【クリスマスの小屋】クリスマスイブの夜、一年に一晩だけあらわれる不思議な小屋がある。そこには…… 【アイルランドの妖精のおはなし】【小学校中学年から】

2024年4月2日

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クリスマスの小屋 アイルランドの妖精のおはなし  ルース・ソーヤー/再話 上條由美子/訳 岸野衣里子/画 福音館書店

旅のいかけ屋が、一軒の小屋の戸口に赤ちゃんを置いていきました。その夫婦は捨てられたその子を可愛がって育てましたが、美しく成長した気立ての良い彼女を嫁にもらう男はひとりもいませんでした……

この本のイメージ クリスマスの奇跡☆☆☆☆☆ 妖精☆☆☆☆☆ 報われた想い☆☆☆☆☆

クリスマスの小屋 アイルランドの妖精のおはなし  ルース・ソーヤー/再話 上條由美子/訳 岸野衣里子/画 福音館書店

<ルース・ソーヤー>
1880年、アメリカのボストンに生まれる。アメリカを代表するストーリーテラー。また、20冊以上の子どもの本を書いた。主な作品に、ニューベリー賞を受賞した「ローラースケート」(講談社)、「ジョニーのかたやきパン」(岩波書店)、「とってもすてきなクリスマス」(ほるぷ出版)、「クリスマスのりんご」(福音館書店)などがある。また、「ストーリーテラーへの道」(日本図書館協会)は、お話を語る人にとっての必読書となっている。1970年没。

<上條由美子>
1932年、山梨県に生まれる。1955年、東京女子大学文学部心理学科卒業後、1959年、渡米。ニュージャージー州ラトガース大学大学院図書館学校卒業。在学中より同州トレントン市立公共図書館児童室に勤務する。現在、大阪YWCA千里子ども図書室代表。翻訳に、「ちいさなもみのき」「ミリー・モリー・マンデーのおはなし」「ミリー・モリー・マンデーのともだち」「クリスマスのちいさなおくりもの」「クリスマスのりんご」(以上福音館書店)、「農場にくらして」(岩波書店)、「絵本を語る」(ブック・グローブ社)などがある。

<岸野衣里子>
1983年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。2012年よりイラストレーターとして活動を始める。挿絵の仕事に、「レオナルド・ダ・ヴィンチの童話」(小学館)などがある。ほか、書籍の装画や音楽アルバムのアートワークなどを手がける。

 原題はThe Wee Christmas Cabin of Carn- na -ween.アメリカでの初版は1941年。日本での初版は2020年です。

 アイルランド出身の乳母に育てられたアメリカの作家ルース・ソーヤーが、アイルランドを旅したとき、現地の語り部から聞いたお話を物語として再話したもの。

 お話は……

 100年か、それ以上昔のことか、アイルランドのドニゴールの町からキリーベグスの海に通じる街道を、旅するいかけ屋が通り、カルナウィーンの一軒の小屋の前に育て切れない赤ん坊を捨てました。

 その小屋の夫婦は、赤ちゃんを育て、彼女はオーナと名づけられて美しく育ちました。

 料理上手で美しく、気立てのいいオーナ。けれども、村の誰一人、捨て子のオーナを嫁にもらおうとしませんでした。オーナは、誰とも結婚せず、老いた養母の面倒をみて彼女を看取りましたが、養母はオーナに家を残してくれませんでした。

 オーナが養母の面倒をみた小屋は、オーナの息子に与えられました。

 住むところを失ったオーナは、困っている別の誰かの家に行き、その人を死ぬまで世話をしましたが、そこでもオーナは住むところを与えられませんでした。そこでまた、オーナは別の家に行き……

 オーナは老婆になるまで、様々な家をわたり歩き、その家の老人の面倒を見、子どもを愛情もって育てました。しかし、最後にたどりついた場所で、その村はひどい飢饉に見舞われてしまったのです。

 クリスマスイブの夜、これ以上家の食料をもらうわけにいかないと思ったオーナは、ただひとり、雪のなかを出てゆきます……

 そして、オーナがたどりついたところは……

 ……と、いうのがあらすじ。

 この本、もしもわたしが子どもの頃に読んだらどこまで理解できたでしょうか。
 ラストシーンの美しい小屋で、輝くほど美しいオーナの姿には感動しただろうと思うけれど……

 自分のせいではないのに捨て子として生まれ、誰にも嫁に望まれず、老いた養母の面倒を死ぬまで見ても、それまで住んでいた小屋を残してもらえず、追い出される。

 次の家でも、そして、次の家も……

 どこへ行っても、困っている人のためにせいいっぱい自分のできることをして、誰に対しても自分の家族のように大切に世話をしても、それでもその人が死ぬと不要にされる……

 今で言う「介護」をずっと引き受けてきた女性のお話です。

 どこへ行っても、どんなに頑張っても、オーナを家族として受け入れてくれる家はありません。最後は、オーナは自分が面倒をみてきた家の子どもたちのために、口減らしのために自ら外へ出ます。

 大人になってしまうと、ここまで読むのが本当にしんどい。オーナが受け止める苦労や理不尽が、読んでいるあいだに心に雪のように降り積もってきます。

 けれど、ラストは驚くような奇跡がおこり、夢のような結末になります。

 それは、どこまでもどこまでも「与えること」を喜びとして生きたオーナらしい奇跡。
 彼女の「わたしだけの小屋が欲しい」と「誰かを幸せにしたい」の両方を叶えてくれる、妖精たちの魔法でした。

 総ルビでないので、だいたい小学校中学年くらいからの本です。けれども、この本はぜひとも、読み聞かせで。

 これはおそらく、お母さんが癒される本です。
 毎日、はっきりとは明文化できない、形のないがんばりを積み重ね続けている、お母さんたちのためにクリスマスにプレゼントしたいファンタジーなのです。

 与えて与えて、与えぬいたオーナが、最後の最後に願い続けた自分の夢を叶えます。そして、その奇跡は、今でも彷徨う誰かを幸せにし続けている、と言う言い伝え。

 オーナはクリスマスイブの夜、いまでもその美しい小屋で、凍えている誰かを迎え入れているのでしょうか。

 「クリスマスの小屋」は、頑張り続けている女性に救いをもたらしてくれる小さな本です。読み終わると、小さな火が心にともり、じわじわと生きる力が湧いてくる。

 このお話のようなことは、もちろん現実にはないでしょう。けれど、この絵空事が読んだ人の心に力を与える。それがファンタジーの力なのです。

 クリスマスに、自分プレゼントに、読み聞かせに、おすすめの一冊です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。HSPHSCの方のほうが、より多くのメッセージを受け止められるでしょう。美しいお話です。

 頑張る女性に。大人の癒しとしてもおすすめです。

 

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