【てぶくろをかいに】人はわかりあえるのか?童話にこめられたメッセージ。【絵本】【4歳 5歳 6歳 】

2024年2月17日

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てぶくろをかいに 作/新美南吉 

雪の夜、はじめての冬をむかえる子狐が、生まれてはじめて山を下り、人間の町に手袋を買いに行きます。人間と狐の、一瞬の心温まる交流を描く童話です。

この本のイメージ あったか☆☆☆☆☆ かわいい☆☆☆☆☆ 救われる☆☆☆

てぶくろをかいに 作/新美南吉 

<新美南吉> 、日本の児童文学作家。本名は新美正八(旧姓:渡邊)。愛知県半田市出身。雑誌『赤い鳥』出身の作家の一人であり、彼の代表作『ごん狐』(1932年)はこの雑誌に掲載されたのが初出。結核により29歳の若さで亡くなったため、作品数は多くない。童話の他に童謡、詩、短歌、俳句や戯曲も残した。

 新美南吉と言えば、「ごんぎつね」があまりにも有名ですが、ほかにもいくつかの童話を残しています。この「てぶくろをかいに」は、子狐が人間の町に手袋を買いに行く、心温まる話です。

 「ごんぎつね」は子供心に衝撃を与える哀しい話で、わたしもこの話については1000文字どころか、それ以上、余裕で書けるくらいの感想はあるのですが、このサイトではなるべくハッピーエンドの話を取り上げたい方針があるのとお正月早々と言うこともあり、今回は見送らせていただきました。

 「ごんぎつね」は、神視点というか人間視点で書かれた童話で、人間と狐が分かり合えそうで分かり合えない、やりきれない話でした。(正直言うと個人的には、ごんより撃ってしまった兵十のほうが辛いだろうなと思っています)

 「てぶくろをかいに」は、狐視点で書かれた童話で、人と狐は分かり合えるかな、分かり合えるかも?と言うところで、終わっています。「ごんぎつね」よりあとに書かれた作品なので、「ごんぎつね」をふまえての、作者のさまざまな想いが込められているように感じます。

 寒い冬、雪を始めて見る子狐。

 自分が生まれてきた世界のことをほとんど知らなくて、どんなこともまだまだ素直に受け止められる歳です。

 母狐のほうは、人間の町に行ったことがあり、そこでとても恐ろしい目にあったので、人間が怖くてたまりません。昔一緒に人間の町に行った友達狐と言うのは、ごんのことかもしれませんね。

 寒さで小さい手が凍えている子狐のために、母狐は手袋を買ってあげようと思います。でも、自分では足がすくんで行けないので子狐の片手を人間の手に変えて、「扉からこの手を出して買ってきなさい」と言うのです。

 母狐は、ちょっとだけ魔法が使えるようだけど、子狐をまるまるぜんぶ人間の姿に変化させられるほどの力は無いんでしょうね。

「なんでそんな怖いところへ子供を一匹で行かせるのだ、愛情がないのか」と読者に感じさせないように、凍えた子狐の手を母狐がやさしく包んであたためるシーンがあります。そこで母狐の子狐に対する愛情は、しみじみと伝わってきます。

 人間とはなんなのか、それすら知らない子狐は、恐れと言うものが無いので、真っ白な心で人間の町へ下りていきます。

 でも、お店でうっかり狐のほうの手を出してしまい正体がばれてしまうのですが、無事に手袋を売ってもらい、母狐のところに戻ってくるのです。

 この話は「ごんぎつね」と対極の構造をしています。
ごんは人間たちの先入観で兵十に撃たれてしまうのですが、「てぶくろをかいに」の帽子屋さんは、最初は先入観で相手を疑いつつも、出された硬貨を慎重に確かめて、お金がちゃんと本物だと確認すると、相手が狐であろうと手袋を売るのです。

つまり、「相手が誰であろうと、ちゃんと取引しようとする相手には応じる」姿勢を見せたわけですね。

 異種族がすれ違うように出会い、無事に交流して、お互いのことをちょっとだけ認め合ったところで話は終わります。

 ほんとうに、人間は、いいものかしら?
 ほんとうに、人間は、いいものかしら? 
  (引用)

 これは、作者自身のつぶやきでもあると思います。

 「ごんぎつね」を書いたとき、もしかしたら作者は「まあ、世の中なんてこんなもんだよ」と思っていたのかもしれません。でも、「てぶくろをかいに」を書いたときには、人生や世の中や、人間そのものに対して「まだまだ捨てたものじゃない」と思い始めていたのかも。

 新美南吉の童話の「狐」は文字通りの狐ではないと思います。これは、「自分と価値観の違う人」の比喩で、「人間は違う価値観の人間と分かり合えるのか」をテーマにしていると思うのです。

 現代でも、いじめやパワハラ、モラハラなど、人間関係の悩みはつきません。職場で学校で、近所の人間関係で気持ちと気持ちがすれ違い、分かり合えないまま、深刻なトラブルになることはよくあります。
そんなとき、「こうすれば解決できるんだよ」と言うような安易な答えはありません。

「ごんぎつね」は、異種族間のすれちがいの最も悲劇的なパターンを描き、「てぶくろをかいに」は、最も幸運なパターンを描いています。

 どちらにも、作者からの深い想いが感じられます。

 分かり合えるも分かり合えないも、かなり運の部分があり…そして、先入観を捨て相手をよく見る、確かめるという慎重さも必要なのだと。

 その「幸運な出会い」があれば、それをきっかけにして、「もしかしたら」「もしかしたら」と、近づいていけるのかもしれない。

 「人間と狐はわかりあえました。めでたし、めでたし」で締めなかったのは、作者自身が「そこまで簡単なことじゃない」と思っているからでしょう。
そういう意味では、今現在、価値観の違う人たちと分かり合えなくて悩んでいる人たちの心にも寄り添ってくれています。

それでも、作者なりに「ひとつの希望」は示してくれた。わたしは、そう思います。

 大人でも子供でも、「ごんぎつね」を読んで衝撃を受けてしまった方は、ぜひ、「てぶくろをかいに」を読んでいただきたいと思います。心のいろんな部分が救われます。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はいっさいありません。安心してお読みいただけます。そして、「ごんぎつね」で心が傷ついたことがある方こそ、ぜひ、お読みいただきたいです。あのごんが、この子狐に生まれ変わってきたのだと思うと、救われます。

 

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