【わたしはあなたをあいしています】通じ合う心とは?ちょっぴりせつないティラノサウルスシリーズ第六巻。【絵本】【4歳 5歳 6歳】
昔々、大昔。恐竜たちは世界中のいろいろなところに住んでいました。北に住む恐竜と南に住む恐竜はまったく違いました。そして、話す言葉も違ったのです……
この本のイメージ 恐竜☆☆☆☆☆ ファンタジー☆☆☆☆☆ 言葉と心☆☆☆☆☆
わたしはあなたをあいしています ティラノサウルスシリーズ 6 宮西達也/作・絵 ポプラ社
<宮西達也>
1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。作品に、「おまえうまそうだな」(けんぶち絵本の里大賞)「おれはティラノサウルスだ」「あいしてくれてありがとう」(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)「帰ってきたおとうさんはウルトラマン」「パパはウルトラセブン」(ともにけんぶち絵本の里大賞)「うんこ」(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)「大きな絵本 にゃーご」(第38回造本装幀コンクール展読書推進運動協議会賞)「ちゅーちゅー」(けんぶち絵本の里大賞)「きょうはなんてうんがいいんだろう」(講談社出版文化賞・絵本賞)「ふしぎなキャンディーやさん」(日本絵本賞・読者賞)など多数ある。
初版は2007年。「わたしはあなたをあいしています」は「おまえうまそうだな」にはじまる「ティラノサウルスシリーズ」の第6巻です。
このお話、基本コンセプトは同じなのすが、続き物なのかそれぞれが違うお話なのか、そこらへんはあいまいになっています。どうやら第4巻以降は続いていなそうです。
もし、最初からお読みになりたい場合は「おまえうまそうだな」からお読みになるといいでしょう。
「おまえうまそうだな」のレビューはこちら↓
今回のお話は……
昔々大昔。恐竜たちは世界中に住んでいました。
北に住む恐竜と南に住む恐竜はまったく違いました。
色も、姿かたちもまったく違いました。
そして、話す言葉も違ったのです。
ティラノサウルスの住む谷に雪が降り、ほかの恐竜たちは食べものを探しに出て行ってしまいました。
そらを飛ぶ恐竜タペヤラに「ずっとむこうの緑の森にはうまそうな奴がいる」と言われ、ティラノサウルスはタペヤラの後をついて歩き続けました。
しかし、タペヤラは嘘をついており、力尽きたティラノサウルスを食べるつもりでした。
命がけでタペヤラを撃退したティラノサウルスは、ホマロケファレの子どもたちに助けられます。
遠いところまで旅をしてきたティラノサウルスは、ホマロケファレたちの言葉がわかりませんでしたが、三匹の子どもたちとティラノサウルスは心が通じ合い、仲良くなりました。
ティラノサウルスはみるみる回復して元気になりました。
ところが、ある日、ティラノサウルスが出かけている間に、ホマロケファレたちはティラノサウルスによく似たアルバートサウルスに襲われてしまいます。
ティラノサウルスが言葉を教えたばかりに、ホマロケファレたちは友だちになろうと近づいてしまったのです。
そして……
……と、いうのがあらすじ。
今回のお話は、いままでのなかで一番哀しいお話でした。
このブログでは基本的にハッピーエンドのお話を取り上げるポリシーなので、これは少しそのポリシーからはずれているかもしれません。
けれど、大切なことを教えてくれるお話でもあります。
ティラノサウルスは、タペヤラの「言葉」に騙されて遠い土地に連れてこられ、あやうく死に掛けました。
そして、「言葉」の通じないホマロケファレの子どもたちに助けられました。
ティラノサウルスはお礼にホマロケファレたちに「言葉」を教えてもっと分かり合おうとしますが、「言葉」を覚えてしまったがためにホマロケファレたちはアルバートサウルスに襲われてしまいます。
ではどうしたらよかったの?
読んだ後、どうしてもそんな疑問が浮かび上がってきます。
哀しいお話を読んだ後は、小さな子どもは考えます。どうしたら、みんなを助けられたのか。どうすればみんなが幸せになれたのか。
どう考えても、かかわるすべての人が幸せになれる「正解」がない問題がこの世にはあります。
答のない高い山を登るのが人生とも言えますが、小さな子どもの頃は「この世にはなんにでも最善の答と言うものがあって、大人はなんでも正解を知っているのだ」と考えがちです。
しかし、生きていればどうしようもないこともあります。
ティラノサウルスがホマロケファレたちともっとわかりあいたいと思い、「言葉」を教えたことは間違いではなかったのです。ただ、結果的に不幸なことが起きてしまっただけで。
ティラノサウルスはタペヤラの「言葉」を信用し、ホマロケファレたちはアルバートサウルスの姿かたちに心を許し、まちがった「言葉」を使ってしまいました。
人は見た目で判断してはいけないこと、姿かたちが似ているからと言って同じではないこと、言葉だけのやさしさはやさしさではないこと、言葉が通じ合うからといってわかりあっているわけではないこと……
本当に大切なことは、こころとこころが通じ合うこと。
生きてゆくうえで大切なことを教えてくれる絵本です。
小さなお子さまが家を出て、大きな社会に挑んでゆくときに知っておかなければならないことがたくさん詰まっています。
哀しいお話ですが、どうしてこんなにも哀しいのか、どうすればよかったのか、親子でたくさんたくさんお話しする機会を持っていただけたらな、と思います。
文章は平易で読みやすく、字はすべてひらがなとカタカナ。五十音が読めるお子さまなら、ひとりでコツコツ読みきることができますが、ここはぜひ読み聞かせで。
そろそろ寒くなる季節にぴったりの絵本です。
たっぷりとお時間が取れるときに、大切な親子の時間に、ぜひどうぞ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
哀しいお話です。少し高度なことが描かれているので、まずは「おまえうまそうだな」からお読みいただき、愛情やコミュニケーションの根本を感じ取れるようになってから親子でお読みください。
HSPやHSCのほうがより多くのメッセージを受け取れるでしょう。
小さな子どもが家の外の社会とかかわるときに必要なことが書かれています。外の世界で傷つく前の予防接種的な役割のある物語です。
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