【保健室経由、かねやま本館。】第二保健室の奥には温泉が?疲れた心を癒す学園ファンタジー【中学生以上】
あたしは佐藤まえみ。愛称はサーマ。新潟では誰とでも仲良くできた人気者のあたしは、東京に引っ越してきてはじめての挫折を経験した。苦しいあたしの前に現れた「第二保健室」そして、その奥には……
この本のイメージ 学園ファンタジー☆☆☆☆☆ 内省☆☆☆☆☆ 自分を取り戻す☆☆☆☆☆
保健室経由、かねやま本館。 松素めぐり/作 講談社
<松素めぐり>
1985年生まれ。東京都出身。多摩美術大学美術学部絵画学科卒業。本シリーズ第1巻「保健室経由、かねやま本館。」で第60回講談社児童文学新人賞を受賞。「保健室経由、かねやま本館。」第1~3巻で第50回児童文芸新人賞を受賞。
初版は2020年。第60回講談社児童文学新人賞受賞作品だそうです。
かなり人気のシリーズらしく、すでに六巻まで刊行されています。
お話は……
新潟の小学校ではクラスの人気者、誰とでも仲良くなれたサーマこと佐藤まえみ。
お父さんの仕事の都合で中学進学を機に一家で東京に引っ越してきたけれど、佐藤家にすこしずつ異変があらわれたました。
まず、兄の慈恵が不登校に。
「不登校なんて心が弱い」と思っていたまえみにも、仲良しのはずだった舞希に避けられるという試練が訪れます。
つらいけれど負けたくない……心が折れかけていたまえみの前に現れた、奇妙な部屋「第二保健室」。
そして、第二保健室の奥には、心を癒す不思議な温泉があったのです……
……と、いうのがあらすじ。
現実世界で辛い想いをしている少年少女が異世界に行き、出会って友情を育むというのは児童小説のファンタジーでは伝統的な展開です。
そのなかでも最近の作品の中ではいちばん好きだなあと感じて本日ご紹介。
わたしは幼いころから一人で遊ぶのが好きな子だったので、最近の「誰とでも仲良くしましょう」と言う教育ポリシーで育てられた子は気の毒だなとついつい思ってしまいます。
大人になればわかることですが、「誰とでも仲良くする」なんて、大人でもできている人は少ないのです。
「誰とも争わない」「誰とも喧嘩しない」は可能ではあります。合わない人と距離を置けばいいだけなので。
しかし、「誰とでも仲良くする」は、かなり難易度が高い目標です。
言うまでもなく「誰に対しても美点を見つけ、自分と合わないところも許容でき、仲良くできる」と言う精神の成熟は人として望ましいものではあります。
が、それは人間が長い人生のなかで死ぬまでにたどり着けばいいくらいの高い目標であって、そんなねえ、小学生や中学生がいきなりたどり着けるような境地ではありません。
お釈迦様だって悟りを開くまでに35年もかけたわけで、凡人だと35年でも無理なんじゃないでしょうか。
こんな「悟り」とか「解脱」に近い境地にいきなり子どもが到達するのには無理があります。
無理があることを求められたとき、人は「できているふり」をすることになります。
もちろん、ふりをしているうちに実際にできるようになることもあるわけで、それが悪いことではないんですけども「合わない人の美点をみつけておだやかに許容する」のと「合わない人とでも我慢してにこやかに仲良くする」のでは、精神的にかかる負荷は雲泥の差があるわけで。
「みんなの人気者」だったサーマことまえみの心にも、そんな負荷が知らず知らずのうちに降り積もっていました。
まえみが出会った「第二保健室」と「かねやま本館」。そこで彼女は何と出会い、何を学び、どう成長して戻ってくるのでしょうか。それは読んでみてのお楽しみ。
心が疲れたときには休息をとること。自分自身の心を掘り下げること、自分で自分を癒すこと、そして、疲れた心を回復するのにはそれ相応の時間が必要なこと。
けっして、心が疲れたり壊れたりすることは「悪い」ことではないこと。
しんどくなった心をあったかいお湯でじんわり癒してくれる児童小説です。
慌しい時代の流れとテクノロジーの進化に翻弄されてお疲れ気味のお子さまに。大人が読んでも楽しめます。
主人公が中学生で、漢字もわりとあることから、中学生から。しかし、読みやすいので賢い子なら小学校高学年から楽しめます。
もうすぐ夏休み。しんどい学校もあと少しでお休みです。
お休みに入ったらクーラーの効いたお部屋で本の中のあったかい温泉に浸かるのはいかがでしょう。
心をほぐして元気になってくださいね。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
残酷・流血シーンなどはありません。
心の問題に真正面から取り組んでいるので、HSPやHSCのほうがより多くのメッセージを受け取れるでしょう。
読後は、塩むすびが食べたくなります。とっておきのお塩とお米でおむすびを。
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