【バンダビーカー家は五人きょうだい】アメリカ発正統派ファミリーストーリー。思わず笑顔になるクリスマスの奇跡【引越しなんてしたくない!】【小学校高学年以上】

2024年4月1日

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バンダビーカー家は五人きょうだい  引越しなんてしたくない!  カリーナ・ヤン・グレーザー/作・絵 田中薫子/訳 徳間書店

バンダビーカー家は、イーサ、ジェシー、オリバー、ハイアシンス、レイニーの五人きょうだい。やさしいお父さんとお母さんの七人で、仲良く楽しく暮らしています。ところがある日、大家のビーダマンさんが、「アパートの賃貸契約を更新しない」と言い出したのです。慣れ親しんだ家を出て行くなんて!子どもたちはなんとかしようと立ち上がりました。

この本のイメージ 古き良きホームドラマ☆☆☆☆☆ 子どもたちの奮戦☆☆☆☆☆ ハッピーエンド☆☆☆☆☆

バンダビーカー家は五人きょうだい  引越しなんてしたくない!  カリーナ・ヤン・グレーザー/作・絵 田中薫子/訳 徳間書店

<カリーナ・ヤン・グレーザー>
米国の児童文学作家。カリフォルニア州出身。大学入学を機に、ニューヨークに移り住み、卒業後はウェイトレスやホームレス用のシェルターで読み書きを教えるなど、さまざまな職業を経験。2013年に執筆を始め、本作が、デビュー作。ニューヨークのハーレム地区に、夫と2人の娘、保護犬、保護猫たちといっしょに暮らしている。

<田中薫子>
田中薫子(たなか かおるこ1965年~)は科学書・児童書の翻訳者。幼少期をニューヨークとシドニーで過ごす。慶應義塾大学理工学部物理学科を卒業。ソニーを経て93年よりフリー翻訳者。科学書としては「ザ・サイエンス・ヴィジュアルシリーズ」(東京書籍)の叢書の翻訳者。児童書の分野では、宮崎駿監督の映画「ハウルの動く城」の原作者ダイアナ・ウィン・ジョーンズの魔法ファンタジーシリーズの翻訳者として有名

 初読です。
 原題は、THE VANDERBEEKERS OF 141ST STREET (BOOK 1).アメリカでの初版は2017年。日本での初版は2019年です。

 昭和の昔、日本のテレビドラマのジャンルには「ホームドラマ」と言うものがありました。
 主な舞台が家庭のお茶の間で、両親、祖父母、子どもたち(たいてい子沢山)が一堂に会して夕食を食べ、そこで事件が起こり、ご近所の人や親戚たちが巻き込まれてゆく……事態は二転三転するけれど、最後はおさまるところにおさまるハッピーエンド、と言うやつ。
 「お茶の間もの」、とも呼ばれていました。

 子どもが一人っ子なんてことはなく、たいていは、しっかりものの長女(美人で優しいマドンナ的キャラクター)、頼りになる兄貴、やんちゃな弟、観察力のある妹、みんなのアイドルの赤ちゃんまたは幼児、みたいな感じです。
 近所のおじさんおばさんとはずっと仲良しで、子育ても手伝ってもらったり、煙草屋のおばあちゃんが気難しかったりなど、おなじみの人々が出てきて、いつもドタバタと事件がおきる。けれども、たいていは予定調和的に事件は解決します。

 日本では核家族化が進み、共働きの夫婦が増え、子育てもワンオペなど過酷な状況になっているため、昭和のホームドラマはあまりリアリティのないものとなってしまいました。
 昔のお茶の間ホームドラマをそのまま今のドラマとして展開すると、共感を得にくくなってしまったのだと思います。わたしたち世代には少しさみしいですね。

 このようなテイストのものは、アメリカのドラマではまだ愛され続けていて、洋ドラだとほのぼのとした子ども向けホームドラマを見ることが出来ます。
 ファンタジーテイストですが、アマゾンドラマの「まほうのレシピ」はそんな感じ。小道具こそパソコンやスマートフォン、インターネットなどが登場しますが、基本的には古き良きホームドラマの優しい雰囲気があります。

 この「バンダビーカー家は五人きょうだい」は、そんな古き良き味わいのあるファミリーストーリー。
 仲良しの五人きょうだい、双子のイーサとジェシー、唯一の男子オリバー、内気なハイアシンス、末っ子のレイニーが、優しいお父さんとお母さんと一緒に暮らしています。

