【青い月の石】地下の王国へと旅立つ静かなオランダのファンタジー。【小学校中学年以上】
月が青くなると特別なことがおきる━━ある日、子どもたちの前に恐ろしい姿の男が現れました。彼の名はマホッヘルチェ。地下世界の王でした。ヨーストとヤンは、勇気を出して、彼の足跡を追いますが……
この本のイメージ 冒険☆☆☆☆☆ 友情☆☆☆☆☆ 愛☆☆☆☆☆
青い月の石 トンケ・ドラフト/作 西村由美/訳 岩波少年文庫
<トンケ・ドラフト>
Antonia “Tonke" Johanna Willemina Dragt(1930年11月12日生まれ)は、オランダの作家であり、児童文学のイラストレーター。インドネシア、ジャカルタ生まれ。代表作は「王への手紙」。
2018年に出版されたばかりの、比較的新しい本です。実は原作はもっと長くて、この倍はあったのを、後半部分だけ翻訳されて発表されたもののようです。これは、前半も読んでみたいですね。
独特の、穏やかで静かな空気が流れる、美しいファンタジーです。
原作の前半にあたる部分で、ヨーストは不思議な冒険をいくつもして帰ってきたようなのですが、それを学校の友達たちに話したため、彼は学校でうそつき扱いをされて孤立していました。
そんなとき、学校の子どもたちは童歌(「かごめかごめ」みたいな歌)で遊んでいるうちに、マホッヘルチェという地下帝国の王様を呼び出してしまいます。彼の足跡をつけて歩いてゆくヨーストといじめっ子のヤン。
けれど、それは、おそろしい地下の王との戦いと冒険の幕開けでした。
ヨーストは足跡をつけてゆく途中で、イアンという王子に出会います。彼は父が地下の王にだまされて命を助けてもらった代償に地下にゆかねばならない運命でした。イアンとともに地下にゆくことにしたヨースト。
地下帝国で、ヨーストと王子は家に戻るために三つの任務を課されます。なんとかそれをクリアした二人ですが、思わぬ事件が置き、簡単には解放されないことになってしまうのです……
はたして、ふたりは無事に家にもどれるのでしょうか。
……と、言うのが、今回のストーリー。(本当はもっといろいろあります)
もともと、これは1968年から1980年に読書教材として発表された「青い石」と言う八話のお話をひとつにまとめたもののようです。読書教材としてこんなに素敵なファンタジーが読めるオランダっていいですね。
お話に登場する人物にはまだまだ魅力的な人がいて、地下帝国の姫ヒヤシンタ姫や、近所の女の子フリーチェ、ちょっとだけ魔法が使えるヨーストのおばあちゃん、森の魔法使いオルムなど、地下の王といじめっ子以外は、心優しいいい人ばかりです。
あ、そうそう、ヤンは実はいい子だったことがわかって、ヨーストと仲良くなります。
以前の記事で「女の子は冒険をゆるされない」と書きましたが、女流作家のファンタジーはそういう現実の事情を汲んで、女の子を冒険に参加させてくれます。
この物語も、地下帝国のヒヤシンタ姫とヨーストの幼馴染フリーチェが大活躍。
ヒヤシンタ姫は、地下で青い花の面倒をみることを担当しているお姫様で、魔法が使えるので、その力でヨーストたちを助けてくれるのです。
お姫様が王子様に助けられてばかり、助けてもらうのを待つばかりでは、つまらない。
「お姫様は囚われるもの」「それを王子様が助け出すもの」と言う縛りは、長いことおとぎ話の制約でした。
一昔前の「青は男の子の色」「赤は女の子の色」のようなものです。
でも、この物語のヒヤシンタ姫は、青い花の姫君なのです。青は夜や月の光を思わせます。白やピンクみたいにかわいらしいだけじゃなく、赤やオレンジのように情熱的ではないけれど芯の強い美しい色です。
じつは日本の女の子は、この「色の呪縛」から比較的早く解放されます。それは、日本の伝統色に「紺色」があるから。高校生くらいになると、圧倒的に無難なこの色を大人から提案されますしね。
しかし、さらに歳をとってくるとまたちがってきます。幼児期に「女の子らしい」と言われていたピンクなどのかわいらしい色が今度はゆるされなくなる。性別や年齢で色が押し付けられるなんて、ほんとうにめんどくさいですね!
ただ、色については男子のほうが縛りが多く、女子よりずっと気の毒です。誰がどんな服を着ても、本人が幸せならいいじゃないですかねえ。かわいい色や明るい色が似合う男の人って多いんです。男だからって、黒と紺とグレーしか着ないのは、もったいないですよ。
話が脱線してしまいましたが、この物語でもいろんな「制約」が出てきて、それを突破してゆく展開になっているのです。魔法がからむ話って、たいていそうなのですが、大まかに言うと「縛る魔法」と「解放する魔法」の戦いです。(「バラバラにする魔法」と「つなぐ魔法」の対決もありますが、本質的には同じ)
不思議な冒険を信じてもらえず、「ふつうの子どもたち」からいじめられていたヨーストは、同じような冒険に巻き込まれたヤンに理解され仲良くなり、いじめられっ子状態から解放されます。魔王との契約にしばられていたイアン王子は契約から解放され、地下世界に縛られていたヒヤシンタ姫は地下から解放されます。
フリーチェは女の子だからと大人しくしていないで冒険に出てしまいますし、そうして冒険は彼らを深い友情でむすびます。
前半は、ヤンとヨーストががんばるのですが、後半はフリーチェとヒヤシンタ姫ががんばります。
しかし、イアン王子がねえ、これがまた、古典的なおとぎ話の王子のように、まあ、頼りにならないのです。
だいたい、この物語の本質って、この王子と王子の父親の長ひげ王の問題の尻拭いみたいなところがありますしね……。
しかしながら、美しい鎧を着たすらりとした騎士様が活躍するのではなく、三人の子どもたちががんばるファンタジーは、うきうきとした楽しさがあります。やっぱり、子どもは冒険しなくちゃね。
地下帝国と夜の描写が深く、青く静かな雰囲気につつまれた、不思議なファンタジーです。
終始、淡々と話はすすむのですが、お話がすすむにつれ、ばらばらだった人たちが交流し、結束してゆくのがとっても気持ちいい。
ラストは文句なしに「めでたし、めでたし」なので、これはおすすめですよ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。
地下帝国や姫たちの描写が細やかで、独特の雰囲気があります。静かで美しいファンタジーです。
秋の夜長に、熱々の茶をお供に。
青い青いバタフライピーや、マロウのお茶なら、雰囲気ぴったりです。
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