【魔法のカクテル】ミヒャエル・エンデのナンセンスファンタジー。世界滅亡を救う猫とカラスの物語【小学校高学年以上】

2024年2月18日

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魔法のカクテル ミヒャエル・エンデ/作 川西美沙/訳 岩波少年文庫

大晦日の夜、悪い魔法使いベエルゼプープ・イルヴィツアーは困っていました。年末までに契約先と約束した悪事が足りないのです。このままでは破滅してしまう。そんなとき、おばのティラニアがやってきました。彼女も同じ悩みを抱えていたのです……

この本のイメージ とぼけた☆☆☆☆☆ 楽しい☆☆☆☆☆ でも深い☆☆☆☆☆

魔法のカクテル ミヒャエル・エンデ/作 川西美沙/訳 岩波少年文庫

<ミヒャエル・エンデ>
ミヒャエル・エンデ(Michael Ende, 1929年11月12日 – 1995年8月28日)はドイツの児童文学作家。父はシュールレアリスム画家のエドガー・エンデ。1989年に『はてしない物語』の翻訳者佐藤真理子と結婚。代表作は「モモ」「はてしない物語」

 ミヒャエル・エンデのユーモアあふれるナンセンスファンタジーです。「はてしない物語」ほど重くなく、「モモ」よりわかりやすい、楽しいお話です。

 大晦日の夜、悪い魔法使いベエルゼプープは、おばの悪い魔女ティラニアと地球の自然を破壊するためにどんな願いもかなう魔法のカクテルをつくります。

 なぜと言うと、この二人は、地獄の魔王のために悪事を働く契約をしており、年末までに果たさなければならない「悪事の量」がまったく足りていないので、たいへん焦っていたからです。

 これを知ったベエルゼブープの飼い猫マウリッツォと、ティラニアの飼いカラス、ヤーコプは力をあわせて二人の悪事を止めようとします。
 はたして、うまくゆくのでしょうか。

 と、言うのがこのお話のあらすじ。

 お話としては単純で、とにかく楽しく書かれているので、さらりと読めます。そして、比喩的に読もうとすれば、掘り下げて面白く読むことも出来ます。

 悪い魔法使いと悪い魔女は、「なんでも願いを叶えるカクテル」を作るのです。「なんでも」叶うんなら、なんで契約までの悪事を願っちゃうんでしょうね。
 契約から自由になることも出来るし、いい人間になることもできるし、世界をよくすることもできるのに。

 ここらへんが皮肉に満ちています。
 それだけでなく、世界を悪くしている魔法使いたちは、それよりずっと悪くて強い存在に支配されていて、つねに追い詰められていることや、その彼らを追い詰めている執行人たちも、自分たちの出世のために働いていることなど、多重構造をみせているところも、深いのです。

 悪は強力な力を振りかざしているように見えて、誰も幸せではないのですね。

 さて、猫とカラスを助けるために、西洋では大晦日の鐘を鳴らす存在、聖ジルベスターが登場しますが、悠久の時を生きている存在なので、なんとなく、常にぼーっとしていて、言葉がかみ合わないのです。

 「あのね、永遠からみると、ものごとは時間界のなかで見るのとはがらりとちがって見えるものなんだよ。永遠からみると、悪も最後の最後はつねに善につくすものだということがわかる。それは、いわゆる自己矛盾というやつでね。悪はつねに善を支配する力を持とうとする。しかし、悪は善なしには存在できないのだ。そして、完全な支配力を得ようとすればするほど、悪は支配しようとするまさにその相手を破壊せざるをえないのだ。だから、悪は不完全であるあいだにしか存在できないのだ。完全になったら、そのときはわが手でわが首を絞めることになる。だから、悪は永遠には存在できないのだ。永遠なのは善だけだ。なぜなら、善は自己矛盾を内包していないからだ……」(引用p237)

 「いやいや、今はそういう哲学の話はいいから!」と話を本題に戻す一羽と一匹がかわいい。

 聖ジルベスターも、「奇跡を起こすには上に願書を出して手続きをしなければならず、そんなに簡単にはできない」と言うのです。システム的には地獄と同じですね。

 さて、年末はもうすぐです。地球は救われるのでしょうか。

 どうなるのかは、読んでみてのお楽しみです。

 悪い魔法使いと悪い魔女を「人間ではない」と仮定すると、このお話、実は人間が1人も出てきません。場面もほとんど移動しないので、なんだか舞台劇みたいなお話ですが、次から次へと事件が起きるので、テンポがよく楽しく読めます。

 最後はいったい、地球はどうなったんだろう……と少しだけ疑問は残るのですが、猫とカラスの毛並みや羽がつやつやしていることから想像してくださいということなんでしょう。

 大地震、津波、台風、水害、火山の噴火、伝染病……まともに考えると、末世感が日々強くなる、今日この頃ですが、「世界はほんとうに大丈夫?」と漠然とした不安を感じてしまいがちな時は、こんなお話を。

 あっと驚く、仰天のラストです。(いい意味で)

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブなシーンはほとんどありません。とぼけたナンセンスファンタジーです。石ノ森章太郎ふうの挿絵は、レギーナ・ケーンさんと言う方だそうです。

 たいへんな日常に疲れたとき、週末に日当りのいい場所で、お気に入りのお茶かコーヒーをお供にどうぞ。
 肩の力がぬけるかもしれません。過ごしやすい気温となりました。公園で読書もおすすめです。

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