【カトリと眠れる石の街】エディンバラの古い街に静かに広がる眠り病。少女ふたりが謎を解くファンタジー。【小学校高学年以上】
19世紀後半のエディンバラ、城下町に静かに奇病が広がっていた。少女カトリは偶然出会った少女エリザベスとともに、この病の謎に立ち向かおうと決意する。はたして、ふたりは広がる病を止められるのか?
この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ 謎解き☆☆☆☆ 少女バディ☆☆☆☆☆
カトリと眠れる石の街 東曜太郎/作 まくらくらま/装画・挿画 講談社
<東 曜太郎>
1992年生まれ。千葉県出身。一橋大学社会学部卒業。エディンバラ大学国際関係専攻修士課程修了。「カトリとまどろむ石の海」で第62回講談社児童文学新人賞佳作に入選。改題・改稿した本作がデビュー作となる。
<まくらくらま>
クリエイター。イラスト執筆をはじめ、オリジナル雑貨の企画、アパレルブランドとのコラボなど精力的に活動中。「不思議なアンティークショップ まくらくらま作品集」(小社刊)、「詩集「山羊の歌」より」(立東舎 乙女の本棚)
素敵なファンタジーに出会ったのでご紹介。
第62回講談社児童文学新人賞佳作だそうです。初版は2022年9月。
お話は……
舞台は19世紀後半のスコットランドの都市、エディンバラ。
街には奇妙な病が蔓延しつつありました。
それは、眠り病。意識を失い、ただただ眠り続けてしまう病気です。
偶然、眠り病に倒れた父を救うべく謎を追っている上流階級の少女リズと出会った旧市街の少女カトリは、カトリの父が眠り病に冒されたことをきっかけに、ともにこの奇妙な病の謎を追うことにします。
幾重にも重なる謎を追ううちに、やがてふたりは旧市街に潜む大きな秘密にたどり着く。
はたして、この巨大な謎と災厄に少女たちは立ち向かうことができるのか?
……というのがあらすじ。
小さな街の片隅から始まる物語はやがて壮大な物語へと広がってゆく、心躍るゴシックファンタジーです。
冒頭に登場したカトリの親友ジェイクが相棒となって事件を解決してゆくのかと思いきや、いい意味で予想を裏切られました。
男女のバディものも大好きなのですが、わたしは女の子同士のバディものがいちばん好きなのです!
しかも、主人公カトリだけでなく、相棒のエリザベスもかなり魅力的な女の子。
頭の回転が速く、活動的なカトリと、冷静で戦略的なエリザベス。
ふたりは13歳と14歳と言う年齢ながら、大人顔負けの推理力と行動力で街の謎を解き明かします。
今風だなと感じるのは、少女ふたりの話し言葉が「~だわ」とか「なのよ」などの所謂「女の子言葉」ではないこと。文章で読むときは混乱しないように小説の女の子の言葉はあえてそのような語尾をつけた言葉にすることが多いですが、まあまあ、今の若い女の子はそういう言葉は使いませんよね。そこらへんがリアル。
ただし、そういう言葉遣いができないわけでなく、エリザベスなどは大人相手にはちゃんと女の子っぽい言葉を使います。このへんも、いまどきの子っぽいですね。大人の前では子どもらしく振舞うという。
ゆっくりと立ち上がる物語ですが、後半はどんどんスピードアップしてゆき、ラスト近くになるとフルスロットル。謎また謎の展開にページをめくる手が止まらなくなります。
少女たちはふたりとも、好奇心旺盛で行動力があり、いざというときの度胸も満点。いかすバディです。
続編があるなら、ぜひ読みたい。というか、これはシリーズ化の予感がします。今年あたり続編が出るのでは?
字はわりと細かくて本の厚さのわりにはボリュームがあり、読み応えがあります。
文章は読みやすく、難しい漢字には振り仮名が振ってありますが総ルビではないので、小学校高学年から。
ヒロインふたりの年齢からは中学生以上を想定しているのかもしれませんが、本を読みなれている子なら小学校高学年から読みこなせるでしょう。もちろん、大人が読んでも楽しめます。
まくらくらま先生の挿絵もふんだんに入っており、物語の世界観にぴったり。表紙の装丁もおしゃれ。
また、この「眠り病」の患者として測量士の「チャールズ・ドイル」が登場します。
妻のメアリの「息子はポーツマスで医者をしている」と言う言葉からも、その「息子」とはまちがいなく、名探偵シャーロック・ホームズの生みの親「コナン・ドイル」でしょう。
こんな思わせぶりなシーンがあると言うことは、続編で確実に登場してくれるはず。これも楽しみですね!
謎また謎のゴシック・ファンタジー。
ミステリーがお好きな方、ファンタジーがお好きな方、19世紀のイギリスがお好きな方、そして女の子の冒険もの、バディものが好きな方におすすめです!
この夏、クーラーの利いたお部屋でミルクティーを片手にぜひどうぞ!
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな描写は思いのほかありません。ゴシック・ファンタジーですが、残酷なシーンや流血シーンなどは気をつけて書かれており、驚くほどありません。流血シーンが苦手な方でも大丈夫。
もちろん、危機に継ぐ危機、ドキドキハラハラの展開が続き、冒険物語として最後まで面白く読めます。
女の子二人が主役ですが、骨太のミステリーで仕掛けが凝っており男の子でも楽しめます。もちろん、大人でも。
読後は濃いミルクティーかココアでひとやすみ。
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