【ぼくにもそのあいをください】力こそすべてだと信じたティラノサウルスの人生は……ティラノサウルスの絵本その4。【ティラノサウルスシリーズ】【4歳 5歳 6歳】

2024年4月13日

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ぼくにもそのあいをください  ティラノサウルスシリーズ 5  宮西達也/作・絵 ポプラ社

力こそが大事なもの。強いことが大切なんだ。そう信じて生きてきたティラノサウルス。若いときは無敵だった彼も歳を取り、衰えを感じるときがきました。強くなくなった自分に価値はあるのか……そう考えた彼は……

この本のイメージ 本当の強さとは☆☆☆☆☆ 愛するということ☆☆☆☆ 受け継がれるもの☆☆☆☆☆

ぼくにもそのあいをください  ティラノサウルスシリーズ 5  宮西達也/作・絵 ポプラ社

<宮西達也>
1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。作品に、「おまえうまそうだな」(けんぶち絵本の里大賞)「おれはティラノサウルスだ」「あいしてくれてありがとう」(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)「帰ってきたおとうさんはウルトラマン」「パパはウルトラセブン」(ともにけんぶち絵本の里大賞)「うんこ」(けんぶち絵本の里大賞・びばからす賞)「大きな絵本 にゃーご」(第38回造本装幀コンクール展読書推進運動協議会賞)「ちゅーちゅー」(けんぶち絵本の里大賞)「きょうはなんてうんがいいんだろう」(講談社出版文化賞・絵本賞)「ふしぎなキャンディーやさん」(日本絵本賞・読者賞)など多数ある。

 初版は2006年。「おまえうまそうだな」にはじまる「ティラノサウルスシリーズ」の第5巻。

 このお話、基本コンセプトは同じなのすが、続き物なのかそれぞれが違うお話なのか、そこらへんはあいまいになっています。どうやら第四巻以降は続いていなそうです。

 もし、最初からお読みになりたい場合は「おまえうまそうだな」からお読みになるといいでしょう。

 「おまえうまそうだな」のレビューはこちら

 お話は……

 この世でいちばん強い恐竜ティラノサウルス。
 自分は何よりも強い、この世は強いものが勝つ、そして強いことが一番大切。

 彼はそう信じて生きてきました。

 若いときは、誰もティラノサウルスに勝つことができませんでした。
 けれど、いつしか月日は流れ、最強だったティラノサウルスも歳をとり、衰えるときがやってきました。

 自分よりはるかに小さなマシアカサウルスにしっぽを噛まれ、負傷してしまいます。

 傷を負ったまま、よたよたと歩いていたティラノサウルスは、トリケラトプスの子どもと出会います。
 ティラノサウルスを見たことがなかったトリケラトプスの子どもは、ティラノサウルスの傷口をさすってくれました。

 トリケラトプスの子どもに誘われて、ティラノサウルスはトリケラトプスの子どもたちのもとへと行きます。

 そこで、トリケラトプスの子どもたちに懐かれたティラノサウルスは、生まれて初めての感情に気づくのでした……

 ……と、いうのがあらすじ。

 今回のテーマは「本当の強さとは」。
 昔、特撮の名曲に「強さは愛だ」って歌がありましたね。(古いよ)

 ティラノサウルスは、物理的に力が強いこと、戦って勝つこと、弱肉強食の頂点に立つことがすべてだと信じて生きてきました。
 しかし、どんな力にも衰えがきます。

 老いたティラノサウルスは昔の強さを失い、ひとり寂しく荒野を行くことになります。

 戦いや競争がすべて無意味だとは思いません。
 スポーツでもお互い競い合うことでそれぞれを高めあい、称えあうことができますし、自分の足りないところを学び成長することもできます。

 けれど、人生のすべてが戦いや競争になってしまったら、心が安らげる瞬間がありません。勝つことは素晴らしいけれども、負けることも楽しくなければ続けてゆくことができません。
 もちろん、負けることが悔しくないと成長はないことはわかります。
 しかし、勝負の世界で成長し続けている人は、負けたときに成長の種を見つけてそれを楽しめる人のように感じます。

 ただ勝つことだけを求めて生きてきたティラノサウルスは、トリケラトプスの子どもに出会わなければ、荒野でひとり寂しく死ぬだけでした。
 人生の最後にトリケラトプスの子どもたちに出会えたことでティラノサウルスの人生は意味深いものになり、その想いは受け継がれたのです。

 強さだけを求め続けたティラノサウルスには自分の子どもはいませんでした。しかし、縁もゆかりもなかったはずのトリケラトプスの子どもがティラノサウルスの最後の想いを受け取り、受け継ぎます。

 子孫や財産、名声を後世に残すことができなくても、未来に「愛」を残し、託すことはできるのです。たとえほかの人からは自分勝手でどうしようもない乱暴者だと思われていたとしても。

 そして、子どもが受け取った「愛」はその子を愛情深い大人へと育て、そしてその「愛」はその子たちへと受け継がれます。

 子どもにとっては大切なことを教えてくれる童話であり、大人が読むと別の意味で背中を押されます。

 4巻の「あなたをずっとずっとあいしてる」は母の愛を描いていてややお母さん向けかなと言う内容ですが、こちらはややお父さん向け。

 文章は読みやすく、すべてがひらがなとカタカナだけで書かれていますので、五十音が読めれば1人でコツコツ読みきることができますが、これはどうぞ読み聞かせしてあげてください。

 戦わなくったって、けんかが強くなくったって、お父さんは強いんだ。自分はお父さんに愛されているんだ、と感じられる絵本です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はまったくありません。HSPHSCのほうが多くのメッセージを読み取れるでしょう。幼い頃に受け取った愛は受け継がれるのだと信じられる絵本です。

 

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