 家族一人ひとりひとり、それぞれがとても個性が豊か。
 イーサは美人でバイオリンが得意な芸術家。ジェシーは発明が大好きなリケジョです。オリバーはいたずら好きなやんちゃな男の子。内気なハイアシンスは手芸が得意で、かわいいものをたくさん作ります。小さなレイニーはおちゃめで純粋。

 さて、そんな7人家族が仲良く暮らしていた「ブラウンストーン」ですが、大家のビーダマンさんが突然、アパートの賃貸契約を更新しない、と言い出しました。

 今は年末。こんなときに、クリスマスが過ぎたら慣れ親しんだ家を出て行かねばならないのです。

 家が大好き、ご近所のみなさんも学校の友だちたちも大好きなバンダビーカーのきょうだいたちは、大ショック。なんとか大家のビーダマンさんの気持ちを変えようと、子どもたちなりに奮闘します。

 クリスマスまであと5日。はたして、五人きょうだいの作戦は成功し、幸せなクリスマスをすごせるのでしょうか?
 ……と、いうのがあらすじ。

 これで、「出て行くことになりました」と言うラストだとお話にならないので、ここは予定調和的にハッピーエンドになるのですが、それまでに二転三転する展開が面白い。

 また、大人が読むとほほえましく見える五人の子どもたちの「ビーダマンさくせん」も、子ども心では真剣です。大人の決定を、なんとかして子どもたちの力で翻意させようとするのですから。

 「わたしたちのことを好きになってもらおう」「やさしい気持ちになってもらおう」と子どもたちなりに考えて、真正面からビーダマンさんに向かってゆきます。大人だとできなくなってしまった、どストレートな好意での体当たりです。

 最初は、心を閉ざしてしまったビーダマンさんにはまったく通用せず、玉砕を繰り返していたきょうだいたちですが、だんだんと近所の人たちや仲良しの友だちたちも協力してくれて、ビーダマンさんの過去もわかってきます。

 現実には、こんな短時間で傷ついて心を閉ざしている人とわかりあうのは難しいかもしれません。
 でも、物語で読むと、そこまでの道筋は丁寧に書いてあるし、たとえ令和の今では非現実的になってしまったことだとしても、じんわりと心があたたかくなってくるのです。 

 文章は平易で読みやすいのですが、かなり読み応えがあり、難しい漢字のみに振り仮名が振ってあります。小学校高学年からがおすすめ。賢い子なら中学年からでも読めると思います。
 五人きょうだいは、男女混合なので、男の子でも女の子でも楽しく読めるでしょう。きょうだいたちはそれぞれ、個性が豊かなので、共感できる誰かは見つかりそう。

 わたしは昭和の人なので、終始ほのぼのとした気持ちで楽しく読みました。最近の若い人ならどうかなあ、かえって新鮮かもしれませんね。

 わかりあえなそうな人でも、もしかしたらひょんなことでわかりあえるかもしれない。気難しい人にも何か事情があって、そうなっているのかもしれない。
 根気よく心の扉をノックし続けていたら、いつかは開いてくれるかも。

 そんな純粋で無垢な気持ちがいっぱいにあふれた物語です。
 もちろん、読んでいて「純粋すぎてイライラする」って言う人もいるかもしれないのですが、そんな気持ちにも作者は寄り添っていて、前半はこれでもかというくらい、きょうだいたちの真心は木っ端微塵に砕け続けます。

 でも、それでめげないのが彼らの強いところ。

 12月20日から25日までのたったの六日間で、五人きょうだいはどんな奇跡を起こすのでしょうか。SFやファンタジーではなく、純粋なファミリーストーリーなので、彼らは魔法は使いません。けれど、おきたことは魔法みたいです。
 子どもから大人まで、忙しい年末に、ちょっぴり心が疲れたとき、ほんわかしたい時におすすめです。
 大人は子どもたちのまっすぐな気持ちに癒されますし、子どもが読めば他人を思いやることや諦めない心などを感じ取れるでしょう。

 なにより、この季節にぴったり。クリスマスプレゼントにも最適です。
 もしかしたら自分のクリスマスにも、ちょっとした奇跡が訪れるかもしれないと思える、あたたかな物語です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はほとんどありません。
 古き良きファミリーストーリーです。今のお子さまには「五人きょうだい」なんて多すぎて想像もつかないかもしれません。きょうだいたちが力をあわせ、友だちたちやご近所のみなさんに応援されながらがんばるお話には、心がほっこりします。

 現代人が忘れかけている共同体の交流が描かれています。
 読後は、分厚いクッキーが食べたくなるかも。熱々のお茶をいれてね。

 

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