【野ばらの村の雪まつり】どこかなつかしい、愛らしい動物たちの冬の絵本。愛されるロングセラー【小学校低学年以上】

野ばらの村に冬が来て、雪が降り始めました。トードフラックス家の子どもたちは、はじめて見る雪に大はしゃぎ。そこで、野ばらの村のねずみたちは雪まつりをひらくことにします。雪で作ったアイスホールに、ケーキやパイなどの大ごちそう。楽しいパーティーのはじまりです。
この本のイメージ 動物ファンタジー☆☆☆☆☆ 美しい絵☆☆☆☆☆ 冬の森のファンタジー☆☆☆☆☆
野ばらの村の雪まつり ジル・バークレム/作 こみやゆう/訳 出版ワークス
<ジル・バークレム>
1951年にロンドン郊外にあるエピングの森の近くで生まれた。ロンドンのセント・マーチンズ美術学院に学んだが、毎日ロンドン市内に通学するうちに、エピングの豊かな自然と生活をあらためて見直すようになり、それが“のばらの村のものがたり”シリーズとして実を結んだ。1981年第16回世界絵本作家原画展(至光社、丸善供催)みみずく賞、1982年度ボローニャ国際児童図書展エルバ賞を受賞
原題はBrambly Hedge : Winter Story.イギリスでの初版は1980年。日本語版は、かつて 岸田衿子訳「雪の日のパーティー 」というタイトルで、講談社から1996年に出版されました。
一度絶版になり、出版ワークス様から2021年に出版されています。新訳は小宮由先生です。
「野ばらの村」シリーズは、どの順番で読んでも楽しめるのですが、順番通りに読みたい方は、まずは第一巻「野ばらの村のピクニック」からお読みになってください。
※「野ばらの村のピクニック」のレビューはこちら↓
お話は……
野ばらの村に冬が来ました。
ある日、起きたら一面の銀世界。村は降り積もった雪に覆われています。
トードフラックス家の子どもたちは、はじめてみる雪に大はしゃぎ。
予想よりしっかりと降り積もった雪を見た野ばらの村の大人たちは、森ねずみ男爵と話し合い、古くから伝わる伝統行事「雪まつり」を開催することにしました。
さあ、楽しい雪まつりの準備です。
男たちは、きりかぶぐらのそばの雪の下に雪の宮殿「アイスホール」を作ります。
女たちは、おうちで次々とケーキやパイなどのご馳走つくり。
そして 三時のお茶の時間には、雪と氷でできた美しい宮殿が完成。
村のねずみたちはおしゃれをして集合、
盛大な「雪まつり」がはじまりました。
それは、明け方まで続いて……
というのがあらすじ。
ジル・バークレムの絵は、「ピーター・ラビットの絵本」のビアトリクス・ポターのようなリアリティ路線。かぎりなくリアルに近い野ねずみたちを二足歩行させて、クラシックなイギリスの衣装を着せて生活させています。
切り株や大木の中にあるねずみたちの「家」は、木の中をくりぬいた、ドールハウスのようなかわいいおうちで、ねずみたちは、そこで暖炉でパンを焼いたり、ジャムを作ったり、ブラックベリーのお茶を飲んだりして暮らしています。
ねずみの描写はかなりリアルですが二足歩行しておしゃれして生活する様子は、古い時代のイギリス人そのもの。ピーター・ラビットの影響は大きいと感じます。
毎回のストーリーには、大げさなテーマや教訓があるわけではなく、ただただ、古き良き時代の生活の楽しさやあたたかさを描いたものばかり。
今回の「雪まつり」は、ねずみたちが札幌の雪祭りの氷像のような、雪と氷で作った宮殿をつくり、そこで夜通し踊り、食べ、騒ぐというお話。日本には雪で作ったおうち「かまくら」という文化がありますが、イギリスにもあるのでしょうか。
この野ねずみたちの木のおうちや、アイスホール建設の様子の詳細さは、おそらく男の子にとってはたまらない魅力があるはず。
そして、野ねずみたちのクラシックなドレスや可愛くて美味しそうなケーキなどは、女の子が大喜びしそうです。
また、あたたかみのある筆致と、のねずみたちの仕草の愛らしさ、クラシックな雰囲気、大自然の美しさなどは、大人が読むと心がなごみ、どこかなつかしい気持ちになります。
わたしは、このサイトでは「大人の楽しみのための児童書読書」「大人のための和み絵本」をおすすめしています。
今、なかなか本が売れなくなっています。
それは、誰が悪いとかいうことではなく、おそらくはよく言われるデジタル文化のせいですらなく、ただただ度重なる災害や様々な問題から、経済的に厳しくなっている人が増えているからだと、わたしは思っています。
本が好きな人は、お金があれば買うのです。
今まで書籍は、「本好きな人が買うもの」でした。景気がよい時はそれで充分回っていたと思います。
でも、今は、みんなが苦しい時代。なかなかそうはいかなくなっています。
だから、わたしは「今まで本を買っていなかった人たち」に、読書の楽しさを伝えたい。
たとえば、高齢の方に児童書の魅力を。
若者や大人に絵本の魅力を。
児童書は字が大きいので、細かい字が辛くなってきた世代にも読みやすいし、ストーリーは正統派で安心できるものが多く、俗世の理不尽やトラブルにもまれ続けた大人には、心が洗われるような魅力があります。
絵本は、童心に戻り心をなごませたり、忘れかけていた子ども心を思いださせてくれる効果があります。
わたし自身、心身ともに疲れ果てて、絵本しか読めなくなってしまうときがあります。でも、絵本なら読めるし、読んでいると、不思議とだんだん回復してくるのです。
大人の世界で、あまりにも複雑で理不尽なできごとに出会ったとき、いろんなことに気を使いすぎてへとへとになってしまったとき、家計簿やカレンダーを見てちょっとしょんぼりしてしまったとき……
自分へのねぎらいとして絵本を読んでみませんか?
ジル・バークレムの絵本は、そんなときにぴったり。
美しい自然、詳細に描かれた植物、クラシックでかわいいドレス、おいしそうなケーキやパイ、ちらちらと優しく燃える暖炉、幸せそうにしっぽを揺らす愛らしいねずみたち……
1滴もネガティブな要素が無く、ただひたすら、かわいく、やさしく、楽しげな、純粋な幸せだけの世界です。
文章は平易で読みやすく、字は漢字まじりですがすべての漢字に振り仮名が振ってある総ルビです。
お子さまがひとりでコツコツ読むこともできますが、読み聞かせをしても楽しそう。
そして、もちろん、大人の和み本や、大切な人へのプレゼントとしても。
表紙の装丁も美しく、読み終わったあとはインテリアとして飾ってもおしゃれです。
高いお酒より、豪華な外食より、絵本が心をなごませてくれるときがあります。いや、もちろん、大人にとってはお酒もおいしいお食事も大切なんですけども。
眠っていた子ども心に声をかけて、呼び覚ましてみましょう。
きっと、疲れきった大人の心を、目覚めた子ども心が癒し、励まし、あなたを回復させてくれるでしょう。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素がいっさいありません。どこをとっても美しく、愛らしい絵本です。贈り物にもぴったり。
動物が好き、イギリスのクラシックな雰囲気が好き、ピーター・ラビットが好き、シルバニアファミリーがお好きな方にもおすすめです。
読後は、ブラックベリーのお茶やどんぐりコーヒーが飲みたくなるかも。それっぽいものがあったのでリンクしておきますね。ブラックベリーに似た桑の葉茶です。
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