【ライバル・オン・アイス】フィギュアスケートが好き!夢に向かってひたむきに進む自己実現ストーリー開幕【小学校中学年以上】

小学校四年生の美馬は、ひょんなことから親友の江美香とともにフィギュアスケートを習うことになりました。スケートの魅力に惹かれ、のめりこんでゆく美馬。けれど、思わぬ困難の連続で、一度は諦めかけた美馬ですが……
この本のイメージ フィギュアスケート☆☆☆☆☆ 自己実現☆☆☆☆☆ ライバル☆☆☆☆☆
ライバル・オン・アイス 1 吉野万理子/作 げみ/絵 講談社
<吉野万理子>
1970年生まれ。神奈川県出身。作家、脚本家。2005年、「秋の大三角」(新潮社)で第1回新潮エンターテインメント新人賞を受賞。児童書の作品に、シリーズ20万部を超え、文庫化もされた「チームふたり」などの「チーム」シリーズ(学研)や「100%ガールズ」シリーズ、「時速47メートルの疾走」「赤の他人だったら、どんなによかったか。」(以上講談社)などがある。「劇団6年2組」「ひみつの校庭」(ともに学研)でうつのみやこども賞受賞。
<げみ>
1989年兵庫県三田市出身。京都造形芸術大学美術工芸学科日本画コース卒業後、イラストレーターとして作家活動をはじめる。

<この季節おなじみのスケートトーク。不要な方はスクロールしてね>
先週末は、フィギュアスケートグランプリシリーズ2022第4戦イギリス大会「MKジョン・ウィルソン杯2022/シェフィールド2022」でした。本来だとこの季節は中国杯なのですが、感染症関係で変更になりました。
今回の大会では、怪我や病などを乗り越えてカムバックしてくれた選手が多く、見ているだけで元気付けられる想いでした。
我らが氷上のフェアリー、三原舞依選手、優勝おめでとうございます!
難病を乗り越えて(付き合って)のこの演技。三原選手が元気に滑ってくれるだけでうれしい。でも、優勝するまで強くなって、もっとうれしい。
彼女が氷上で舞っているだけで周囲の空気が清らかになってゆくような、マジカルな雰囲気のある不思議な選手です。ふわっとした浮遊感のあるジャンプ、ぐいーんとのびるスパイラルが美しい。これからも応援しています。
男子は、佐藤駿選手、銅メダルおめでとうございます! 怪我からはずいぶん回復しているようで安心しました。多種類の4回転を跳べる高難度ジャンパーでアクセルを除けばいちばん難しいルッツの4回転を武器として持っています。クワドルッツは男のロマン。フリーはやや不調でしたが、完成形が楽しみです。
島田高志郎選手は4位。すばらしい演技でした。しみじみとした情感を表現できる選手です。楽しさだけでなく、おどけたなかに哀愁があり、繊細な感情を表現してくれます。チャップリンははまりプログラムだと思います。
5位は壷井達也選手です。壺井選手は昨期世界ジュニア銅メダル、今年グランプリシリーズデビュー。音楽と一体になった表現ができる選手です。音と動きにまったくずれがなく、音感と身体能力がずばぬけています。今後の活躍が楽しみです。
海外選手のことも少し。
デニス・ヴァシリエフス選手、銀メダルおめでとうございます! 日本では「ラトビアのデニスくん」略して「ラトデニくん」の愛称で愛されている選手です。(もともとはカザフスタンの故デニス・テン選手との混乱を避けるために生まれた愛称) 立ち姿や動きに非常に華があり、覚醒が待ち望まれていました。日本のお城や鎧を愛していることでも有名。ポニーテールは侍スタイルなのでしょうか? さらなる活躍を期待しています! ヴァシリエフス選手と島田選手が大活躍でステファン先生も大喜び。見ているだけでホッコリしてしまいました。
次はNHK杯です。アイスダンスでは日本のレジェンドカップル「かなだい」と、オリンピアンカップル小松原組が出場、ペアでは「りくりゅう」こと三浦木原組が出場します。
