アズカバンに幽閉されていたシリウス・ブラックが脱走した。彼は、ハリーを狙っているらしい。騒がしくなるハリー周辺。そして、起きる怪事件。アズカバンからは吸魂鬼(ディメンター)たちが囚人を追ってやってくるが、彼らはハリーに忌まわしい記憶を呼び起こさせるのだった……
世界的ベストセラーとなった、「ハリー・ポッター」シリーズの第3巻「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」。原題はHarry Potter and the Prisoner of Azkaban . 初版は1999年。日本語版初版は2001年です。
「ハリー・ポッター」シリーズは、イギリスのプリベット通り四番地に暮らす少年ハリー・ポッターがホグワーツ魔法魔術学校へ入学し、一人前の魔法使いを目指しながら、宿敵ヴォルデモートと戦う物語です。
バトルファンタジーものとイギリスの寄宿舎学園ものの要素が合体している、萌え要素満載のジュブナイルで、一作品につき主人公ハリーの一年間が描かれます。ハリーの成長とともに一年に一作のペースで出版され、1年生から7年生までのハリーの7年間の学園生活を一緒に楽しむことができるようになっていました。
じつはわたし、初版当時は人生でいちばん忙しいときで、リアルタイムでこのブームに乗ることができなかったのです。数年前に時間ができて読むことができ、大満足。「乗り遅れたな」と思っても、いつでも読めるのが読書のいいところです。
監獄アズカバンから、囚人シリウス・ブラックが脱走しました。彼は、ヴォルデモートの部下で、ハリーの両親が襲われるさいに手引きをしたといわれており、ハリーが襲われるのではと大人たちはピリピリ。
アズカバンは、おそろしい吸魂鬼(ディメンター)をブラック追跡に差し向けていました。ところが、この吸魂鬼(ディメンター)、ハリーを守るどころかハリーの忌まわしいトラウマを呼び覚まします。
ハリーは、身を守るために守護霊(パトローナス)を呼び出す魔法を練習することに。
一方、森番のハグリッドは、教師として授業を受け持てるようになって大喜び。ところが、喜びも束の間、ヒッポグリフのバックピークがマルフォイに怪我をさせてしまい、責任を追及されます。
シリウス・ブラックのことでハリーの頭がいっぱいのとき、ハグリットは大ピンチになっていました……
……と、いうのがあらすじ。
ハリー・ポッターは一冊一冊がかなりのボリュームで、いつも読み応えがあります。また、常に複数のストーリーが同時進行していて、最後に収束する形をとるため、細かな記載も見逃せません。どうでもいいような描写が伏線だったりするのです。
今回のお話も、「おおお、これがここにつながるのか!」と言う、ローリングマジック。
筋を知っていても、毎回、同じところで驚いてしまいます。
また、心理描写も繊細で、今回はハリーが赤ん坊だったときの記憶が蘇り苦しんだり、友人たちと些細なことでぶつかったりする気持ちのゆれが描かれます。
ルーピン先生の指導で「守護霊(パトローナス)」を生み出す訓練をするハリー。
「守護霊(パトローナス)」を生み出すには、人生の中で感じた「幸せな気持ち」を思い出し、それを核にする必要がありました。ハリーは、一生懸命楽しかったことや嬉しかった時のことを思い出しますが、モヤモヤとしたものしか生み出せず、苦戦します。
ハリーの生い立ちを思い、胸が苦しくなるシーンです。
ルーピン先生から「幸せな記憶」と言われて、ハリーは自分の中の「幸せな記憶」を探ります。それは、クィディッチで勝った時や、新しい箒を手にしたとき、ホグワーツに入学したときなど……気分が高揚して楽しい気持ちになった時でした。
大人になると、「幸せ」とは、「何かが手に入った時や勝負に勝った時の高揚感」のようなものではなく、もっと静かでしみじみとしたものだとわかります。
ところが、それがわからないのは、ハリーにはそういう、静かで落ち着けて、ほっとできる、しみじみと幸せを感じられるような時間が1秒もない育ち方をしてきたから。これは、サバイバーあるあるです。
ハリーは毎年、学期終わりの夏休みには仕方なくバーノンおじさんたちダーズリー家に帰りますが、クリスマス休暇には帰りません。ふつうの子なら、絶対家族一緒にすごしたいクリスマスやお正月に、ハリーには帰る場所がないのです。
けれども、ホグワーツに入学したハリーは、親友のロンやハーマイオニー、クィディッチという打ち込めるものを得て、少しずつ、少しずつ固い心がほぐれてきます。
知らないものをこの世にあると認識することはできません。
だから、ハリーが「幸せな気持ち」を知るためには、そういうものがこの世にあること、そして、それは今までハリーが体験してきた気持ちとは違うものだということを知るという、ふつうの人には必要のない段階と時間が必要でした。
この物語は、心躍る冒険魔法物語であると同時に、ハリーの自分探しの物語でもあります。「自分探し」なんて言うと、今では手垢がつきすぎて胡散臭さまで感じる言葉になってしまいましたが、ハリーのような子には何よりも大切なこと。
ハリーのアンバランスさ……生まれつき持つ力の大きさや知らぬところで得た名声と、重すぎる宿命や辛すぎる生い立ちと言う両極端な要素を内包する不安定さは、ホグワーツでの友だちたちや先生たちとのあたたかい交流の中で精神の成長とともに安定してきます。その様子がきめ細かく描かれているのも、このシリーズの大きな魅力です。
今年の夏も、まだまだ遠方へのおでかけは控えたほうがいいような状況になってきました。こんなときは、読み応えのある小説シリーズを一気読みがおすすめ。
ハリー・ポッターのシリーズは、日本人のわたしたちが読むと魔法ファンタジー要素だけでなく、イギリスの寄宿舎生活を垣間見る楽しさもあります。
初版バージョンのハードカバーもよいですが、佐竹美保先生バージョンの新装版もあります。
また、「イラスト版」と言う大型本も出版されており、これがまたすばらしい。
「デカイ!」「重い!」と言う欠点はあるものの、全頁カラー印刷で、ふんだんにフルカラー挿絵が入っています。この巻は、トレローニー先生の挿絵がインパクト大。(多分、イラスト担当のジム・ケイ先生に愛されてる) スネイプ先生の怖くてかっこいい挿絵は多め。ルーピン先生の素敵なイラストは、ラスト近くに入っています。
スネイプ先生とルーピン先生はかなり映画に寄せているのですが、トレローニー先生だけはオリジナル風味。(やはり愛が……)
最初は「絵が多いだけでしょ」と思ってたのですが、魔法動物の図解などもあって、これはこれで別の魅力があります。
持ち運びができるような大きさではありませんが、魔導書を読むような魅力。通常版を読んで楽しんだ後は、イラスト版をご堪能ください。
この季節に読み始めるのがぴったりの「ハリー・ポッター」。
通常版、新装版、文庫版、イラスト版、お好きなものでぜひ、どうぞ。
※この本には電子書籍もあります。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
吸魂鬼(ディメンター)の描写がかなり怖いですが心理的な怖さで、残酷シーンなどはありません。冒頭のダーズリー家のシーンがいちばん残酷で、そこを抜ければ楽しい冒険が待っています。
魔法いっぱい、不思議いっぱいのファンタジーと、イギリスの寄宿舎学園ものが合体した、魅力的な児童小説です。先生たちが、みな、生徒のことを精一杯考えて愛情を注いでいるのが温かい気持ちにさせてくれます。
読後は、冷蔵庫に保存した分厚いチョコレートをバリンと割って食べたくなります。濃く淹れたミルクティーか、ココアをご用意ください。
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