【ハロウィーンの魔法】【入手困難】みそっかすの女の子と頑固じいさんとの心の交流。ハロウィーンの奇跡【電子化希望】【小学校中学年以上】

2024年2月18日

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ハロウィーンの魔法 ルーマ・ゴッデン/作 渡辺南都子/訳 偕成社

セリーナは姉のマフェットに比べると、ちょっと冴えない。だから、ふたりでポニーを飼うときも、ちょっと冴えないポニーを買ってもらった。だって、放っておけなかったから。近くの農場主、マックじいさんは頑固で偏屈な嫌われ者。これは、セリーナとポニーとマックじいさんの、ハロウィーンの魔法の物語。

この本のイメージ 人情☆☆☆☆☆ 動物☆☆☆☆☆ 問題解決☆☆☆☆☆

ハロウィーンの魔法 ルーマ・ゴッデン/作 渡辺南都子/訳 偕成社

<ルーマ・ゴッデン>
マーガレット・ルーマー・ゴッデン(Margaret Rumer Godden, OBE, 1907年12月10日 – 1998年11月8日 )イギリスの作家。
1907年イギリスサセックス州生まれ。生後まもなく家族と共にインドに移り住み、12歳の時にイギリスに戻る。「人形の家」「ねずみ女房」「ハロウィーンの魔法」など。

 10月31日はハロウィン。日本では、秋彼岸辺りから、ハロウィンシーズンに入り、ハロウィンの飾り物や、この季節ならではのお菓子などが売られるようになります。

 今年はきっと、ハロウィン関係の催しやイベントは、少ないでしょうし、人ごみには行かないほうがいいでしょうから、おうちでハロウィン気分を満喫するのがよいですね。季節なので、かぼちゃ料理やかぼちゃのお菓子を親子で作るのも楽しそうです。

 本日ご紹介するのは、「ねずみ女房」など名作が多いルーマ・ゴッデンの「ハロウィーンの魔法」。
 すごくいいお話なのですが、現在は市場に出回っていなくて入手困難な本の一つです。けれども、中古や図書館などで手にすることはできますので、ぜひお探しになってみてください。

 このサイトでは、本屋さんに売っていない本や、もう出版されていない名作なども時々紹介しています。いい本は図書館でも出会えますし、重版が難しくても電子書籍化していただけたらとも思います。

 この本の初版は1997年。30年以上前の本ですが、ハートフルで色あせない魅力があります。

 物語は、

 セリーナは、スコットランドの片田舎に住むちょっと冴えない女の子。姉のマフェットは美人な優等生です。ちょっぴりコンプレックスのあるセリーナは、ずっとほしかったポニーを買うとき、マフェットのような名馬ではなく、あきらかに難のある駄馬をねだって買ってもらいます。

 セリーナが買ったポニー、ハギスは、「おまえはいいポニーだね?」とたずねると首を振り、「おまえは悪いポニーだね?」とたずねるとうなずくのです。どういうわけか、そのようにおぼえてしまったのです。
 それが、いたたまれなくて、セリーナはハギスを引き取ってしまいます。

 ハギスは、言う事をきかない駄馬で、セリーナはハギスの扱いに苦労しますが、なんとなく憎めないのでした。

 そんなとき、ハギスが勝手に畑に踏み込んだことで、近所の農場主、頑固なマックじいさんとセリーナは知り合うことになります。マックじいさんとセリーナは動物を介して交流を深めてゆきます。

 そんなある日、村に大きな変化が起きる事件がありました。セリーナの大叔母さんが亡くなるさいにセリーナたちの村に莫大な遺産を寄付したのです。このお金で、みんながほしがっていた公園を作ろうと沸き立つ村人たち。
 けれど、その予定地は、マックじいさんの土地。マックじいさんは手放しません。

 すると、村人たちは、いままで交流のなかったマックじいさんにさらに冷たくなり、仲良くしているセリーナにまでつらくあたるようになるのです。はたして、セリーナはこの複雑な問題を解決できるのでしょうか。

 と、いうのがあらすじ。

 ハロウィンが題材になっていますが、この物語はファンタジーではありません。
 「いい魔女になりたい」と願う、ひとりの女の子の大活躍のお話です。

 たくさんの登場人物が出てきて、基本的に全員いい人なのですが、ちょっとした心のボタンのかけ違いで、トラブルになってゆきます。きっかけは、セリーナたちの大叔母さんの遺産なのですが、多額のお金ってどうしても問題が起きますね。

