【ぬまばあさんのうた】はるかなる約束をはたすために……精霊と人間の絆を描く、こそあどの森の物語第8巻。【こそあどの森の物語】【小学校中学年以上】
ある燃えるような夕焼けの日、こそあどの森のふたごクッキーとキャンデーは湖の向こうに輝く「何か」を見つけます。「夕陽のかけら」となづけたそれを、ふたごは探しに行くことにしました。用心棒はもちろん、スキッパーです。
ぬまばあさんのうた こそあどの森の物語 岡田淳/作 理論社
<岡田淳>
日本の児童文学作家。著書『雨やどりはすべり台の下で』で産経児童出版文化賞を、『こそあどの森の物語』で野間児童文芸賞を受賞し国際アンデルセン賞の国際児童図書評議会(IBBY) オナーリストに選ばれた。翻訳家、挿絵・イラスト作家、エッセイストでもある。
「日本のムーミン谷」とも呼ばれる、「こそあどの森」シリーズ、8巻目は「ぬまばあさんのうた」。初版は2006年です。
「こそあどの森」シリーズは一話完結形式で、どの巻から読んでもわかるように書いてありますが、この世界観を理解するためには、まずは世界設定や住人たちを詳しく描いている第1巻を読んだほうがわかりやすいと思います。
第1巻のレビューはこちら。↓
今回のおはなしは……
ある、夕焼けが美しい日、ふたごのクッキーとキャンデーは湖の向こうに鏡のように輝く美しい光を見つけます。
ふたりはそれを「夕陽のかけら」と名づけ、探しに行くことにしました。
用心棒に誘われたのはスキッパーです。
その湖の向こう側には「ぬまばあさん」の家があって、ずいぶん前(パセリとセロリ時代)にふたごはその家で怖い思いをしたことがあったのです。
そんなこととは知らずに、ピクニック気分でついて行ったスキッパーでしたが、湖のむこうの廃墟で、美しい赤い石を見つけたときから、不思議なことが次々とおきて……
……と、言うのがあらすじ。
これは、古い古い約束のお話。
人間は簡単に約束を忘れたり破ったりしますが、人間以外の存在、精霊などは約束を破ることができません。
人と精霊が約束をし、その遠い約束を精霊が果たそうとする、せつないファンタジーが今回のストーリー。
動物を見ていて思いますが、自然に近ければ近いほど、純粋で偽りのないものがあります。
たいていの場合、約束を破るのは人間のほうで、迷惑をかけるのも人間のほう。
そして、勝手な解釈で自然を悪者にするのも人間のほう。
だけど、いつも自然のほうが許してくれていて……。
今回のお話は、いつものような哲学的な要素はそれほどはなく、もっと原始的で純粋な、人間たちを生かしてくれている樹や動物、魚や石などの自然の優しさ、あたたかさを描いています。
そして「食べる」と言うことは、その「命」をいただくことだと。
「ウニマル」でひとりでお留守番をしながら、缶詰の食事をしていたスキッパーは、「ウニマル」の外に出て、こそあどの森の住人たちと交流し、仲良くなり、ふたごたちと遠くまで冒険し、人間以外の存在とも会話するまでになりました。
そんなスキッパーは、今回の冒険のあと、こそあどの森の人々と同じテーブルで、釣れたての魚の熱々のお料理をおなかいっぱいになるまで食べるのでした。
成長しましたね、スキッパー。
字は、やや大きめで、漢字まじりではありますがひらがな多め。ごく簡単な漢字以外には振り仮名がふってあります。読みやすいので、だいたい小学校中学年くらいから。
ファンタジーとして世界観がしっかりしていて、ムーミンシリーズのような哲学的なテーマもあり、「日本のムーミン谷」とも呼ばれているシリーズです。大人でも楽しめます。
「こそあどの森」シリーズもあと4巻。成長したスキッパーはさらなる活躍を見せてくれそうです。楽しみです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。野菜や木の実、魚や肉など自然の恵みを食べるときに、それぞれの命をいただいていることに思いをはせることができるようになるお話です。
多くを言葉で説明せず、エピソードや情景で表現しているので、HSPやHSCの方のほうが、より多くのメッセージを受け取れるでしょう。
しみじみとしたお話で、しかもハッピーエンドなので、読後感はさわやかです。
読後は、おいしい魚料理(マス)を食べたくなると思います。
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