【時計坂の家】扉のむこうからの呼び声。美しく謎めいた夏の冒険。【小学校高学年以上】

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時計坂の家  高楼方子/作 千葉史子/絵 (福音館創作童話シリーズ)   福音館書店

マリカからの手紙に誘われて夏休みをすごしに汀館(みぎわだて)の町にやってきたフー子。厳格で寂しげな祖父の暮らす古い屋敷には謎めいた扉とドアノブに下げられた懐中時計があった。扉のむこうには何があるのか?時計塔のからくり時計が鳴る時、フー子にだけ見える天使の顔……ミステリアスな幻想物語。

時計坂の家  高楼方子/作 千葉史子/絵 (福音館創作童話シリーズ)   福音館書店

<高楼方子>
函館市に生まれる。「へんてこもりにいこうよ」(偕成社)「いたずらおばあさん」(フレーベル館)で路傍の石幼少年文学賞、「キロコちゃんとみどりのくつ」(あかね書房)で児童福祉文化賞、「おともださにナリマ小」(フレーベル館)「十一月の扉」(受賞当時リブリオ出版)で産経児童出版文化賞、「わたしたちの帽子」(フレーベル館)で赤い鳥文学賞・小学館児童出版文化賞を受賞。
絵本に「まあちゃんのながいかみ」(福音館書店)「つんつくせんせい」」のシリーズ(フレーベル館)など、幼年童話に「みどりいろのたね」(福音館書店)、低・中学年向きの作品に、「ねこが見た話」「おーばあちゃんはきらきら」(福音館書店)「へんてこもり」のシリーズ(偕成社)「紳士とオバケ氏」(フレーベル館)「ニレの木広場のモモモ館」(ポプラ社)など、高学年向きの作品に、「ココの詩」「十一月の扉」「緑の模様画」(以上福音館書店)、「リリコは眠れない」(あかね書房)など、翻訳に「小公女」(福音館書店)、エッセイに幼いころの記憶を綴った「記憶の小瓶」(クレヨンハウス)、「老嬢物語」(偕成社)がある。札幌市在住。

<千葉史子>
函館市に生まれる。パリ在住時に画塾に通い絵を学ぶ。著者の高楼方子の実姉。姉妹での作品に、「ココの詩」「十一月の扉」(福音館書店)「ポップコーンの魔法」(あかね書房)「とおいまちのこ」(のら書店)「ニレの木広場のモモモ館」(ポプラ社)など。挿絵を手がけた作品に、「だいすきだよ、オルヤンおじいちゃん」(徳間書店)「ごちそうびっくり箱」 (角川つばさ文庫)などがある。千葉県在住。

時計坂の家  高楼方子/作 千葉史子/絵 (福音館創作童話シリーズ)   福音館書店

 かなり前のことなのですが、「ジブリ美術館」に行く機会に恵まれました。
 美術館、と言うよりは、建物そのものも立体的な創作物でどこを歩いても発見があり、どんな端のほうにも気を抜けたところのない、すばらしい場所でした。

 その「ジブリ美術館」のなかに「トライホークス」と言う書店があって、そこにはスタジオジブリ関係の書籍のほかに、スタジオジブリや美術館のスタッフの方々が選んだ児童書を売っているのです。

 わたしが大好きな本がたくさん並んでいて、「あ、あれもある、これもある。これも大好き」とうきうきしながら売り場を歩き、欲しかった限定本などを購入しました。

 その時、印象的な緑の背表紙と出会ったのです。「これは知らなかった。でも面白そう」と思ったのが、この本。夏休みのお話に見えたので、「夏になったら絶対に読もう。そしてブログで紹介しよう」と心に決めていました。あそこにあったのなら、面白くないわけがない。

