【ランサム・サーガ】濡れ衣を晴らし、真犯人を追え。六人の少年少女探偵が走る。シリーズ9作目【六人の探偵たち】【小学校高学年以上】

2024年3月30日

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六人の探偵たち 上下  ランサム・サーガ 9  アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫

ノーフォーク湖沼地方で、船が次々に流される事件が発生。ジョー、ビル、ピートのオオバンクラブの仲間たちに疑いがかけられます。合流したディックとドロシアと、トムとで、探偵団を結成、事件に立ち向かうことを決意しますが……

この本のイメージ 探偵小説☆☆☆☆☆ 推理と探索☆☆☆☆☆ ドロシア大活躍☆☆☆☆☆

六人の探偵たち 上下  ランサム・サーガ 9  アーサー・ランサム/作 神宮輝夫/訳 岩波少年文庫

 ランサム・サーガのシリーズ9作目は、The Big Six.
 初版は1940年です。日本語版初版は1968年。岩波少年文庫版は2014年です。

 ランサム・サーガは、イギリスの作家アーサー・ランサムが書いた12作のシリーズで、かつては「アーサー・ランサム全集」として岩波書店から刊行されていました。ウォーカー四きょうだい、ブラケット姉妹、D姉弟が主な登場人物。

 子どもたちが子どもたちだけで帆走船でセーリンクをしたり、無人島でキャンプをしたりする物語で、あくまで現実に実現可能なことが書かれています。船やキャンプの知識の深いランサムが自分の経験を生かして書いていますので、リアリティがあり、本当にあったことのように感じられるのが魅力。

 どの巻から読んでも楽しめますが、大きな流れがあるため、第1巻「ツバメ号とアマゾン号」から順番に読むことをおすすめします。

 「ツバメ号とアマゾン号」のレビューはこちら

 今回の舞台は、ノーフォーク湖沼地方。春のイースター休暇でディックとドロシアがすごしたところです。このお話は、その年の夏、「オオバンクラブ物語」のあとのお話となります。

 この物語を理解するには、最低でも「オオバンクラブ物語」を読んでおかないと意味がつながらないので、「オオバンクラブ物語」と「六人の探偵たち」はセットでお読みください。
「オオバンクラブ物語」のレビューはこちら

 お話は……

 ノーフォーク湖沼地方で、「オオバンクラブ」の会員として野鳥保護活動をしながら、デサンドグローリ号でセーリングを楽しむジョー、ビル、ピートの三人組。ところがあるとき、船のもやい綱が解かれ流されるいたずら事件が発生します。しかも、いつもデサンドグローリー号が停泊している場所でおきるのです。

 濡れ衣を着せられた三人。近所の人々は、誰もが彼らがやったと思い込み、身近な人にも疑われてしまいます。

 そんなとき、ドロシアとディックが夏休み休暇でやってきます。話を聞いたふたりは義憤で助太刀を決意。デサンドグローリ号の三人とトム・ダッジョン、D姉弟の六人で探偵団を結成します。

 さて、六人の探偵たちは、この難事件を解決できるのでしょうか……

 ……と、いうのがあらすじ。

 「六人の探偵たち」は、「ランサム・サーガ」のなかで唯一の探偵小説。いつものキャンプやセーリングを期待していた方はびっくりしてしまうかもしれません。しかも、かなり本格的な探偵小説なのです。

 このお話では、ドロシア・カラムが大活躍。ドロシアファン、お待たせしました!と言う感じ。

 彼女は、小説家を目指している文学少女で、いつもノートに書きかけの小説を書いています。当時は紙が貴重な時代で、常時紙の束を持っている人はめずらしかったので、いままでのドロシアの役目は何か重要なことをメモしなければならないときに「さっと紙を出す」ことでした。
 つまり、大事なときにそっとサポートしてくれる、控えめなお姉さんというポジションだったのです。

 それ以外では、小説家志望らしく夢見がちで、空想的な話をすることが多く、ちょっと天然で頼りない都会のもやしっ娘という印象でした。
 科学を愛するディックの論理性や、知識に裏打ちされた行動力などは「ツバメ号の伝書バト」で存分に発揮されていたので、弟のディックのほうの長所はわかりやすかったのですが、ドロシアは「そんなディックを誇らしく思い、変わり者のところを優しくサポートする」以外の見せ場がいままでありませんでした。

