を感じます。
今回、わたしのなかでの最大のハイライトは、煌四が綺羅のために油百七と交渉するシーン。まだまだ子どもと言ってもいい年齢の14歳の煌四が、海千山千の実業家と堂々と駆け引きをします。
それまでは、病気の妹とともに生活の面倒をみてもらい生殺与奪の権利を握られている、恩も義理もある圧倒的な権力をもつ相手に何の疑問も持たずに従っていただけの煌四が、はじめて自分自身の判断で相手と交渉する場面です。
また、灯子のほうもついに鎌を持って戦いの場に出ざるをえなくなりました。否応無く成長する子どもたち。
そして、少しずつ、明らかになってゆく世界の謎……
一応、主人公は灯子と煌四ですが、世界全体の歴史の流れを追う群像ものなので、彼らを取り巻く人々のことも、それぞれ掘り下げて描かれています。湯百七の娘綺羅、煌四の妹緋名子、灯子たちと一緒に首都へ来た少女火穂、少女火狩りの明楽など、ヒロインたちも魅力的。
漢字は多いのですが振り仮名はそれなりにあります。ただし、固有名詞に難しい漢字が多いので、ファンタジーに慣れていない場合はメモを取りながら読むとわかりやすいでしょう。ボリュームがあり読み応えがある小説です。
面白いのですが読むのに体力を使います。古い世代なら「機動戦士ガンダム」「エヴァンゲリオン」今なら「進撃の巨人」など、シビアなお話が好きな方に。
神族も登場し、ようやく世界の謎が少しだけ見えた第2巻。続きを読むのが楽しみです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
非常に緻密な世界観の本格的なダークファンタジーです。暴力・流血シーンもぼかさずに書いているため、そういう描写が大丈夫な方にはおすすめです。
単純な勧善懲悪ではないので、理不尽な世界に立ち向かう少年少女の純粋さが際立ちます。読むのに体力気力が必要になりますが、面白いので万全のときにお読みください。
読後は、揚げ団子とプアール茶でティータイムはいかがでしょう。雰囲気ぴったりです。
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