【魔術師のおい】物語のはじまりのはじまり。ナルニア創世と魔女の秘密。ファンタジーの不朽の名作、第6巻。【ナルニア国ものがたり】【小学校中学年以上】

2024年4月13日

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魔術師のおい ナルニア国ものがたり 6   C・S・ルイス/作 瀬田貞二/訳 岩波少年文庫

異世界に送り込まれたデイゴリーとポリー。死滅した都チャーンでおそろしい封印を解いてしまったディゴリーは、生まれたばかりのナルニアに悪の種をもたらしてしまいます……ナルニア誕生の秘密を語る第6巻。

この本のイメージ 世界創世☆☆☆☆☆ 魔女の秘密☆☆☆☆☆ 物語のはじまり☆☆☆☆☆

魔術師のおい ナルニア国ものがたり 6   C・S・ルイス/作 瀬田貞二/訳 岩波少年文庫

<C・S・ルイス>
本名クライブ・ステープルス・ルイス(Clive Staples Lewis 1898年11月29日 ~ 1963年11月22日)。アイルランド系のイギリスの学者、小説家、中世文化研究者、キリスト教擁護者、信徒伝道者。全7巻からなるハイファンタジー小説『ナルニア国物語』の著者として有名。

<瀬田貞二>
瀬田 貞二(せた ていじ、1916年4月26日~1979年8月21日)は、日本の児童文学作家・翻訳家・児童文学研究者。
J・R・R・トールキン「指輪物語」の翻訳が有名である。その他、日本の民話の再話もあり、「かさじぞう」「ふるやのもり」などはロングセラーである。1957年、「なんきょくへいったしろ」(こどものとも1956年8月号 福音館書店)で産経児童出版文化賞を受賞、ついで1963年「あふりかのたいこ」で、1966年「ホビットの冒険」の訳で、1967年「ナルニア国ものがたり」の訳で同賞受賞。1975年、「指輪物語」の翻訳等で日本翻訳文化賞、1977年、児童福祉文化賞奨励賞受賞、1979年、「きょうはなんのひ?」で絵本にっぽん賞、1982年、「落穂ひろい」で日本児童文学学会賞、日本児童文学者協会賞特別賞、毎日出版文化賞特別賞受賞。

 原題はThe Magician’s Nephew. イギリスでの初版は1955年。日本語版初版は1966年、岩波少年文庫版は2000年です。

 どの巻も一話完結ですが、おおまかな流れはあるのでアスランとペベンシーきょうだいが出会う第1巻「ライオンと魔女」から順番に読んだほうがわかりやすいでしょう。

 「ライオンと魔女」のレビューはこちら

 さて、今回のお話は……

 シャーロック・ホームズがまだ生きていて、バスタブル家の子どもたちが宝さがしをしていた時代……ロンドンにポリー・プラマーと言う女の子とディゴリー・カークと言う男の子が住んでいました。

 ディゴリーには病気のお母さんがいて、おじさんと一緒に暮らしていましたが容態は思わしくありませんでした。

 ある日、ポリーとディゴリーは、ディゴリーのおじアンドルーにそそのかされて異世界へ飛ばされてしまいます。
 あちこちの異世界を旅する途中で、チャーンと言う滅びた世界から恐ろしい女王ジェイディスをよみがえらせてしまいました。

 それはやがて、生まれたばかりの世界ナルニアに禍根を残すことになります……

 ……と、いうのがあらすじ。

 児童文学の名作は、子どもの頃に読めば学びがあり、大人になってから読んでも気づきがあります。繰り返し繰り返し何度読んでもそのときそのときに心に響くものがあり、それが児童文学を読む喜びであり面白さです。

 「ナルニア国ものがたり」は、もともと作者がキリスト教の教えを小さな子どもにわかりやすく伝えるために書いたファンタジーなので、多分に宗教的要素があります。
 もちろん、そんなことを理解しなくても物語として楽しめるのですが、その哲学的な要素が特定の宗教関係なく深く考えさせられる部分となっているのです。

 「ナルニア国ものがたり」には、「ライオンと魔女」の魔女のようにわかりやすい悪が登場する一方で、エドマンドのようにあやまちを犯してしまう未熟な子どもも登場します。

 小さな子どもは、基本的には善良で良く生きたいと思いながら、ついついその場の欲求や自分の都合で道を踏み外してしまいます。けれども、「ナルニア」ではそこで終わらず、いつもそういった子どもが再度チャレンジするチャンスが与えられます。結果、挫折したときよりずっと正しく善い魂を手に入れるのです。

 おとぎ話の中には、善い者と悪い者が登場し悪者は最後にさんざんな目に遭って退治される、というタイプのお話もあります。「花咲か爺さん」とか「舌切り雀」などがそうです。それはそれで、子どもの心が悪に走らないための抑止力の役目を担っています。

 しかし、未熟な者が悪事を働いてしまったとき「悪者として成敗」されてしまうだけだと、そこから成長がないのも事実。現代社会でのSNSでの正義感の暴走などはその傾向が見られ、「悪者を成敗する」ことだけが極まっているようにも感じます。

 「ナルニア国ものがたり」では、繰り返し繰り返し、過ちと償い、そして許しが語られます。
 間違いを犯した人がそのままでいいわけではありませんが、彼らはそれぞれ、その後の悪い欲望と戦いそれを退け、過ちを償う善行をし、大きく成長します。

 他人の過ちや失敗をひとつも許せないと、自分自身の過ちや失敗も許せなくなり、つい隠そうとしてしまいます。それは完璧主義が抱いている大きな罠です。

 完璧な人なんてこの世にいないのに完璧になろうと消耗してしまうのは、悪を許せない心が強すぎるから。
 過ちや失敗はその後の成長の種だと考えることができたら、自分自身のひとつの失敗や過ちもより善い自分になるための一歩にできるはず……そんなやさしさが「ナルニア国ものがたり」にはあるのです。

 いまどきの子が読んだらすこし「説教くさい」と感じるところもあるかもしれません。
 しかし、「ナルニア国ものがたり」には単純な勧善懲悪を超えた哲学があり、特定の宗教関係なく「和」を尊ぶ日本人の心の琴線に触れるものがあります。互いをわかりあい、労わりあい、支えあう、純粋な心を思い出させてくれるのです。

 SNS時代の今だからこそ、この古風な物語を読んでみませんか。
 子どもが読むと善く生きたいという純粋な心を刺激され、大人が読むと心救われます。

 文章は平易で読みやすく、難しい漢字には振り仮名が振ってあります。瀬田貞二先生の古風な日本語も上品で美しい。小説を読みなれたお子さまなら小学校中学年から。

 子どもから大人まで楽しめる、時を越えて愛される不朽の名作。秋の読書にぜひどうそ。

※この本には電子書籍があります。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。ナルニアの秘密がわかる巻です。チャーンの女王が大暴れするシーンはネズビットの「魔よけ物語」を彷彿とさせます。たぶん、「魔よけ物語」の影響をうけていると思われますので、興味を持った方は図書館などで探してお読みになってくださいね。

 

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