 ところが、このお話では彼女の意外な才能が発揮されます。

 ジョー、ビル、ピートのデサンド・グローリ号の仲間たちが濡れ衣を着せられたことに義憤を感じたドロシア。オオバンクラブの集会所を「ここをスコットランドヤードにしましょう」と探偵局本部とさだめ、事件解決に乗り出します。

 このときのドロシアの言葉がおもしろい。

 「私たちが、自分の手で、犯人をみつけていけないわけはないわね?」ドロシアはなんだか独り言でもいうように話し続けていた。「私、まだ、探偵小説を書いてみたことがないの」(引用 上巻 p298)

 「ネタになる!」って思ったようです。いいぞ、ドロシア。

 小説家志望のドロシアは、数々の細かな証拠や手がかりを集め、整理し、見えないストーリーを推理して組み立てることができる子でした。そこに、ディックの科学的知識や観察力、分析力が合わされば、鬼に金棒です。

 ここからの展開は、ドロシアと顔も見ぬ犯人との心理戦。
 彼女は小説家志望の力を駆使して、犯人との「読み合い」に挑みます。周囲の少年たちは、夢見がちなドロシアの妄想や空想だと思っているのでわりと懐疑的なのですが、ドロシアの言葉はつねに確信に満ちていて、立派に「司令塔」としての役割を果たします。

 お話を読むのが好きで、素人なりにキャラクターを作ったり書いたりしている人特有の能力……「こうしたならこう考えてこうするはず」と言う「読み」の能力がドロシアは並外れて優れていたのです。
 ドロシアは夢想的な子ですが、霊感とか妄想とかではなく、作家の能力で相手の考えをトレースします。これ、特殊能力ですが本人はそうは思っていないよう。

 そこへ、知識と知恵、発想力で解決策を提案するディック。
 初登場時は、「都会からやってきた、本を読むしか能がない何にもできない内向的な姉弟」という印象だったふたりですが、ただものではなかったことがわかります。

 わたしは、ドロシアがミスター・ファーランドにみんなから集めた弁護士相談料(適正金額)を支払い、それにたいしてミスター・ファーランドが紳士らしく丁寧にお辞儀をするシーンが好き。
 ドロシアは顔見知りの子どもとしてずうずうしく大人に助けてもらおうとしていないし、その態度を見てミスター・ファーランドがちゃんとお客として接するのもすばらしい。

 さて、一筋縄ではゆかない犯人との攻防戦はどうなるか。それは読んで見てのお楽しみ。

 無実のデサンドグローリ号の少年たちが、誰だかわからない、顔も見えぬ敵に濡れ衣を着せられ、追い詰められ、どんどんと味方を失ってゆく前半は、胸が苦しくなります。
 犯人の情報操作が上手く、純真なオオバンクラブの少年たちは、親しい人たちからもののしられ、居場所を失ってしまいます。

 このままだと無実の罪で捕まってしまうかもしれない……絶体絶命からの大逆転をお楽しみください。

 文章は読みやすく、難しい漢字にはふりがながふってあるので、小学校高学年から。大人も、子供心にもどって楽しむことができます。

 理不尽な状況に崖っぷちまで追い詰められながらも、諦めずに知恵と知識、行動力を駆使して全力で立ち向かう少年たちからは、元気と勇気をもらえます。

 夏にぴったりの冒険小説。この夏、読破してみてはいかがでしょうか。「オオバンクラブ物語」と「六人の探偵たち」だけでも楽しいですよ。
 少年探偵ものが好きな方、「エーミールと探偵たち」「オタバリの少年探偵たち」「名探偵カッレくん」などが好きなら、おすすめです。

※この本は電子書籍もあります。

※この本は現在、Amazonでは新品の「紙の本」は入手困難です。中古(古書)でお求めになるか、図書館、または書店にある場合があるので、お近くの書店の書店員さんにお尋ねください。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。心躍る少年探偵物語です。ドロシアとディックは内向的な文学少女と科学少年なのですが、ふたりの力で解決不能と思われた事件を解決します。繊細で内向的なお子さまにおすすめの冒険小説です。

 読後は、濃く淹れたミルクティーと、シードケーキでティータイムを。

 

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