【あかりの木の魔法】遠い記憶が今を助ける……自分を取り戻す物語。こそあどの森の物語第9巻。【こそあどの森の物語】【小学校中学年以上】

2024年4月7日

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あかりの木の魔法 こそあどの森の物語    岡田淳/作 理論社

湖のむこうに小さなテントをみつけたふたごは、こっそり偵察に行きます。そこにいたのは「湖の怪獣」を研究する学者さん。さて、この人はいったい、良い人なのか悪い人なのか……

この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 多面的な考え☆☆☆☆☆ 愛された記憶☆☆☆☆☆

あかりの木の魔法 こそあどの森の物語    岡田淳/作 理論社

<岡田淳>
日本の児童文学作家。著書『雨やどりはすべり台の下で』で産経児童出版文化賞を、『こそあどの森の物語』で野間児童文芸賞を受賞し国際アンデルセン賞の国際児童図書評議会(IBBY) オナーリストに選ばれた。翻訳家、挿絵・イラスト作家、エッセイストでもある。

「日本のムーミン谷」とも呼ばれる、「こそあどの森」シリーズ、9巻目は「あかりの木の魔法」。初版は2007年です。

 「こそあどの森」シリーズは一話完結形式で、どの巻から読んでもわかるように書いてありますが、この世界観を理解するためには、まずは世界設定や住人たちを詳しく描いている第1巻を読んだほうがわかりやすいと思います。 

 第1巻のレビューはこちら。↓

 今回のお話は……

 ふたごのパンプキンとキャロットは自分の家の近くの湖の向こうに小さなテントを見つけます。
 誰かよその人がこそあどの森へ来たようです。

 探検して様子を見に行くふたり。テントでの会話を盗み聞きしたふたりは、そこにいるのが「湖の怪獣」を研究している学者イツカさんだと知ります。

 しかし、最近こそあどの森の近くに人さらいが来ているらしいと噂を聞いたポットさんは、よそ者に子どもが近づくのが心配でたまりません。

 はたして、学者イツカさんは良い人なのか悪い人なのか……

 ……と、いうのがあらすじ。

 何度もどんでん返しがあり、これ以上書いてしまうと面白くなくなってしまうので書けないのですが、いままでのなかで一番、展開が凝っていたと思います。

 子どもが読むと純粋にストーリーを楽しめるし大人が読むと何重にも折り重なったテーマを読み取れる、複雑構造のお話です。

 一つの事件を様々な人のそれぞれの視点で描いており、それぞれにとって「ハッピーエンド」になっているのが素晴らしい。

 他人の話をなんでも素直に受け取るスキッパーも論理的に考えて疑うポットさんも、どちらもそれぞれの意味で「正しい」ことがラストでわかります。

 そして、どんなに道を間違えて生きてきた人でも「自分が愛されて生まれてきた」と知ったときにやりなおせるのだと、それほどに「愛された記憶」は人を支えるものなのだということも。

 このあたりは、小さな子どもの頃には気づかない仕掛けですが大人になってから読むと浮き上がってくるつくりになっていて、子どもが「楽しい」「面白い」と言うのとは別の場所で心を揺さぶられるようになっているのです。

 人は「本当の強さ」を手に入れたとき、成長し前進しはじめます。

 愛されて育った人は精神的に土台の部分がしっかりしていて強いのです。
 モンゴメリの「赤毛のアン」でもこの部分は非常に重要なテーマとして描かれています。空想ばかりして地に足がつかなくフワフワしていたアンの心をどっしりと土台のあるものにしたのは、マシュウの限りない愛でした。
 良い子でなくても、男の子でなくても、力仕事ができなくても、外で稼いで来ることができなくても……

「わたしが男の子だったらよかったのに」と言うアンに、マシュウが「1ダースの男の子よりもアンのほうが……」と応えるシーンは、今でも思い出すだけで涙がこぼれます。

 アンが「支えてもらう側」の人間から「支える側」にまわろうと決意した重要な言葉です。

 これと同じようなインパクトある出来事と人生のターニングポイントがこの物語でも描かれます。そして、もしかしたら、それはどんな人の人生にも、こんなにふうにひそやかに訪れるのかもしれません。

 字は、やや大きめで、漢字まじりではありますがひらがな多め。ごく簡単な漢字以外には振り仮名がふってあります。読みやすいので、だいたい小学校中学年くらいから。

 ファンタジーとして世界観がしっかりしていて、ムーミンシリーズのような哲学的なテーマもあり、「日本のムーミン谷」とも呼ばれているシリーズです。子どもが読んでも大人が読んでも楽しめるように書かれており、全年齢におすすめです。

 「こそあどの森の物語」は全部で12巻。ゴールデイウィークに一気読みもいいですね。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。今回は後味の悪い話になるのか?と中盤でハラハラしますが「こそあどの森」らしい優しいラストが待っています。

 ストーリーをそのまま受け止めても面白いですが、様々なテーマが多重に積み重なっているのでHSCのお子さまのほうが多くのメッセージをうけとれるでしょう。

 読後はパンプキンパイとキャロットケーキでティータイムを。

 

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