【保健室経由、かねやま本館。２】消えた相方をさがせ！ 疲れた心を癒す学園ファンタジー【中学生以上】
ある日、紫の暖簾の先に消えてしまったアツ。俺、チバはアツの残した「俺様のネタ帳」を読んでアツの抱えていた苦しみを知るのですが……
この本のイメージ 学園ファンタジー☆☆☆☆☆ 内省☆☆☆☆☆ 消えた相方を探す☆☆☆☆☆
保健室経由、かねやま本館。２ 松素めぐり/作 おとないちあき/絵 講談社
＜松素めぐり＞
1985年生まれ。東京都出身。多摩美術大学美術学部絵画学科卒業。本シリーズ第１巻「保健室経由、かねやま本館。」で第60回講談社児童文学新人賞を受賞。「保健室経由、かねやま本館。」第１～３巻で第50回児童文芸新人賞を受賞。
＜おとないちあき＞
1988年生まれ。東京都在住。イラストレーター。書籍装画を中心に活動。
装画を手掛けた作品に、「君と漕ぐ」シリーズ(新潮社)、「溝猫長屋」シリーズ(講談社)、「鬼遊び」シリーズ(小峰書店)、「ソーリ! 」(くもん出版)、「さよならは明日の約束」(光文社)など
初版は2020年。第一巻は第60回講談社児童文学新人賞受賞作品で、シリーズ化されている人気作品です。
お話自体は一話完結でどこから読んでもわかるように書いてあるのですが、「かねやま本館」の基本設定や「規則」について詳しく書かれている第１巻からお読みになったほうがわかりやすいでしょう。
なんらかの形で学校での居場所を失った中学生が「かねやま本館」と言う湯治場で心を癒し、自分を取り戻すというファンタジーです。
第１巻のレビューはこちら↓
https://www.mmanorhouse.com/2023/07/17/post-12604/今回のお話は……
「かねやま本館」で知り合ったチバとアツ。
チバこと千葉尚太郎は、真面目で堅苦しい性格でしたが天真爛漫で明るいアツに出会い、意気投合し「かねやま本館」の中でお笑いコンビ「紅白温度計」を結成します。
傷ついた中学生たちの心を癒してくれる優しい「かねやま本館」には、破ってはならない掟がありました。
紫の暖簾の向こうには行ってはいけないこと、元の世界で「かねやま本館」の話をしてはいけないことの二つです。
ところがある日、ただならぬ表情をしたアツは、無言のまま紫の暖簾をくぐって向こうに行ってしまったのです。
アツが残したのは「俺様のネタ帳」と書かれた赤い表紙のノート。
チバは、失われた相方を取り戻せるのでしょうか？
……と、いうのがあらすじ。
「いいなあ、あの人悩みがなさそうで」と、他人から思える人でもその人なりの苦労があるものです。
よく知らない人に対して、「どうせあの人は子どもの頃から周囲の人に甘やかされて生きてきたんでしょう。そんな人にはわたしの気持ちはわからないよ」といきなり言い出す人がいます。SNSでもよく見かける「どうせこの人は……」と言うやつ。
いやいや、どんな洞察力でいきなりそこまでの決めつけができるのよ、と言う論法を最近はあちこちで見かけるようになりましたが、これって別にインターネットの特徴などではないんです。こういう人は昔から一定数いました。ただ、それがSNSの力で可視化されただけで。
「あの人にはきっと苦労なんてないんだろうなあ」と言うのは、若い時代に誰しもが陥る心の罠。
お金持ちはお金持ちなりに、美しい人は美しい人なりに、成績がいい人は成績がいい人なりに、強烈な光があたるぶんだけ苦しみがあったりするのですが、若さゆえの悩みにとらわれているとき、それはなかなか気づきません。
チバくんとアツくんは最初、そんな関係でした。
「あいつには自分みたいな悩みは無いんだろうなあ」と互いに思い、相手に憧れを抱く。
思春期のきりきりと刺すような心の痛み。
もしかしたら大人になるということは、自分があこがれていたものや羨んでいたものの裏にも苦しみや辛さと言った影の部分があり、どんな人もその人その人なりの悩みを抱えて生きているのだ、人生は案外帳尻が合っているのだと知ることなのかもしれません。
「保健室経由、かねやま本館。２」は、そんな人生の光と影、そしてそれを乗り越える二人の少年のすがたを描いています。
まるで違った立場の人間二人がわかりあい、互いを必要とし、助け合う。
そのためのパワーの源は「信頼」なのです。
現代社会の過剰な情報にまみれ、心がしんどくなったお子さまに。
主人公が中学生で、漢字もわりとあることから中学生からがおすすめ。しかし、一人称で書かれておりボリュームもほどほどで読みやすいので賢い子なら小学校高学年から大丈夫。もちろん、大人が読んでも楽しめます。
心がじんわり癒される、温泉ファンタジー。インターネットのコミュニケーションに疲れたら、熱い緑茶をお供に不思議な温泉ファンタジー「保健室経由、かねやま本館。２」はいかがでしょう。
上手に休んで、元気になりましょう。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。内省と成長の物語です。
少年たちの友情が熱いお話で、男の子でも女の子でも楽しめます。
読後は、塩むすびと胡麻豆腐が食べたくなります。ご用意を。
