【パディントン、映画に出る】クマと暮らすハチャメチャな日々。出版社をかえて13冊目。時空を越えて見参【小学校中学年以上】

2024年3月30日

広告

パディントン、映画に出る  マイケル・ボンド/作  ペギー・フォートナム  R.W.アリー/絵  三辺律子 /訳  WAVE出版

パディントン駅でブラウンさん一家と出会い、一緒に暮らすことになったパディントン。騒動の連続ですが、みんなハッピー。今回は、パディントンの暮らすロンドンにオリンピックがやってきました……シリーズ13巻。

この本のイメージ 時空を越える☆☆☆☆☆ オリンピック☆☆☆☆☆ ほのぼの☆☆☆☆☆

パディントン、映画に出る  マイケル・ボンド/作  ペギー・フォートナム  R.W.アリー/絵  三辺律子 /訳  WAVE出版

<マイケル・ボンド>
Michael Bond(1926年1月13日~2017年6月27日)。イギリス・バークシャー州、ニューベリー出身の小説家。代表作は児童文学『くまのパディントン』シリーズ。

<ペギー・フォートナム>
1919年、イギリスで生まれた。ロンドンの美術工芸セントラルに在学中、ハンガリーの出版社の依頼でエリナー・ファージョンなど子どもの本にさし絵を描いたものが好評で、引き続きさし絵やポスターの仕事をする。

<R.W.アリー>
アメリカロードアイランド在住のイラストレーター。数多くの絵本・児童書のイラストを手がける。

<三辺律子>
英米文学翻訳家。フェリス女学院大学・白百合女子大学講師。「夢の彼方への旅」の翻訳で2008年度やまねこ賞受賞。他の訳書に「龍のすむ家」「モンタギューおじさんの怖い話」「緑の霧」など多数。

 イギリスからやってきた「くまのパディントン」シリーズ、第13巻目「パディントン、映画に出る」。原題はPaddington Races Ahead.イギリスでの初版は2012年。日本の初版は2018年です。実写映画化の発表が2007年で、その頃に第12作が発表されました。今回の作品は2012年、ロンドンオリンピックにあわせて書きおろされた作品のようです。

 パディントンのシリーズは、10作めまでは福音館から出版されており、以降はWAVE出版から出版されています。マイケル・ボンドのパディントンシリーズは全部で15作。13作めまでは日本で翻訳されていますので、残りの2作も翻訳されるといいですね。

 お話は、一話完結の短編集が多いので、どの巻から読んでも楽しめるのですが、パディントンがブラウン家に引き取られたいきさつなど、最初の設定を理解して読んだほうがわかりやすいと思います。最初から順番に読みたい方は、まずは第1巻「くまのパディントン」からお読みください。

 「くまのパディントン」のレビューはこちら

 さて、今回のお話ではっきりしたことがひとつあります。それは、パディントンが「サザエさん時空」に入っていたということです。「サザエさん時空」とは、長期アニメーションシリーズによくある現象で、「季節はめぐるけれど登場人物たちは歳をとらない」時空のことです。同じ時空に「ドラえもん」や「ルパン三世」などもいます。

 この時空では、お父さんお母さんは中年のまま、子どもたちは学生のまま、おばさんはおばさんのままでおばあさんにはなりません。昔のパディントンは一年ずつ(正確には半年ずつ)歳をとっていたのに、こんなことになっていようとは。

 だって、家にはじめてテレビが来たときの話とかあるんですよ? それなのに、今回のパディントンには携帯電話が登場します!いやいや、ぶっとびすぎでしょ。

 それでも、パディントンが引き起こす騒動は、昔と同じ。よかれと思ってとんでもないことになるのも同じ。文明が多少進化したからって、パディントンの騒動が止められるわけではないのでした……

 今回のエピソードは、

 ・カリーさんのお誕生日プレゼント
 ・パディントンのカキ事件
 ・春の大そうじ
 ・パディントン、ラジオに出演
 ・パディントン、特訓をうける
 ・パディントン、凧あげをする
・パディントン、映画に出る

 の七本です。

 今回は、ロンドンでオリンピックが開催されることになり、パディントンはペルーからやってきた選手団の1人と勘違いされてしまいます。

 これ、たぶん、オリンピック記念で出版された作品なんですね。ブラウン家の人たち、誰も歳をとっていません。グルーバーさんも、カリーさんもいます。みんな、みんな30年以上の時を越えて、現代にやってきてしまいました。(と、言ってももはや10年前ですが)