 村の人たちや子どもたち、セリーナたちのラッセル家、そしてマックじいさんと、それぞれがそれぞれなりに想いがあり、誰が悪いというわけでもなく、また、誰もが悪いという状況にあって、セリーナが頑張ります。

 周囲から「冴えない」と思われている、「みそっかす」のセリーナだけが、「誰もが幸せになるためにはどうすればいいだろう」と考え、力を尽くすのです。

 不思議なことに彼女以外の人たちは、気持ちはわかるのですが、他人に気持ちをあらわしたりぶつけていたりするだけで、誰一人問題を解決しようとしないのです。セリーナだけが、「この複雑な問題をなんとか解決したい」と強く願い、子どもなりに知恵を絞って行動します。

 それは、直接的にはうまく行かないのですが、結局、間接的にさまざまな善い連鎖を起こしてゆきます。「魔法」のように。

 この物語は、狭いコミュニティのなかで車輪を前に進めてゆくことの難しさ、そして、みんなの問題をみんなのために解決しようとする人の少なさ大変さも含めて、リアルに描いています。

 セリーナたちの両親もすごくいい人たちで、セリーナの思いを尊重してサポートしてくれます。お父さんは高潔な人で、自分が苦しい立場になっても子供たちを守り、筋を通そうとするので、セリーナたちのよい所がこの両親から受け継がれているとよくわかります。
 できのいいマフェットは、立ち回りが上手く人に好かれるので、その社交力でセリーナをいじめから守ってくれます。

 そんなふうに、力強い家族のサポートがありながらも、セリーナは頑固に意思を曲げないので、マフェットが「これ以上はかばえないかも」と言うレベルにまで事態が進んでしまいます。

 けれども、そのセリーナのがんばりのおかげで、問題は好転するのです。

 セリーナがはみ出してしまうのは、こんなふうに考えてしまう子だからではないだろうか。「冴えない」セリーナには、たいへんな美徳があるのではないだろうか、と感じずにはおれません。

 どんな問題も、誰かが強く「解決しよう」と思うことで前進する気がします。セリーナが子どもながらに動き出すまでは、村の問題は、それぞれがそれぞれの気持ちをぶつけ合うだけで、膠着していました。
 村人のマックじいさんへの嫌がらせや、セリーナへのいじめは激化していて、おそらくは、(おそらく無意識で)マックじいさんの「根負け」を狙っていたのだと思います。

 でも、その問題の公園の原資は、セリーナの大叔母さんのお金なのです。

 こんな理不尽なことがあるでしょうか。でも、それを子どものセリーナが解決してゆく姿は、思わず握りこぶしをつくってしまいます。しかも、彼女の方法は、瞬間的なアイディアとかではなく、きわめて地味な、コツコツと思いやりを積み重ねる、不器用な方法でした。

 今、学校で苦しんでいる子どもたちや、がんばる大人に読んでいただきたいのです。セリーナの「魔法」は、超能力みたいなものではなくて、微力な子どものせいいっぱいでできる「心の魔法」なのです。

 セリーナの乗り越えた壁の高さは、物語のラストで実感できます。子どもの一途な想いだけでここまで動かすことができたら。もちろん、それは周囲の人たちが、本当は善良で素敵な人たちばかりだったからでもあります。

 人が、自己責任に置いて自分のできることを頑張り、それによって互い助け合うというのは、まさにこういうことじゃないのだろうか。ユートピアってこういう素朴なものなのじゃないでしょうか。いま目指す人間関係の理想形を見た気持ちです。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 おすすめです。セリーナがいじめられる場面が少しつらいですが、そこを乗り越えればハッピーエンドです。感受性の強いお子様のほうが多くのことを感じ取れると思います。
 とくに、今、学校や職場でつらい気持ちになっている方に。学校でつらいお子様は、ぜひ図書館でさがしてみてください。
 読後は、ハロウィンのお菓子を親子で作ってもよいですね。大人の方は、カボチャのお菓子とあたたかいお茶をご用意ください。心が温かくなる、名作です。

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