【大おばさんの不思議なレシピ】不思議なレシピブックで魔法グッズを作ると?おせっかいな女の子のどきどき大冒険【小学校中学年以上】
大おばさんが残してくれた、一冊のノート。料理から縫い物、編み物、自家製の湿布薬の作り方まで挿絵付きで丁寧に書いてある。でも、美奈がそれをつくると、突然奇妙な世界へと飛ばされてしまうのだ……
この本のイメージ 異世界?ファンタジー☆☆☆☆☆ トラブル解決?☆☆☆☆☆ ほのぼの☆☆☆☆☆
大おばさんの不思議なレシピ 柏葉幸子/作 児島なおみ/絵 偕成社文庫
<柏葉幸子>
日本の児童文学作家。岩手県宮古市生まれ、花巻市出身、盛岡市在住。東北薬科大学(現:東北医科薬科大学)卒業。本業は薬剤師。
大学在学中の1974年、「気ちがい通りのリナ」が第15回講談社児童文学新人賞に入選しデビューする。翌年「霧のむこうのふしぎな町」と改題し刊行。
<児島なおみ>
神奈川県葉山町に生まれる。米国Rhodes College卒業。絵本「空とぶおばあさん」でAmerican Institute of Graphic Arts絵本部門賞受賞。そのほかの絵本に「どろぼう夫婦」「うたうしじみ」「クリスマスソングブック」「アンドレのぼうし」「聖マグダレナ・ソフィア・バラ」、翻訳に「伝説の編集者ノードストロムの手紙」、さし絵に「少女ポリアンナ」「とび丸竜の案内人」「大おばさんの不思議なレシピ」「ドードー鳥の小間使い」「バク夢姫のご学友」等がある。
初読です。
「霧のむこうのふしぎな町」の柏葉幸子先生のファンタジー。初版は1993年。文庫版初版は2014年です。
わたし、「レシピ」もののファンタジーが大好きなんですよ。現実でも、お料理とか、編み物とか、自家製化粧水とか、ちょっと魔法めいたところがあって好き。(しかし、好きと得意は違う。シビアな現実)
柏葉先生のファンタジー、しかもタイトルに「レシピ」ってついてる!と思って、もう読む前からうきうきです。そして、やっぱり、面白い。
そして、もうひとつ、好きな要素。それは、「おせっかいな主人公」。
最近、現実では「おせっかい」な人って減った気がします。他人の事情に口を出す人は嫌われますしね。
でも、真のおせっかいは、他人のプライバシーに軽い気持ちで口を出す人ではありません。手も足も出す。つまり、物理的に苦労しても、なんとか助けようとするのです。
これはすごく大事なことだとわたしは思っていて、ただ外野からアドバイスするだけなら、友だちどころかSNSでもできるわけですよ。けれども、実際に関わって、物理的に手を貸すのはとても難しい。
倒れている人に「立てよ」と言うのは簡単だけど、どうして倒れているのかを知ろうとし、実際に手を差し伸べたり、立ち上がるのを手伝ったりするのは、なかなかできることではありません。
この物語の主人公、美奈ちゃんは、そんな貴重な「おせっかい」気質を持っている女の子。
少女探偵ナンシー・ドルーの美徳にも、洞察力や行動力のほかにこの「おせっかい」気質があります。目の前で困っている人を放っておけない。でも、そういう性格の子が主人公だと、お話はダイナミックに動きます。
美奈の大おばさんが残したレシピブックには不思議な力があって、それは異世界の住人たちが使う魔法グッズを作るレシピなのでした。出来上がったものは、仲介人のドクムマのもとを通って、その魔法グッズを必要としている異世界の誰かに届けられます。
ところが、美奈は大雑把な性格なので、レシピどおり正確につくらないのでどこかが間違っている。間違ったまま異世界に連れて行かれるのだけど、そこを持ち前の「おせっかい」で問題を解決してしまう、と言うストーリー。
この本は四つの短編で構成されており、
第一話 星くず袋
第二話 魔女のパック
第三話 姫君の目覚まし
第四話 妖精の浮き島
の四本です。
個人的には「魔女のパック」と「姫君の目覚まし」はかなり好き。
「姫君の目覚まし」は、美奈が「物語」の世界に入ってゆき、悲劇だったストーリーをハッピーエンドに変更するお話です。これ、本好きの人なら子どもの頃に一度くらいは頭の中でやったことがあるのではないでしょうか。
わたしも例に漏れず、「マッチ売りの少女」や「人魚姫」を勝手にハッピーエンドにできないかと、あれこれと想像したものです。昔話や童話って「そりゃあないよ」みたいな話がわりとありましたからね。
この「姫君の目覚まし」で登場するお話も、10ページくらいの短いお話の本なのに救いようもないバッドエンドなので、登場人物たちもうんざりしていたという設定です。
このお話に登場するお妃さまの「涙をながすのはおとなになってからで、十分」と言う言葉が、胸にしみます。
柏葉ファンタジーは、ゆかいで楽しい不条理ファンタジーなのに、時々こういう深い言葉でじーんとさせてくれるのです。しみじみと優しい。
確かに、とことんこじれて膠着しているような問題は、当人だけでは解決できないこともあります。もちろん、最終的に解決するのは当人なのですが、外からの力が必要なときもある。そんなときに、活躍してくれるのが、美奈のようなおせっかいな人。
でも、「おせっかいな人」は「無責任な人」ではないのです。
美奈はお料理もお裁縫も大雑把で、作るものはたいていどこかレシピどおりに作れていないのですが、美奈自身がとても責任感が強いので、その結果、彼女のおせっかいが事態を良い方向に導くのでした。つまり、「中途半端に口だけ出す人」ではなく、今時珍しい「関わった以上は最後まで面倒をみる」女の子なのです。かっこいいですね。
魔女や妖精やお姫様が登場する夢夢しいファンタジーなのに、主人公の女の子はどこか昔かたぎの江戸っ子気質。この不可思議さ、不条理テイストが柏葉ワールドの魅力です。
総ルビではありませんが、ほぼ振り仮名が振ってあり、読みやすいので小学校中学年から。賢い子なら低学年からでも読めるかもしれません。短いお話のオムニバスなので、読み聞かせにもおすすめです。
それぞれの問題は美奈がかかわることでさわやかに解決されており、考えさせられるところや成長テーマもちゃんとある。ただ楽しいだけではない部分もありつつ、だけど、クスッとさせてくれる、絶妙さ。
おでかけできない夏になりそうな、おうち時間におすすめのファンタジーです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。ほのぼのとしているのに、ヒロインの性格が竹を割ったようにさわやかで頼もしいので、読んでいるとスカッとします。
ただ気持ちのすれ違いだけで事件が起きている悪人のいない世界観も魅力。柏葉先生の子どもたちへのやさしいまなざしを感じます。
読後は、「大おばさんのレシピ」っぽいものを作って食べてみたくなるかもしれません。「妖精の浮き島」なんかが簡単そうです。
最近のコメント