【黒紙の魔術師と白銀の龍】紙が命を持つとき、いにしえの封印が解ける。新感覚の和ファンタジー。【小学校高学年以上】
もうすぐ夏休み。悠馬は近所の黒爪山で奇妙なとかげを捕まえる。生きているとかげだと思い込んでいたそれは、紙細工だったのだ。しかし、そのとかげを持ち帰ったことで、恐ろしい事件に巻き込まれてしまうことになる……
この本のイメージ 折り紙☆☆☆☆☆ ファンタジー☆☆☆☆☆ 少年たちの夏☆☆☆☆
黒紙の魔術師と白銀の龍 鳥美山貴子/作 講談社
<鳥美山貴子>
秋田県出身。2021年、「黒と白の対角線~おりがみおとぎ草子~」で第62回講談社児童文学新人賞を受賞。改題・改稿した本作がデビュー作となる。
第62回講談社児童文学新人賞受賞作品だそうです。初版は2022年9月。
あらすじは……
もうすぐ夏休み。
猛暑の中、悠馬は友達の皇輝や智哉と涼をもとめて近くの黒爪山に登った。
そこで悠馬は、大きな黒とかげを捕まえる。
しかし、生きているとかげと思い込んで捕まえたそれは、紙細工だったのだ。
奇妙な紙のとかげを持ち帰ったときから、悠馬の周囲には怪奇現象がおき、怖くなった悠馬はそれを近所の「おりがみ教室」の九是先生に手渡すことにする。
ところが、ほどなくして久是先生が行方不明になってしまう。
責任を感じた悠馬は紙のとかげの謎を解こうと決意する。折り紙をこよなく愛する、一風変わったクラスメイト啓図とともに……
……と、いうのがあらすじ。
伝統的な遊び、「折り紙」。
紙を様々な形に折上げる折り紙は、紙さえあればできる手軽な遊びです。
これは、折った紙が命を持つという不思議な力「陣」をめぐる少年たちの冒険物語。
ごくふつうの小学生だった悠馬がある日黒爪山で一匹のとかげを捕まえたことから、この奇妙な冒険に巻き込まれてゆきます。相棒は、折り紙をこよなく愛する啓図。
特別な特技や夢中になる趣味もなく平凡に生きてきた悠馬と、折り紙さえできればほかに何も要らないくらい紙細工に没頭する啓図。
本来なら何一つ接点もなかったふたりが、怪奇事件に巻き込まれることによって強い絆でむすばれた親友になるのでした。
昔から日本人は紙細工を命あるものに見立てて使う風習がありましたので、この設定は心惹かれるだけでなくわかりやすい。
そして、男の子なのに部屋で折り紙をしているのが好き、しかもそれを恥ずかしいとは思わない、という啓図のまっすぐさに悠馬が惹かれてゆき、やがては悠馬のコミュニケーション能力で折り紙を通じて友情の輪が広がってゆく展開はさわやかです。
一昔前の友情物語なら、インドアの趣味である紙細工を捨てて野外で友だちたちとドッジボールをするような展開になってしまいそうなところですが、その逆だというのが時代は進んでいるんですね。
不思議なことが好きでもいいじゃない、男の子が部屋で紙を折って遊んでいてもいいじゃない、それが「おかしいか」「おかしくないか」なんて、そんなに大切なことじゃない。もっと大切なことは……
おどろおどろしいオカルトファンタジーのような出だしですがあまり怖いところはなく、とてもさわやかな少年少女の冒険+友情物語に仕上がっています。読後感もさわやか。
文章はテンポよく読みやすいのですが、すべての漢字に手厚く振り仮名がふってあるわけではないので、だいたい小学校高学年から。でも、大人でも楽しめるファンタジーです。
伝統的な遊びに新しい風を吹き込んだ新感覚の和ファンタジー。
熱い友情の物語でもあるので、友だちと貸し借りして読むのもいいですね。
ちょうどこの季節の物語なので、クーラーの効いた部屋でお気に入りの飲み物と楽しむのにおすすめ。
この夏の読書にぜひどうぞ!
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。ハラハラドキドキのオカルトファンタジーですが、流血シーンや残酷シーンは気をつけて書かれているのでありません。
安心して怪奇な雰囲気を楽しむことができます。
読後は折り紙で遊びたくなるかも。
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