今年のフィギュアスケートは、浅田真央さんの素晴らしいショー、羽生選手のプロ転向、織田信成選手の現役復帰と話題も多く、若い現役世代も見ごたえがある選手ばかりです。年末まではフィンランド大会、グランプリファイナルとイベント目白押し。そして、クリスマスはもちろん、全日本選手権。ファイナルと全日本はゴールデンタイムにテレビ放送もあると思うので、オリンピックで興味を持った方は、ぜひ見てみてくださいね。
<ここからが本題。本日の本紹介>
本日ご紹介するのは、吉野万理子先生の「ライバル・オン・アイス」。2016年初版です。
フィギュアスケートを習う10歳の女の子、三矢城美馬と彼女のライバルたちが織り成すスポーツ群像ドラマ。
ストーリーは……
美馬は10歳。父はなく、不動産の営業をしている母と二人暮らし。
親友の江見香がフィギュアスケートを習うことになり、成り行き上「付き添い」で一緒に習い始めた美馬。
江見香の付き添いなので、料金は江見香のお母さん持ちと言う特殊な状況で練習を始めた美馬でしたが、フィギュアスケートの魅力に目覚め、のめりこんでしまいます。
けれども、美馬の家にはフィギュアスケートを継続するだけの経済的余裕はなく、美馬のお母さんはスポーツを習うことには厳しい。美馬はあきらめざるをえなくなってしまうのですが……
……と、いうのがあらすじ。
「ライバル」と言う言葉の語源はラテン語の「小川」を意味するrivus. 「ひとつの川を巡って争う人々」と言うどうしても負けられない相手、「宿敵」と言うような意味合いの言葉です。
しかし、日本語の「ライバル」はただの「敵」ではなく、「好敵手」と言う「自分とは利害が対立するので時に戦うこともあるが、互いに良い影響を与え合い、向上する関係」と言う意味が含まれます。「好敵手」って良い言葉ですよね。本当に日本語は美しい。
物語には、女優のお母さんとフィンランド人のF1レーサーのあいだに生まれた玲央くんという毒舌王子様系キャラも登場しますが、美馬とはいまのところ恋のような雰囲気もなく、あくまでストーリーは女の子同士の友情や対立が第1巻のメイン。
夢中になるものや賭けたいものがみつかるまでは楽しく仲良くできた親友江見香との関係も、美馬がフィギュアスケートに魅せられ、才能を発揮したことで大きく変化してしまいます。
美馬と江見香との関係は、大人が読むと「これはまあ、どっちの立場でも無理も無いなあ」と思えるように上手く描かれているのですが、子どもの視点ではこれはなかなかきつい。
処世術など知らず、立ち回りがうまくない美馬は、思わぬ人間関係の荒波にもまれてしまいます。
この物語のすごいところは、そこで誰も助けないところ。
周囲の大人は美馬のフィギュアスケートへの情熱や覚悟を試すように、彼女が本気で扉をノックするのをただじっと見守っているのです。
そして、美馬は固く閉ざされていた扉を、彼女の持てるパワー全てを賭けてこじあけるのでした。
この物語には様々な「ライバル」が登場します。美馬を認めない者、鬱屈した感情を抱く者、それぞれに事情も背景もあります。
冒頭で登場した、美馬があこがれる大船百合香も、いつかは正々堂々とした強大なライバルとして彼女に立ちはだかるのでしょう。
そのとき、美馬はどんな成長をとげているのでしょうか。
ひりひりとした情熱だけが主人公を支える、スポーツ群像ストーリーです。あと2巻あるようなので、続きが楽しみです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はあまりありません。美馬が友だちたちと気持ちがすれ違うあたりは、苦しい気持ちになりますが、美馬は乗り越えます。
フィギュアスケート大好きなお子さまにおすすめです。
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