 と、いうわけで本日のご紹介です。高楼方子先生の「時計坂の家」。初版はリブリオ出版から1992年。福音館書店からの初版は2016年です。

 ストーリーは……

 夏休み、いとこのマリカに誘われて祖父のいる汀館の町に来たフー子。近寄りがたい雰囲気をもった祖父の家には、不思議な扉があり、その先の物干し台から祖母は落ちて死んだと言う。

 家の近くの時計台で、天使のからくりを見たフー子は、扉にかけられた懐中時計が時計草の花に変化するのをきっかけに開かずの扉のむこうの世界へと導かれる。時計塔の時計は、そして開かずの扉のむこうの世界とはなんなのか。

 マリカのいとこ映介と、時計台と扉の謎を解こうと思い始めるフー子。しかし、同時に扉のむこうの世界に、どうしても惹かれてしまう。

 一方、映介は、からくり時計の作者チェルヌイシェフの正体に迫ろうとするが……

 ……というのがあらすじ。

 子どもが主人公の児童小説ではあるのですが、ダークファンタジー風味の幻想小説です。
 すべての描写が美しく、そして、この11歳~12歳くらいのころの女の子特有の微妙な心理を細やかに描いています。

 幼い少女たちの、あの年ごろ特有の女の子同士の友情。大勢のお友達どうしで遊ぶのではなく、たったひとりの「親友」とだけ仲良くしたい、嬉しいことも悲しいこともいちばんに話したい、そうでなければ何か「裏切った」ような気持ちになってしまうという、あの年頃だけの不思議な関係。

 男子が抱いている大いなる誤解のひとつに、「女は嫉妬深い生き物だから、美人が嫌い」と言うのがあります。
 でもね、小さな女の子は美少女が大好きなんです。美少女のお友だちを見てうっとりしちゃうなんていうのは、幼稚園児や小学生の頃はよくあること。そして、お揃いのヘアゴムや髪留めを使いたがったり。

 フー子はいとこの美少女マリカに対して、崇拝にも似た感情を抱きます。フー子の「扉のむこうの園」に憧れる気持ちとマリカに感じる特別な想いは同じでした。マリカこそ、あの庭園にふさわしいとフー子は感じていたのでした。

 扉のむこうの、おそろしくも美しい魅力に取り付かれ、引き寄せられてゆくフー子。

 フー子にだけ見えるからくり時計の天使像や、花開く時計草、扉のむこうで咲き乱れるジャスミン、マトリョーシカのような少女たち……

 登場するものすべてが美しく、かぐわしい香りも匂うほどです。
 映像作家が愛するのは納得の、場面の麗しさ。

 一筋縄ではゆかない物語ですが、幻想的なファンタジーが好きな方ならたまらない魅力があります。バッドエンドではないのでご安心ください。ただし、全部がなにもかもスッキリと言うような、シンプルなお話ではないんですけども。

 ホフマンの「クルミわりとネズミの王さま」や、斉藤洋先生の「ドローセルマイアーの人形劇場」などがお好きならおすすめ。摩訶不思議な異世界観はダイアナ・ウィン・ジョーンズにも通ずるところがあります。萩尾望都先生の漫画がお好きなら、はまると思います。

 不気味な恐ろしさはありつつ、ぎりぎりのところで「怪奇小説」ではなく「幻想小説」のほうに着地してくれる、小さな子ども向けには珍しい耽美なファンタジーです。12歳の女の子にしか開けられない扉、と言えばそうかもしれません。

 夏にぴったりの、不思議で、ちょっぴり怖くて、きらびやかな世界の物語です。幻想世界に浸りたい、内向的なお子さまに。大人が読んでも読み応えがあり、楽しめます。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はぎりぎりで避けているので大丈夫です。感受性の鋭い、HSPやHSCの方にこそおすすめの幻想的なファンタジーです。

 場面描写だけでなく心理描写も細やかで、奇妙で美しい世界に思わず惹きこまれます。読み終わった後は、しばらく1人でぼーっと物語の余韻に浸りたい小説です。

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