【おまえうまそうだな】ちょっとツンデレなティラノサウルスのせつない絵本。愛されるロングセラー【ティラノサウルスシリーズ】【4歳 5歳 6歳】

2023年5月18日

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おまえうまそうだな ティラノサウルスシリーズ1  宮西達也/作・絵 ポプラ社

むかしむかし、あるはれた日のこと。やまがドドド……とふんかして、じしんがグラグラ……そのとき、アンキロサウルスのあかちゃんが生まれました…… 会うはずもないティラノサウルスとアンキロサウルスの赤ちゃんが出会ったとき……

この本のイメージ 愛とは☆☆☆☆☆ 親とは☆☆☆☆☆ 成長とは☆☆☆☆☆

おまえうまそうだな ティラノサウルスシリーズ1  宮西達也/作・絵 ポプラ社

<宮西達也>
1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。作品に、「おまえうまそうだな」(けんぶち絵本の里大賞)「おれはティラノサウルスだ」「あいしてくれてありがとう」(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)「帰ってきたおとうさんはウルトラマン」「パパはウルトラセブン」(ともにけんぶち絵本の里大賞)「うんこ」(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)「大きな絵本 にゃーご」(第38回造本装幀コンクール展読書推進運動協議会賞)「ちゅーちゅー」(けんぶち絵本の里大賞)「きょうはなんてうんがいいんだろう」(講談社出版文化賞・絵本賞)「ふしぎなキャンディーやさん」(日本絵本賞・読者賞)など多数ある。

 非常に有名なロングセラー絵本で、わたしは初読です。初版は2003年。わたしが人生でいちばん忙しかった頃です。この当時のヒット作や流行がほとんど思い出せません。今、様々な名作を読み直しているところ。

 以前「でんせつのチョコレート」でご紹介した宮西達也先生の絵本です。

 ストーリーは……

 むかしむかし、ある晴れた日に、ぽつんとひとつ取り残された卵からアンキロサウルスの赤ちゃんが生まれました。
 周囲にほかの生物もなく、ひとりぼっちのアンキロサウルスの赤ちゃんは、とぼとぼひとりで歩き始めます。

 すると、
 「おまえ、うまそうだな」と、ティラノサウルスがアンキロサウルスの赤ちゃんを食べようとしました。

 ところが、生まれてはじめて目にした自分以外の生物を見たアンキロサウルスの赤ちゃんは「おとうさーん」とティラノサウルスに抱きつきます。

 ティラノサウルスが自分の父親で、自分の名前は「ウマソウ」だと信じ込んでしまったアンキロサウルスは、ティラノサウルスから離れようとしません。

 そんなアンキロサウルスに情が湧いてしまったティラノサウルスは、アンキロサウルスの赤ちゃんの子育てをしようとします……

 ……と、いうのがあらすじ。

 これは最初、ただ「食欲」しかなかったティラノサウルスの心に小さな感情が生まれ、それがだんだん大きな愛に育ってゆく物語です。

 原始の人間は魚や鶏、兎などを釣ったり狩ったりして殺して食べていましたが、現代の人間は日常的に水槽で金魚を飼ったり、鶏や兎をペットとしてかわいがったりしています。
 最近では「ペット」は愛玩動物ですらなく、家族の一員として、現代生活のパートナーとして一緒に生活している人も多く、ここ数十年のあいだにも人間と動物の関わり方は大きく変化してきました。

 本来は捕食関係にある生物を「家族」として迎え入れるというのは、人間ならではのかなり特異な性質ではないかと思うのです。

 この物語のティラノサウルスは、最初「食べ物」としか見ていなかったアンキロサウルスの赤ちゃんに対して徐々に父性愛のようなものを感じ、守り、育てるようになります。

 アンキロサウルスの赤ちゃんは、卵を割って外の世界に出たときに最初に目に映ったものを親と認識する「刷り込み現象」でティラノサウルスを親と思ってしまったのですが、この本能的な一途さが、弱肉強食の世界で「他の生き物を食べて生きる」ことしか頭になかったティラノサウルスの心を大きく揺さぶります。

 自分のためだけに他の生物と戦い、食べ、ただひたすら「生きるために」生きてきたティラノサウルスが、生まれてはじめて自分以外のほかの生物を守り、育て、ともに生きる喜びを知るのでした。

 そして、最後には、「自分の存在が相手のためにならないと知ったならば、どんなに自分が一緒にいたくても相手のために自分の執着を手放す」と言う、究極の愛の形にまで昇華します。

 まったく血のつながりもない、偶然出会った二匹の生き物が親子愛の究極形になるまでを非常にシンプルに、そして小さな子どもが本能的に理解できるよう描ききっており、心を掴まれます。さすがはロングセラー。

 ティラノサウルスがアンキロサウルスに一生懸命教えたことは、アンキロサウルスにとって、おそらく何の役にも立ちません。しかし、それでもいいのかもしれません。
 現代でも、親が生きた時代と子どもがいる時代は違うので、親が教えたことがそのまま子どもに役に立つとは限りません。しかし、それでも、一緒に生きた時間は子どもの心を支えます。

 そして、アンキロサウルスが一生懸命採ってきた赤い実の味は、ティラノサウルスにとって大切な思い出になるはず。

 「親とはなにか」「子とはなにか」「愛とはなにか」「親子とは何か」をシンプルに問いかけるストーリーです。

 文章は読みやすく、すべてがひらがなとカタカナだけで書かれていますので、50音が読めれば1人でコツコツ読みきることができます。大人が読んでも大切なことを思い出させてくれる絵本です。

 しかし、これはぜひ、読み聞かせで。

 父と子の本は母と子の本に比べてかなり少ないので、お父さんの読み聞かせにおすすめです。ちょっぴり演技力が必要ですが、アンキロサウルスの性別が不明なので、男の子だけでなく、女の子でも楽しめるのがいいところ。

 小さなわが子の無事の成長と巣立ちを祈る名作絵本です。
 週末の夜、大切な親子の時間に、ぜひどうぞ。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はまったくありません。HSPHSCのほうが多くのメッセージを読み取れるでしょう。ハッピーエンドなのですが、繊細なお子さまは泣いてしまうかもしれません。

 しかし、いいお話です。お父さんの読み聞かせ絵本としておすすめです。

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