【モモ】ミヒャエル・エンデの不朽の名作。時間泥棒から時間を取り戻した少女の物語。【小学校高学年以上】

2024年2月12日

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モモ ミヒャエル・エンデ/作 大島かおり/訳 岩波少年文庫

あるところに、古い円形劇場のある小さな町がありました。そこに、モモという少女がやってきます。モモには、「人の話をきく」という不思議な力がありました。モモに話を聞いてもらうと、幸せな気持ちになるのです。あるとき、モモの住む町に、灰色のセールスマンたちがやってきました。

この本のイメージ 富とは☆☆☆☆☆ 時間とは☆☆☆☆☆ 幸せとは☆☆☆☆☆

モモ ミヒャエル・エンデ/作 大島かおり/訳 岩波少年文庫

<ミヒャエル・エンデ>
ミヒャエル・エンデ(Michael Ende, 1929年11月12日 – 1995年8月28日)はドイツの児童文学作家。父はシュールレアリスム画家のエドガー・エンデ。1989年に『はてしない物語』の翻訳者佐藤真理子と結婚。代表作は「モモ」「はてしない物語」

 大好きな本です。今回、レビューを書くために再度読み返し、「もう児童文学も『モモ』だけ読んでればいいんじゃないか」と思うくらいに感動しました。「はてしない物語」も名作なのですが、「モモ」は別格です。

 あらすじは、

 どこかの国、どこかの町で。
 古い円形劇場がありました。

 そこに、どこからか、不思議な少女モモがやってきます。
 モモはぼろぼろの服を着て、身寄りがなく、家もありませんでした。

 町の人たちは、この子をどうしようと相談するのですが、それぞれが個人で面倒をみようとすると負担が大きく、引き取り手がいませんでした。それで、町の人たちは、モモをみんなで面倒みることにするのです。

 廃墟となった円形劇場の一室を、左官屋さんが綺麗に壁を塗り、町の人たちがめいめいで必要そうなものを持ち込み、ベッドやテーブルなどをしつらえました。食べ物も、町の人たちが少しずつ持ち寄ってあげたら、モモは生活できるようになりました。

 モモはそこでひとりで生活していましたが、実は彼女には他の人にない、不思議な力があったのです。それは「他人の話を聞く」と言う能力でした。

 悩みを抱えた人は、モモに話を聞いてもらいにいきます。彼女はただ、相手の話を黙って聞いているだけなのですが、そのうちにだんだん本人の考えがまとまっていき、正しい結論を出せるようになるのでした。 (これは、おそらく、セラピストの行う「傾聴」というものでしょう。実際に「ただ聞く」と言うのはセラピー的に絶大な効果があります。エンデの物語は、深い知識のもとに書かれているのが随所に現れています)

 というわけで、町の人に助けられたモモは、食べ物などの面倒をみてもらうかわりに「話を聞く」ことで町の人の役に立ち、町の人たちや子どもたちとモモの間には、物々交換にも似たお金を介在させないつながりがつくられました。そして、これが、後にモモが灰色の男たちに目をつけられた理由でもあります。

 小さくても幸せだったモモの町に、ある日、灰色の帽子をかぶり、灰色のスーツを着て、灰色の葉巻を絶えず吸っている不思議なセールスマンたちがやってきます。

 彼らは、町の人たちひとりひとりにセールスし、自分の持っている「よぶんな時間」を時間貯蓄銀行に預けるようにと勧誘します。そして、彼らに勧誘された人たちは、自分の「無駄な時間」を節約するようになり、せかせかと働き始めました。

 でも、彼らは時間泥棒だったのです。
 モモだけが、彼らの正体に気がついていました。

 モモは、町の人たちの時間を、時間泥棒たちから取り戻すことができるのでしょうか。

 と言うのが、あらすじ。
 ざっと説明しても、ここまででまだ前半です。

 後半では、モモに正体を知られてしまった灰色の男たちは、モモの人間関係を分断します。

 モモには、大切な大親友が二人います。ベッポというおじいさんとジジという少年です。
 この二人は、「労働」と「芸術」の象徴です。アリとキリギリスみたいなものです。

 灰色の男たちは、まず、この二人とモモの関係を絶ちました。

ここはネタバレ 平気な方だけクリック

 
 ジジは、夢を叶え大成功させ、その地位に縛りつけ、失うまいとさせることで。そして、ベッポは「モモを預かっている」と嘘をつき、嘘の人質への身代金(時間)を支払わせるために限界まで働かせることで他の事を考えさせなくしたのです。

