【パディントン、テストをうける】クマと暮らす幸せな日常の日々。名作児童文学、出版社を変えてシリーズ11巻目。【くまのパディントンシリーズ】【小学校中学年以上】
あいかわらずのパディントンの日常は騒動ばかり。今回は、どういうわけか車の運転のテストを受けたり、大きなお屋敷の音楽会に行ったり、アイロンかけに挑戦したり……大失敗しても、でも大丈夫!
この本のイメージ クマと暮らす☆☆☆☆☆ 短編集☆☆☆☆☆ 変わらぬ日々☆☆☆☆☆
パディントン、テストをうける マイケル・ボンド/作 ペギー・フォートナム R.W.アリー/絵 三辺律子 /訳 WAVE出版
<マイケル・ボンド>
Michael Bond(1926年1月13日~2017年6月27日)。イギリス・バークシャー州、ニューベリー出身の小説家。代表作は児童文学『くまのパディントン』シリーズ。
<ペギー・フォートナム>
1919年、イギリスで生まれた。ロンドンの美術工芸セントラルに在学中、ハンガリーの出版社の依頼でエリナー・ファージョンなど子どもの本にさし絵を描いたものが好評で、引き続きさし絵やポスターの仕事をする。
<三辺律子>
英米文学翻訳家。フェリス女学院大学・白百合女子大学講師。「夢の彼方への旅」の翻訳で2008年度やまねこ賞受賞。他の訳書に「龍のすむ家」「モンタギューおじさんの怖い話」「緑の霧」など多数。
イギリスからやってきた「くまのパディントン」シリーズ、第11巻目「パディントン、テストをうける」。原題はPaddington Takes The Test.イギリスでの初版は1979年。日本の初版は2017年です。
パディントンのシリーズは、10作めまでは福音館から出版されており、以降はWAVE出版から出版されています。マイケル・ボンドのパディントンシリーズは全部で15作。13作めまでは日本で翻訳されていますので、残りの2作も翻訳されるといいですね。
お話は、一話完結の短編集が多いので、どの巻から読んでも楽しめるのですが、パディントンがブラウン家に引き取られたいきさつなど、最初の設定を理解して読んだほうがわかりやすいと思います。最初から順番に読みたい方は、まずは第1巻「くまのパディントン」からお読みください。
「くまのパディントン」のレビューはこちら↓
今回のパディントンは、
・パディントン、テストをうける
・一難去ってまた一難
・パディントンと大きなお屋敷
・パディントン、ボーイスカウト活動をする
・パディントン、おこずかいをあげてもらう
・カリーさん、ストレス解消する
・クリスマス・パントマイム
の7本です。
パディントンのシリーズは、黄金パターンがあって、何か事件がおき、パディントンが人間の社会をよく知らないために、真面目にやるにもかかわらずむちゃくちゃになる、もう取り返しがつかないかと思ったら、びっくりするようなどんでん返しで、ハッピーエンド、と言う形です。
途中のむちゃくちゃがとんでもないので、これはどうにもならないのではないかと危ぶまれるのですが、どういうわけかちゃんと収まるところに収まるのです。
パディントンは、他人の言葉を言葉どおり受け止める癖があり、それがたいていとんだトラブルに発展します。ですから、当然、冗談が通じません。引き起こす大騒動が冗談みたいにはちゃめちゃなので、「おもしろいクマ」の話かといったらとんでもない、「真面目なクマ」が引き起こす「おもしろいお話」なのです。
むしろ、パディントンに「君はおもしろいね」なんて言ったら、気を悪くしてにらまれてしまうでしょう。
この「クマのにらみ」と言うのがパディントンの強力な武器で、本気で気を悪くして相手をにらむ「眼力」は、人間に根源的な恐怖を感じさせるパワーがあります。
だからといって、何でもかんでもこの「にらみ」で言うことをきかせるクマではなく、いたって優しくて平和主義。いつだって一生懸命なのです。
今回は、パディントンが(そうとは知らず)車の運転免許のテストを受けることになってしまったり、大きなお屋敷の音楽会を見に行ったりとはじめとのことを体験します。
もう11冊目だと言うのに、まだまだ生まれてはじめての体験があるパディントン。そして、なんでも真剣に取り組むところや純粋なまっすぐさが憎めなく、ブラウン家の人々がパディントンを愛するゆえんなのでしょう。
今回から翻訳は三辺律子先生。
三辺先生の翻訳された本は、このブログでは「ルイスと不思議の時計」や「ジャングル・ブック」などを紹介しています。
いままでの福音館版のシリーズでの松岡享子先生の翻訳にかなり寄せてくださっていて、固有名詞の発音だけでなく、「クマ公」「ブラウンのだんな」など、パディントンの世界を支える「これこれ、これだよね」と言う言葉はそのまま。この愛がうれしい。
出版社が変わってもパディントンの「黄金パターン」は不動で、もはや「水戸黄門」(古い)のように、「いつもの感じ」で着地させてくれる、謎の安心感なのです。(いまだと、「プリキュア」でしょうか)
絵は、表紙が従来どおりペギー・フォートナムなのですが、ところどころR.W.アリーのフルカラーの挿絵も入っていて、なにげにゴージャス。
かわいくてゆかいなパディントンのシリーズの続きが読みたかった方は、こちらで楽しめます。
日本ではあと2作。そして、まだ未翻訳の作品があと2作。ぜひ最後まで読みたいものです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はまったくありません。
底抜けにおかしく、笑わせてくれる物語です。パディントンのやらかしが毎回壊滅的過ぎて、一時はどうなることかと思われますが、毎回、ちゃんと収まるところに収まります。
よく読むと、パディントンが「おかしなクマ」なのではなく、パディントン自身はいたつて真面目で純粋なクマで、人間と異種族間交流をすることで「おかしな出来事」がおきるだけなのだとわかります。
いつしか、パディントンの純粋さが愛おしくなり、ブラウンさんたちと同じ気持ちになってしまう、不思議なシリーズです。
読後は、イングリッシュティーでひとやすみ。
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