ここまで開き直ってしまったら、いっそすがすがしい気がします。

 パディントンは、人間の言葉を「言葉どおり」解釈してしまう癖があり、それとそそっかしくて勘違いしやすい気質のせいで、人間社会で大騒動を引き起こしてしまいますが、どういうわけか最終的にはすべてがおさまるところへおさまって、みんながハッピーになりパディントンは感謝されるという、黄金パターンがあります。
今回も、そのパターンはそのまま。

 でも、この「なんでも真に受けてしまう」「言葉を言葉どおりにうけとる」「嘘をつかない」って、ファンタジーの妖精とかにも通ずるものがあります。(「真実の妖精」もまさにそうですが、昔ながらのファンタジーにはおなじみの設定です)

 昔から妖精に願いごとをするには、妖精が勘違いしないように正しく言葉を選ばないといけない。たとえ話や比喩が苦手だから言葉どおりの結果になってしまう。また、一度約束したことは撤回できないし変更もできない……考えてみたら、わたしの周囲にもそういう妖精がいましたわ……

 「パディントン」シリーズはペルーからマーマレード好きなクマがロンドンにやってきてパディントン駅でブラウン一家と出会い、一緒に暮らすようになるお話。ピュアなクマとロンドンの人々とのカルチャーショックがゆかいで楽しいお話として描かれています。

 二足歩行のパディントンはどういうわけか英語がしゃべれます。これを誰も不思議に思いません。そして、二足歩行して人間のすることはたいていやります。これも誰も不思議には思いません。そういうものなのです。

 パディントンを読んでいると、いつもさわやかな気持ちになるのは、このクマがいつも一生懸命で、純粋で、そしてチャレンジャーだからでしょう。

 彼は、知らないことにぶつかっても尻込みしません。まずはやってみようと思います。
 また、このクマには人間の上下関係のようなものがわかりません。すべての人に同じように誠実に対応します。お隣のカリーさんが偉そうに「おい、クマ公!」と彼に高圧的に命令や指図しても、彼は「お願いされている」と思うから頑張ってしまうのです。まあ、たいてい、誤解が誤解を呼んで大騒動になるんですけども。

 こんな美徳があるから、お手伝いさんのバードさんは、パディントンが言葉巧みに利用されそうになる時は怒ります。
 バードさんは一見口うるさい、いじわるばばあみたいな人ですが、パディントンの危機には敢然と立ち向かう頼もしい人でもあります。

 今回バードさんが「春の大そうじ」のお話のなかで、ペルーのお菓子「アルフォーレス」(調べたところ、「アルファフォーレス」「アルファフォール」と言われているみたい)をパディントンのために作ってくれようとするシーンがあります。
 これは、二枚のクッキーのあいだにキャラメルクリームのようなものが挟んである甘いお菓子。バードさんが作ったらすごくおいしそうですね。怖そうだけど、こういう心遣いもある人なのです。

 時空を越えてハイテク時代にやってきてくれたパディントンたちですが、彼らの生活は昔のまま。昔パディントンが大好きだった人たちには、このWAVE出版版はたまらないと思います。まだの方はぜひ。

 天変地異や大事故、伝染病、戦争など、苦難続きの時代になりましたが、そんなときでもこの世界のどこかに、ブラウンさん一家とパディントンがのどかに暮らしているかもしれないと思ったら、ちょっぴり心が和みます。

 パディントンのやらかしは、毎回とんでもない規模ですが、これがなんとかなっちゃうんだったら、自分の悩みなんてどうでもいいじゃないの、と思えてきます。子どもには単純に楽しく、大人には救いをくれるほのぼの動物ファンタジーなのです。

 心がしんどいときは、ピュアなクマのほのぼのゆかいなお話でほっこり癒されましょう。ぎゃははと大笑いしたあと、じーんとできます。R.W.アリーのカラーの挿絵も入っていますよ。

 残りの二冊も読んでみたいですね。スマートフォンとかを使いこなすのかしら。出版社さま、ぜひお願いします!

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。良質の児童文学です。
 ピュアで楽しく、そしてほのぼのとしているので、お見舞いなどにもぴったりです。

 映画やアニメーションでパディントンのファンになった方も、小説を読むと楽しさが倍増します。へたをすると映像よりダイナミックな場合もあるので、お楽しみに。

 読み終わったら、濃く入れたミルクティーと、マーマレードをたっぷり塗ったトーストで、ほのぼのティータイムを。今回のお話に登場したアル(ファ)フォーレスを作ってみても楽しいかも。

 

商品紹介ページはこちら

 

 

お気に入り登録をしてくださればうれしいです。また遊びに来てくださいね。
応援してくださると励みになります。

にほんブログ村 本ブログへ

広告