【香君】「香り」は世界を救えるのか? 香りで万象を知る少女の物語【中学生以上】

2024年4月6日

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香君   上西から来た少女 下遥かな道       上橋菜穂子/作 装画/mia 文藝春秋

はるか昔、神郷からもたらされた奇跡の稲「オアレ稲」。ウマール人はこの稲をもちいて豊かな帝国を創りあげた。この稲をもたらした「香君」は、香りで万象を知ると言う。しかし、なんの憂いもないはずだったオアレ稲に虫害が発声した時、ひとりの少女アイシャが運命によって帝都に導かれるのだった……

この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 香り☆☆☆☆☆ 農業☆☆☆☆☆

香君 上 西から来た少女
   下 遥かな道       上橋菜穂子/作 mia /装画   文藝春秋

<上橋菜穂子>
1962年、東京都生まれ。作家。
川村学園女子大学教授。専攻は文化人類学で、オーストラリアの先住民アボリジニを研究。
著書に、「精霊の木」、「月の森に、カミよ眠れ」(日本児童文学者協会新人賞)、「精霊の守り人」(野間児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞、全米図書館協会バチェルダー賞)、「闇の守り人」(日本児童文学者協会賞、バチェルダー賞オナー)、「夢の守り人」(「精霊の守り人」「闇の守り人」と3作合わせて路傍の石文学賞)、「虚空の旅人」(「精霊の守り人」「闇の守り人」「夢の守り人」「虚空の旅人」と4作合わせて巌谷小波文芸賞)、「神の守り人」(小学館児童出版文化賞、児童福祉文化賞、JBBYオナーリスト)、「蒼路の旅人」、「天と地の守り人」、「狐笛のかなた」(野間児童文芸賞)、「獣の奏者」などがある。
「精霊の守り人」「獣の奏者」はアニメ化され、テレビ放送された。また、世界中で翻訳出版が進んでおり、「精霊の守り人」は、2008年にアメリカで出版された翻訳児童文学の中で最も優れた作品に与えられるバチェルダー賞を受賞。「獣の奏者」も、フランス、ドイツ、スウェーデン、韓国、タイ、台湾など多くの国々で読まれている。

 「精霊の守り人」(本サイトでは未紹介)の上橋菜穂子先生の本格ファンタジーです。
 初版は2022年3月。

 非常に有名な方なのですが、恥ずかしながらまだ未読でした。今回はじめて読んだ作品がこれです。
 もともと「香り」も「植物」も大好きなので、読む前からずっと楽しみで、しかし、かなりのボリュームがあるため、頑張ってまとまった時間を作りました。

 ただ、そんなのは杞憂で、読み始めたら止まらない。
 面白い作品は時間を忘れます。そして、読む速度も上げてくれるのです。

 ストーリーは……

 遥か昔、神郷から不思議な少女がもたらした「オアレ稲」。
 どんな荒地でも育ち、虫もつかず、豊かな穂を実らせる。
 稲から採れる米は滋養があり、多くの人々を飢えから救った奇跡の稲。

 この稲の力でウマール帝国は反映し、他国を支配し、その地位を磐石なものにしていた。

 しかし、この奇跡の稲に異変が現れる。
 虫がつかないはずのオアレ稲に虫害が発生したとき、それは帝国崩壊の危機をはらむ、飢饉への序章だった。

 時を同じくして、ウマールの属国〈西カンタル藩王国〉の藩王の孫、15歳の少女アイシャは、数奇な運命により帝都に導かれていた。

 彼女の常人離れした嗅覚は、帝国を、この世界を救うことができるのか?

 ……と、いうのがあらすじ。

 上巻「西から来た少女」では、「オアレ稲」と「香君」と言うふたつの奇跡に支えられているこの世界の説明と、その世界で数奇な運命に翻弄される主人公アイシャのサバイバルが描かれます。

 常人離れした嗅覚を持ち、「香り」によって人間だけでなく植物や虫たちの「心」までとらえることができる少女アイシャが「世界の秘密」に触れるようになるのが前半。

 下巻は、奇跡の稲「オアレ稲」に虫害が発生し、それがもとで世界の生態系そのものがゆらぎはじめ、それをいかに食い止めるかというパニック物の様相を呈してきます。

 アイシャが特殊な能力を持っているからといって、スーパーヒーローのように何もかも解決できるわけではなく、かえってそれが足を引っ張ることもある。
 特殊な能力を持つことによる油断、特殊な能力があるがゆえの無力感、そして特殊な能力を持つゆえの孤独やもどかしさなども、丁寧に描かれています。

 また、多くの人に支えられながらもアイシャ自身が自らの力で乗り越え、成長してゆく姿が力強く、美しい。彼女のいつだって前進しようとする意思が作品のど真ん中を貫いているのです。

 物語の周辺ではシンデレラのようなストーリーや恋愛事情もあり、ときめくファンタジーの要素もあるのですが、アイシャ自身の物語はいたって骨太で男前。

 この子を支えるイケメンや幼馴染などが清清しいほどまったく登場せず、見事なまでに少女向けのロマンチック要素皆無。それなのに、べらぼうに面白いのです。

 とくに後半の、アイシャたちが世界を救おうと諸侯たちを説得している場面、明らかに正しいことを主張しているのに、相手の「その場の欲」や「事態の矮小化」「先送り」などの都合でどうしても理解してもらえずに被害が広がってゆく様子があまりにもリアル。

 信念と確信があって行動しているアイシャたちですが、大人の男性たちから見たら「小娘のたわごと」。
 何を発言してもまともに聞いてもらえず、受け流されてしまいます。対処する充分な時間はあるのに、なにもできない。
 そのあいだにどんどん被害が広がってゆく。
 遠くからゆっくりと、巨大な津波が近づいてくるかのような恐怖が生々しい。

 はたして、世界は救われるのか……
 それはどうぞお読みになってお確かめください。

 生きること、食べること、考えること、行動すること、そして世界のこと……

 「香り」と「農業」を軸にして、小さな個人の心の底から大きな世界全体の意思まで、深く掘り下げた名作です。

 食べることや、良い香りがお好きな方、植物を育てることが大好きな方、そして読み応えのある本格ファンタジーを愛するすべての方におすすめします。

 ゆっくりできる時間をたっぷりとって、どうぞお楽しみください。

 ※この本には電子書籍もあります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

  

おすすめです。ネガティブな要素はありません。
 波乱万丈の冒険ファンタジーですが、テーマが多岐にわたり深く掘り下げられており、HSPHSCのほうがより多くのメッセージを受け取ることが出来るでしょう。

 

 聴覚や嗅覚が敏感で、日ごろから他人より多くの情報を外界から受け取りやすい方は、主人公と共感しやすいと思います。
 良い香りのハーブティーなどをお供に、お楽しみください。

 

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