【銀のいす】ファンタジーの名作。行方不明の王子を探す第4巻【ナルニア国ものがたり】【小学校中学年以上】

2024年4月7日

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銀のいす  ナルニア国ものがたり 4   C・S・ルイス/作 瀬田貞二/訳 岩波少年文庫

学校でいじめられていたジルとユースチスは、いじめっ子たちから逃れるためにナルニアへと飛び込みます。そこでアスランから行方不明の王子をさがすように命じられるのですが……不朽の名作ファンタジー第4巻!

この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 心の攻防☆☆☆☆☆ 哲学☆☆☆☆☆

銀のいす  ナルニア国ものがたり 4   C・S・ルイス/作 瀬田貞二/訳 岩波少年文庫

<C・S・ルイス>
本名クライブ・ステープルス・ルイス(Clive Staples Lewis 1898年11月29日 ~ 1963年11月22日)。アイルランド系のイギリスの学者、小説家、中世文化研究者、キリスト教擁護者、信徒伝道者。全7巻からなるハイファンタジー小説『ナルニア国物語』の著者として有名。

 原題はThe Silver Chair. イギリスでの初版は1953年。日本語版初版は1966年、岩波少年文庫版は1986年です。

 世界三大ファンタジーのひとつ、ナルニア国ものがたり第4巻。(世界三大ファンタジーとは、40年くらい前によく言われていた言葉で、善と悪、光と闇などをテーマとした、細密な世界設定のクロニクルものとして、「ナルニア」「ゲド戦記」「指輪物語」をあげる方が多かったと記憶しています。

 どの巻も一話完結ですが、おおまかな流れはあるのでアスランとペベンシーきょうだいが出会う第1巻「ライオンと魔女」から順番に読んだほうがわかりやすいでしょう。
 「ライオンと魔女」のレビューはこちら

 今回のお話は……

 学校でいじめられていたジルとユースチスはいじめっ子から逃げるためにナルニアへと脱出します。
 ナルニアにたどりついたふたりは、アスランから行方不明のナルニア王子を探すよう、使命をうけます。

 道中、沼人の泥足にがえもんと道連れになり、三人で冒険の旅に出ますが、三人はアスランの忠告をことごとく守れません。

 ついにたいへんな危機に襲われることになりますが、はたして……

 ……と言うのがあらすじ。

 今回の主人公は第3巻で登場したユースチスとその友だちの女の子ジル。
 ジルはアスランから四つの使命を預かりますが、これは思ったよりもたいへんなことでした。

 ジルはアスランからいいつかったことを毎晩唱えて忘れないようにつとめてきましたが、やがて唱えるのを忘れ、いいつけもあやふやになってしまいます。
 そのために、一行はたいへんな目に遭うのでした。

 作者のC・S・ルイスは敬虔なキリスト教徒で、「ナルニア国ものがたり」はキリスト教のおしえを小さな子どもたちにわかりやすく教えることを目的として書かれたと言われています。

 この「銀のいす」はファンタジーとしてもちろん面白く読めるのですが、要所要所に宗教的な比喩があり、日本人のわたしたちにとってはそれを読み解く興味深さもあります。

 不思議なライオンのアスランは、この物語に置いて救世主的な存在として登場します。
 ヒロインのジルはナルニアに迷い込んだときに彼から四つの使命を言い付かります。これはかなり複雑なもので、彼女はペンや紙をもっていなかったので、何度も繰り返して復唱し暗記します。

 彼女はこれを忘れてしまわないよう、毎晩寝る前に唱えて眠るようにしていたのですが、あるとき、緑色のドレスを纏った美しい貴婦人に出会い、彼女から巨人の棲むハルファンの城でのもてなしの話を聞き、その魅力にとりつかれて唱える習慣を忘れてしまいます。
 これが彼女たちをたいへんな危機に陥れることとなります。

 イギリスの子どもたちは、毎晩眠る前に神様への祈りを捧げる習慣があります。
 神様の教えは小さな子どもには判りづらく、古い文章は暗号のように難しいですが、毎日唱えることでしだいに理解を深めてゆくとされています。
 しかし、途中で暖かいお部屋や美味しいごちそう、ふかふかのおふとんや気持ちのいいお風呂の話を聞いてしまったら、きっと、そのような窮屈な習慣はたちまち忘れてしまうでしょう。

 アスランを信じ、行方不明の王子を助けたいと思うジルとユースチスの純粋な気持ちが子どもらしさだとしたら、美味しいごちそうの話を聞いてついつい務めを忘れてしまうのも子どもらしさ。
 けれども、子どもたちはその失敗を失敗のままにしておかず、彼らなりのがんばりで乗り越えることに成功します。

 クライマックスでは悪の黒幕と泥足にがえもんが「真実とは何か」についての激しい論戦。

 悪の黒幕は人が「真実」だと信じているもののもろさ、曖昧さを指摘し、自分たちの見せた世界こそが真実で、ジルやユースチスたちが「現実」だと信じているものは虚構だと言い張ります。

 これはキリストの「荒野の試練」のようにも感じられるし、釈迦の解脱前の瞑想時に悪霊から受けた様々な精神攻撃にも似ています。

 もちろん、こんなことは考えずに不思議なお話として楽しんでも充分に楽しめるパワーが「ナルニア国ものがたり」にはあります。

 しかし大人になってから読み返すと、ルイスが小さな子どもたちに伝えようとしていた祈りにも似た想いが感じられます。日本人のわたしが感じることなので、この「感じ」はもしかしたら本来意図されたものとは違うのかもしれません。

 しかし、子どもの幸せを願う心には万国共通のものがあるはず。

 「銀のいす」は非常に哲学的で、心理学的な側面もあり、研究者の方々の解釈を読むとさらに深く楽しむことができます。子どもたちは物語を楽しみ、大人になってからはまた深堀りして楽しむことが出来る。児童文学の名作は一生読み返して発見を続ける旅のようです。

 文章は古風ですが気品があり、読んでいるだけで癒されます。今の小学生には聞きなれないことばもあるかもしれませんが、ぜひこの文章で楽しんで。

 何度読んでも新たな気づきと出会える、ファンタジーの名作をぜひどうぞ。

 ※この本には電子書籍もあります。

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