【家なき娘】働く女性にもおすすめ!祖父とめぐり会った少女は、無事名乗ることができるのか?天涯孤独の少女のサクセスストーリー。【小学校高学年以上】

2024年1月21日

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家なき娘 下  エクトール・マロ/作 二宮フサ/訳 偕成社文庫

フランス人を父に、インド人を母にもつ少女ペリーヌは、両親を失い天涯孤独となりました。母の遺言を胸に、祖父ヴュルフランの工場で働き始めたペリーヌ。けれど、ヴュルフェランは視力を失っており、ペリーヌは自分が孫だと言い出せず…

この本のイメージ 怒涛の展開☆☆☆☆☆ 立身出世☆☆☆☆☆ 感動のハッピーエンド☆☆☆☆☆

家なき娘 下  エクトール・マロ/作 二宮フサ/訳 偕成社文庫

<エクトール・マロ>フランスの小説家。代表作は「家なき子」「家なき娘」

 昨日の続き、「家なき娘」の下巻のレビューです。上巻のレビューはこちら。


なんとか父の故郷マロクールに辿り着いたペリーヌは、祖父の工場で働き始めます。祖父は、その辺り一帯に紡績工場を展開する敏腕経営者でしたが、激務のせいで視力を失っていました。

 母の持たせてくれた出生証明書を見せることが出来ない状態だったのです。

 ペリーヌは、孫の名乗りを上げるよりも信頼してもらうほうが大事であると悟り、祖父と出会えることを祈りながら、オーレリーと名乗って工場で女工として働き始めます。

 女工の仕事はかなりきつく、怪我をしてしまう人も多い劣悪な職場でした。そこでも、ペリーヌは、創意工夫で必要なものを生み出しながら働いていました。
あるとき、イギリスからの機械を設置する技術者に対応する、英語のわかる技術者が出張でいなかったため、ペリーヌは臨時の通訳として呼ばれます。(インドが英国領だったことから、ペリーヌは英語とフランス語が話せるバイリンガルでした)

 そこで実力を認められたペリーヌは、常勤の通訳として働くことになります。

 いっぽう、祖父ヴュルフランは、勘当した息子エドモン(ペリーヌの父)の行方を捜し、海外の調査会社と連絡をとろうとしていました。そのさい、フランス語と英語のできる部下がどうしても必要だったため、臨時通訳としての働きを評価して、ペリーヌを抜擢します。

 これにより、突如としてペリーヌは、ヴュルフランの経営するパンダヴォワーヌ株式会社のお家騒動の渦中に投げ込まれることになりました。

 長年、正当な跡継ぎのエドモンが行方不明だったため、パンダヴォワーヌ株式会社の跡取りを狙う人間は増えていました。ヴュルフランの甥のテオドールとカジミール、工場長のタルエルが三つ巴の争いをしているさなかに、重要な鍵を握る人物としてペリーヌが登場したわけです。

 三人は、ペリーヌがやり取りしている手紙の中身を知ろうとして、彼女にあの手この手の圧をかけます。これを、頑として拒否し、ヴュルフランのプライバシーを守りぬいたペリーヌの手腕が見事です。

 彼女は、いきなり自分が孫だと名乗り出ることもなく、また、三人の有力者に対して、正面から反抗することもなく、慎重に、控えめに、かつ頑固に、ヴュルフランからの指示を守ります。また、彼らに騙されることのないよう、注意深く、複雑な社内政治についての情報をこつこつと集め、まだ幼いとも言える年齢にしては驚くほどの思慮深さで、この込み入った問題に対処していきます。

 詳しくは、お読みになっていただきたいのですが、ペリーヌの頭の良さには舌を巻きます。

 対応する相手は全員、自分よりはるかに地位の高い相手で、それぞれが自分の利害で反目しあっており、表面的には綺麗事をいいながらペリーヌから情報を聞き出そうとするところを、ペリーヌは礼儀を損ねないようにしながらも、仕事上の機密を断固として守りぬくのです。

 すごい、ペリーヌ!こんなこと、大人でもなかなかできません。

 下巻の面白さは、ペリーヌのわらしべ長者のような出世と、欲にまみれた社内政治戦争に巻き込まれたペリーヌの心理戦です。

 この困難な戦いを乗り越え、やり抜いていくペリーヌのすがたはかっこいいです。また、祖父のヴュルフランが、女性社員を純粋に実力のみで評価し抜擢していくので、なるほどこの人は土地でこれだけの実績を上げることができる人だと納得できるのです。

 作者としては、ヴュルフランは経営者としてまだまだ足りないところがあると言う書きぶりなのですが、いまのブラック企業山盛りのご時勢を見ていると、最高に近い社長さんだよなあと思います。女子社員の容姿にこだわらないのは視力を失っているからだとしても、社員の様子にはこまめに目配りし、仕事のクオリティにこだわり、少女でも実力があると判断すれば抜擢するという、並々ならぬ判断力です。

 それが、なんの情もない判断だからこそ、ペリーヌの培った様々な力が評価されているとわかるのです。

 また、ペリーヌのほうも、向上心や判断力、思慮深さ、祖父への真心、そして、この難しい状況を乗り越えていく力が、本当に10代の少女かしらと思う頼もしさです。だいたい、この年齢、わたしだったら指示されたことを指示されたとおりにこなすのでせいいっぱいですよ。

 それが、自分の頭で考え、判断し、祖父に対して何が最善かを常に考えながら、全員が自分より目上であるという難しい状況に対応しきるのは、本当にすばらしいです。しかも、誰にも頼らず、正解を教えられることもなく、それだけのことをやりとげるのですから。

 むしろ、ここに恋愛などの要素がひとつも入っていないので、女性が働きながらキャリアを積んでいくストイックなりりしさ、かっこよさが際立ちます。
ペリーヌが乗り越えていく数々の問題は、現代の職場にも通じるもので、彼女の敏腕にほれぼれしてしまいます。

 ペリーヌがどんな風に戦い抜いていくかは、ぜひ手にとってお読みいただきたいです。

 ラストは、もちろんハッピーエンドです。それだけでなく、もともと優れた経営者だったヴュルフランが、ペリーヌとの交流を通してさらに経営者としてもう一段階成長しようとする、つまり、優れた経営者としてだけでなく社員を「家族のように」慈しみ愛する、会社そのものの父になろうと決意するのです。

これが原題の En famille=家族と共に の意味なのです。

すごいですね。100年以上前に書かれた小説とは思えません。ちょうどエジソンが電球を発明した頃で、世界が激しく変化していた時代なので、社会をもっと新しくよりよい形にしようという機運が高かったのかもしれません。

「家なき娘」の下巻は、現代の働く女性に多くの励ましをくれる本です。上巻ともども、いろんな場所でがんばる女性におすすめです。

※この本には電子書籍があります。

※紙の本は現在、Amazonでは入手困難です。古書でお求めになるか、図書館、書店にある場合があるので、お近くの書店の書店員さんにお尋ねください。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 上巻の前半の展開がかなり厳しいですが、そこを乗り越えることが出来れば、あとはドラマチックでわくわくするサクセスストーリーです。シンデレラストーリーではなく、文句なしのサクセスストーリーなので、主婦、学生さん、働く女性、厳しい場所で頑張っているすべての女性におすすめいたします。

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