【ゲド戦記】アーシュラ・K・ル=グウィンの不朽の名作ファンタジー第3巻。【さいはての島へ】【中学生以上】
魔法使いの島、ロークにある王子アレンが不吉な知らせを持ってくる。魔法の力が衰えているというのだ。世界に何が起きているのか。大賢人となったゲドは、アレンとともに世界の謎を解きに旅に出る。
この本のイメージ 細密な世界観☆☆☆☆☆ 魔法☆☆☆☆☆ 哲学☆☆☆☆☆
ゲド戦記 Ⅲ さいはての島へ アーシュラ・K・ル=グウィン/作 清水真砂子/訳 岩波少年文庫
<アーシュラ・K・ル=グウィン>
アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula Kroeber Le Guin、1929年10月21日~2018年1月22日)は、アメリカの小説家でSF作家、ファンタジー作家。「ル・グィン」、「ル=グイン」とも表記される。代表作は「闇の左手」「ゲド戦記」のシリーズ。「西の善き魔女」の異名もある。
ゲド戦記の原題は、Earth Sea. 3巻のタイトルは、THE FARTHEST SHOE.原書の初版は1977年、日本語版初版は1977年です。岩波少年文庫版が2009年です。
わたしの若い頃には、「ゲド戦記」「ナルニア国ものがたり」「指輪物語」が世界三大ファンタジーと呼ばれていました。どれも細密な世界観で異世界の歴史が語られる、深い物語です。これらの物語が書かれた時代には、異世界を舞台にしたクロニクルものはたいへん珍しく、多くの作家に影響を与えました。
お話が完全に続いているので、興味を持たれた方は、まずは第1巻「影との戦い」からお読みください。第1巻のレビューはこちら↓
第3巻の主人公は、エンラッド王国の王子、アレン。真の名はレバンネン。
ストーリーは……
魔法使いの島ロークに、エンラッドとエンレイド諸島から王子アレンがやってくる。
魔法の力が弱まり、魔法使いが魔法を使えなくなってしまうという奇怪な現象が起きていると言うのだ。
大賢人になったハイタカ(ゲド)は、アレンとともに世界の謎を解くべく旅に出る。
世界を支える魔法の力が衰え、世の中は秩序を失い、荒れている。
様々な冒険の後、クモというひとりの魔法使いにたどりつくが……
……と、いうのがあらすじ。
ゲド戦記がはじめて出版された頃、緻密な世界観で構築された異世界ファンタジーは珍しく、また、魔法に関する設定━魔法は専門の学院で学び、学位を得て魔法使いになる━などは、当時としては斬新で、のちに「ハリー・ポッター」をはじめとして数々のファンタジーに影響を与えました。
それまでは、魔法使いと言えば、森の奥でひとり暮らしをする、怪しげな術を使う人物、というのがスタンダードだったからです。
ル=グウィンは、魔法使いを、従来の森の奥の孤独で不気味な術者というイメージから、大学院のような権威ある巨大な研究機関で研鑽する尊い賢者というイメージに大転換しました。
そうすることで、「善き魔法使い」と「悪しき魔法使い」の区別も容易になりました。大発明だと思います。
ゲド戦記は、ベースに東洋の哲学や思想の影響を強く感じられ、単純な勧善懲悪ではなく、一人の人間の中に善き部分と悪しき部分があり、そのふたつが均衡を保つことが「生きる」と言うことだと繰り返し書かれています。
第1巻「影との戦い」で、自らが開放してしまった闇と戦ったゲドですが、今回は、とある魔法使いが野心のために開けた扉を閉める旅をします。
旅に出るときは、魔法が衰え続ける世界の謎を解き、解決するために旅立つハイタカと従者のアレンという関係だったのが、旅を続けるうちに、次第に二人の関係に変化が生じます。
ル=グウィンの作品では、光が正義、闇が悪で、光が闇をこてんぱんにやっつけてすべてが解決、と言うふうにはできていません。光と闇、善と悪は裏表であり、そのふたつの均衡を保ち、バランスをとる「中庸」にすべての答えがあるという考え方です。たいへん東洋的です。
おそらくは、一方的に光が闇を徹底的に退治する物語よりも日本人はこちらの考え方のほうが、本能的にしっくり来るのではないでしょうか。
長い長い人生の旅の後、ハイタカは、彼なりの答えにたどり着きます。
文章はかなりボリュームがあり、難しい漢字にしか振り仮名がありませんので中学生から。独特の固有名詞が多いので異世界ものに慣れていない方は、メモを取りながら読むといいでしょう。
読み応えのある物語です。
当初、ゲド戦記はこの3巻で完結しており、「三部作」と呼ばれていました。
実際、ゲド……ハイタカの物語はここで美しく完結しています。
ところが、18年経過した1990年に第4巻「帰還」が出版され、世界を驚かせることとなります。そして、その後も二冊の本が出版されています。
この緻密な世界と、この後ふたたび出会えることは、何よりの幸せ。
あと三巻、ゆっくり楽しもうと思います。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はあるにはありますが、暴力シーンなどは気をつけて書かれており、それほど気になりません。
非常に哲学的な物語なので、HSPやHSCのほうが、多くのメッセージを受け取れると思います。
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