 モモと一緒に遊んでいた、空想力豊かな子どもたちは施設に入れられ、大人の与えた「役に立つ遊び」をさせられることになりました。

 モモは大切な人たちも友達もすべて失います。
 それでも、モモは諦めず、たった一人で、灰色のセールスマンたちに立ち向かうのです。

 「モモ」は何度読んでも、新しい発見があります。

 たしかに、灰色のセールスマンは、アリにもキリギリスにも、彼らにぴったりの攻撃をするのです。

 夢想家のジジは、夢を叶えて大成功しましたが、休む暇もなく働くことになりました。そばには三人も秘書がいますが、この人たちをジジが雇っていると言うより、彼女たちに管理されているかのようです。(三人と言うのは、おそらく過去、未来、現在)ジジはモモとゆっくり話がしたいのに、秘書が割り込んできて、一秒も話をさせてくれません。

 そして、ついに灰色の男たちは、ジジに「おまえの成功は、わたしたちが膨らませて大きくしただけのもので、おまえの実力ではない」と告げます。ジジは、実は自分自身にちゃんと才能も能力もあるのに、すべての自信を失って絶望してしまいます。

 地道な働き者のベッポは、まさしく、「家族のために」「子どものために」と身を粉にして働く労働者の象徴です。
 ベッポはモモがいなくなったのを心配して、正攻法で警察に行きますが、信用してもらえません。
 それどころか、「専用の病院」に入れられてしまいます。そして、そこで灰色の男が「モモを預かっている。自由にしてほしければ、身代金として10万時間を支払え」と嘘をつき、承知させてしまうのです。
 ベッポは、その日からモモのために、狂ったように働きます。そのため、一度路上でモモと出会いそうになったときも、彼女に気がつかないのです。

 これって、現代でも、ほとんどの場合どれかに当てはまりますよね。夢を叶えるために「膨らまされる」人たちと、家族のために過労死寸前まで働く真面目な人たち。そして、自由な発想を持った子どもたちは、施設に押し込められ「役に立つ遊び」を強いられる。

 「時間を無駄にしないために」。

 灰色の男たちは、常に時間を固めて作った葉巻を吸っていて、これがないと消えてしまいます。そして、葉巻の数が足りなくなれば、他の灰色の男たちを消して、葉巻を吸い続けようとします。(これ、リストラだ……)

 町は灰色の男たちの増加とともに、急速に発展し、ハイテク化しますが、そのぶん、町の人たちは、せかせかと忙しく働き続け、楽しく会話をする暇もなくなってゆきます。

 そして、灰色の男たちの本心を聞いてしまったモモは、灰色の男たちの陰謀によってついには、独りぼっちになってしまいます。
 ここで一度、くじけそうになるのですが、再びモモは立ち上がり、奪われた「時間」をとり戻すための旅に出るのです。

 たった一人の小さな女の子が、世界の存亡にかかわる秘密に触れてしまい、最後は世界を救います。モモは最初から最後までひとりです。でも、大切な人たちも友達もいるんです。

 モモがどこにも属さない、一人ぼっちの女の子だったからできたことなのかもしれません。エンデはいくつものメッセージをさまざまな角度からなげかけており、毎回読むたびに、そのときの自分に必要な言葉が飛び込んできます。

 わたしたちは、みな、ジジであり、ベッポであり、町の人たちであり、モモの友達の子どもたちであり、そして、モモなのです。

 「モモ」は、おとぎ話であり、たとえ話であり、予言の書でもあります。でも、もし「モモ」が予言の書なら、これがハッピーエンドなのが大いなる救いです。時間の花は、わたしたちの胸に戻ってくるのです。

 子どもだけではなく、すべての人たちにおすすめの本です。
 あなたの大切な「時間」、どうぞ「モモ」を読むためにお使いください。

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