【たびする木馬】時をこえて走り続ける木馬の想い。あたたかな気持ちになれる、幻想的で美しい絵本。【4歳 5歳 6歳】

ずっと遠いある国で、その木馬は生まれました。名前はブラン。毎週のように乗りにやってくる男の子が、名づけてくれました…… やわらかな筆致で、時をこえて走り続ける白い木馬の数奇な運命を描いたファンタジー絵本。
この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 時をこえて☆☆☆☆☆ やさしく美しい絵☆☆☆☆☆
たびする木馬 牡丹靖佳 アリス館
<牡丹靖佳>
1971年大阪府生まれ。現代美術作家。
第4回セゾンアートプログラム 美術家助成受賞。財団法人野村国際文化財団 芸術文化助成受賞。ポロック・クラズナー財団 助成受賞。
作品に、「おうさまのおひっこし」「ルソンバンの大奇術」(福音館書店)、「どろぼうのどろぼん」(作:斉藤 倫/福音館書店)、「めいわくなボール」(偕成社)、「ようこそロイドホテルへ」(作:野坂 悦子/玉川大学出版部)などがある。
2022年11月初版の絵本です。
淡い色合いの水彩画で描かれた、あたたかで美しい絵本。どこがどうということもないのですが、なんとなく、クリスマスの雰囲気があります。
お話は……
ずっと遠いある国で、その木馬は生まれました。名前はブラン。毎週のようにメリーゴーラウンドに乗りにくる男の子が名づけてくれました。
木馬は子どもたちを乗せて走り続けます。
やがて、人気の無くなったメリーゴーラウンドは解体されて、ブランは隣の国の遊園地に売られました。
隣の国の小さなメリーゴーラウンドで木馬はまた、子どもたちを乗せて走りました。
遊園地が閉園になり、メリーゴラウンドがさらに小さくなって木馬は、旅をしながらいろんな人を乗せました。
あるとき、ブランをある老人が見つけ抱きしめます。それは、毎週ブランに乗っていた男の子でした。
そして……
……というのがあらすじ。
日本には「付喪神」といって、「長い年月、人に愛されたモノに心が宿る」と言う言い伝えがあります。
だから、この物語で、自力では動けない、もの言わぬ木馬のブランに心があることは、すんなり受けいれられるのです。
ブランは、言葉を話すことはできないし、ただ前に向かって走ることしかできないけれども、心のなかに小さな子どもへの愛がたっぷり詰まっています。
誰かを乗せて走りたい、楽しませたい、幸せになってもらいたい、その願いだけでブランは毎日走り続けているのです。
そんなブランの想いは乗せた子どもたちにも伝わっていて、おじいさんになった「あのときの男の子」は、ブランを大切にしてくれました。
しかし、ここでブランの物語は終わりません。
もしかしたら、このあと、ブランを生まれ変わらせてくれた職人さんも、幼い頃にブランの背に乗ったかもしれません。これからブランの背に乗る赤ちゃんのお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんもブランに乗ったことがあるかもしれません。
ブランは、たくさんの「幸せの種」を蒔いてきたのです。
この絵本を読んでいると、なぜだか気づかぬうちに涙ぐんでしまいます。
心の深い深いところにブランの心が触れて、「あなたのしていることは無駄じゃないよ、どんな小さなことでも無駄ではないよ」と言ってくれているような、そんな気持ちになるのです。
ブランは、小さな古い木馬ですが、自分のできるただ一つのこと……「子どもを背に乗せて走る」ことを、ただひたすらに、精一杯やります。どこでも、どんなときでも。
そして、ブランが知らぬうちに、背に乗って走った子どもたちはブランから幸せをもらって健やかに成長し、またブランのもとへ戻ってくる……世界の幸せを増やしながら。
これは、そのままストレートに「木馬の運命を描いた絵本」として読むこともできますし、この木馬ブランを遊具やおもちゃだけでなく、絵本や本をふくめた「子どもと共にすごすすべてのもの」の比喩として読むこともできます。
絵本を描いた牡丹先生や、出版に携われた方々の、小さな子どもたちへの深い愛が伝わってきます。
文章は平易で読みやすく、漢字は使われていますが、すべての漢字に振り仮名がふってあります。ぜひ、読み聞かせに。そして、心の中の「子供心」を癒す、大人の和み本としてもおすすめです。
子どもが読むと、ブランの海のように深い愛情に包まれた気持ちになるでしょうし、大人が読むといままでの人生を優しく肯定されたような、あたたかな気持ちになることでしょう。
どんなときでも、ブランのように、ただひたすらに前を向いて走ることができたら。
「ちいさいおうち」のように、時を超えて愛されるロングセラーになる予感を感じさせる、美しい絵本です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はまったくありません。HSPやHSCのお子さまのほうがより多くのメッセージを受け取れるでしょう。自力では動けない、言葉をしゃべることもできない木馬の、深い愛情が伝わる絵本です。
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