【ポケットのなかのジェーン】男の子でもお人形を好きになっていい。不死身のジェーンの大冒険【四つの人形のお話1】【小学校低学年以上】
ジェーンは、ポケットに入るくらいの小さなお人形です。とても頑丈にできていて、お店の人は「不死身みたいなものですわ」と言ったので、ジェーンは自分の名前は「ふじみのジェーン」と思うことにしました。ジェーンは、おばあさんに買われ、孫娘にプレゼントされます。ところが……
この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ お人形つよい☆☆☆☆☆ 男の子だってお人形好きでいい☆☆☆☆☆
ポケットのなかのジェーン 四つの人形のお話1 ルーマー・ゴッデン/作 プルーデンス・ソワード/挿絵 久慈美貴/訳 たかおゆうこ/装画 徳間書店
<ルーマー・ゴッデン>
マーガレット・ルーマー・ゴッデン(Margaret Rumer Godden, OBE, 1907年12月10日 ~ 1998年11月8日 )イギリスの作家。
1907年イギリスサセックス州生まれ。生後まもなく家族と共にインドに移り住み、12歳の時にイギリスに戻る。「人形の家」「ねずみ女房」「ハロウィーンの魔法」など。
「ねずみ女房」のルーマー・ゴッデンの、小さな子供のための物語です。お人形をテーマにしたファンタジーシリーズの第1巻。
ジェーンは、高さ十センチのお人形。「ポケットに入れて、外に連れていって」と常に願っています。
だけど、持ち主になった女の子たちは、ジェーンをお人形の家に入れっぱなしです。ところがある日、ジェーンは、男の子ギデオンに出会いました。
ギデオンは、ジェーンをポケットに入れて、走ったり、ブランコに乗ったり、木登りだってします。ジェーンとギデオンは毎日、わくわくするような冒険の日々を過ごします。
……と、言うのがあらすじ。
お人形のジェーンが、お店に並んでいるときから、すでに女の子の部屋に飾られているきれいなお人形ぽくなくて、なわとびや、汽車のおもちゃや、ヨットになりたいおてんばなお人形です。
でも、結局はただのお人形だったので、女の子のエフィのおばあちゃんに買われました。
おばあちゃんは、ジェーンをポケットに入れて家まで運んだので、ジェーンはポケットの縫い目の隙間から、馬車の馬や、教会の鐘や、兵隊さんのラッパなど、知らないものをたくさん見ることができました。
お馬さんになりたい、鐘になって音を鳴らしたい、ラッパになりたい……
お店からエフィの家までの道のりの中で、ジェーンは、いろんな夢を抱きます。
その後、エフィは、ジェーンをお人形の家のビーズのクッションに座らせます。
そして、次の持ち主、次の持ち主と、持ち主が変わっても、ジェーンは50年以上ビーズのクッションに座っていました。
「わたしをお外に出して」ジェーンは祈り続けます。
そして、ある日、持ち主のエレンのところに、いとこのギデオンが遊びに来ました。
そして、ついに、ギデオンがジェーンを連れ出してくれたのです!
ジェーンとギデオンは大親友になりました。
何十年も、外の世界にあこがれつつ、ほこりまみれの人形の家から一歩も出られなかったジェーン。そして、「男の子が人形遊びなんて」と言われるのが恥ずかしいけれど、ジェーンと遊ぶギデオン。しかも、ギデオンのお人形遊びは、女の子の遊び方とは違うので、ポケットに入れて持ち歩き、枯葉の服を着せたり、ヨットの上に乗せて水に浮かべたり、と、かなりダイナミック。でも、ジェーンはそんなギデオンと遊ぶのが楽しくてたまりません。
これは、子どもにとっては小さなお人形のファンタジーとして読むこともできますが、大人にとっては比喩として読むこともできます。
「ねずみ女房」で、子どもだけでなく、母親に対してのメッセージも潜ませたゴッデンですが、このお話にも同じように深いメッセージが隠されている気がするのです。
エフィは、ジェーンを丁寧にお人形の家に入れて飾って満足する子どもでした。
エフィの次の持ち主エリザベスは、お人形の服を作るのが好きな子でしたが、小さな人形には縫い目が粗すぎて、縫い目がごろごろとあたってジェーンは痛くてたまりませんでした。
エリザベスの次の持ち主エセルは、ジェーンを使って学校ごっこをするのが好きでした。おこずかいで小さな黒板や本のセットを買って、ジェーンに読み書き、算数、音楽を教えました。
そして、次の持ち主エレンは、ジェーンを人形の家にいれ、閉めっぱなしにして、ずっとテレビを見ている子どもでした。
このままシンプルに読めば、「時代の流れに従って、女の子のお人形遊びは変化していったのね」と、単純に解釈することはできます。
けれど、これ、「人形」を「女性」に置き換えると、違ったものが見えてくるはず。
綺麗な調度品の中にきちんと飾られるジェーン。持ち主の好みの服を着たくもないのに着せられるジェーン。学校に入れられてガリ勉させられるジェーン。持ち主はテレビに夢中でほったらかしにされるジェーン。
そして、ジェーンはついにギデオンに連れ出されます。
ギデオンはギデオンで、「男の子のくせにお人形で遊ぶなんて」と友達に言われるのが、恥ずかしい男の子。けれど、やっぱり男の子なので、女の子みたいなお人形遊びはしません。
ぞんざいにポケットに突っ込んで、そのまま、木登りしたり自転車に乗ったりします。
でも、それはジェーンが夢見ていた、わくわくする冒険の日々でした。
ジェーンの「お外に出て冒険したい」と、ギデオンの「お人形なんてはずかしいけど、お人形で遊びたい」が、ちょうどよく釣り合い、ジェーンとギデオンは最高のコンビになったのでした。
その後どうなるのかは、ぜひお読みいただきたいのですが、1955年にこの作品を通してゴッデンが挑もうとしたテーマが、ようやく令和の現代に、かすかに届こうとしている、そんな気がします。60年以上前に、こんなふうに考えていた作者は、どれくらい周囲に理解されていたのでしょうか。
小さなお子様だけでなく、大人にも何かを投げかける物語です。
女の子だけでなく、内向的な男の子にもおすすめ。そして、ぜひ、読み聞かせしてあげてください。
物語のなかで、ギデオンは様々な経験をして精神的にひと回りもふた回りも成長しますが、精神的に成長しても人形のジェーンと遊び続けるのが、わたしは好きです。
「精神の成長と、お人形遊びをするしないは関係ない」、と言うゴッデンの確固たる主張が心地よい。
お人形が心を持つ、と言うふわっとしたファンタジーなのですが、なかなかどうして骨太のお話です。何度読み返しても、新しい発見がある物語です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素は、ほとんどありません。HSCやHSPの方のほうが、多くを受け取れると思います。また、内向的な小さな男の子にもおすすめです。
どうぞ、読み聞かせしてあげてください。
秋の夜長や、週末、親子の交流タイムにぜひどうぞ。
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