【この楽しき日々】ローラついに結婚。開拓史時代の生活をつづる物語。【ローラシリーズ 8】【中学生以上】

2024年2月13日

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この楽しき日々 ローラ・インガルス・ワイルダー/作 谷口由美子/訳 岩波少年文庫

まだ16歳にもならないローラでしたが、優秀な成績を評価されて、二ヶ月、遠くの町に教師として働きに出ることになりました。知らない人の家に下宿して働く辛い日々。でも週末ごとにアルマンゾがそりで迎えに来て家まで送ってくれたのです。それから静かに三年の時が流れ……

この本のイメージ 開拓史☆☆☆☆☆ 家族愛☆☆☆☆ 生きる☆☆☆☆

この楽しき日々 ローラ・インガルス・ワイルダー/作 谷口由美子/訳 岩波少年文庫

<ローラ・エリザベス・インガルス・ワイルダー>
アメリカ合衆国の作家・小学校教師。幼年期の体験に基づいた子どものための家族史小説シリーズを著した。最も有名な作品『インガルズ一家の物語』は、NBCで『大草原の小さな家』としてテレビシリーズ化され、日本でも二度にわたってNHK総合テレビにて放映された。

 「大きな森の小さな家」からはじまる、ローラの物語、物語としてはこの本で完結です。
 その後に出版されたものは、プロット状態のようなものや手記が多く、明るい話とは言いがたいものもあるため、ローラの結婚で終わるこの巻で、このサイトでのご紹介はラストとします。

 前巻「大草原の小さな町」で、15歳ながら学習発表会で優秀さを証明したローラは、遠くの町の新任教師として働きに出ることになりました。はじめて家を離れ、知らない人の家に下宿して、はじめての職場に通うのです。

 下宿先のブルースターさんはいい人だったのですが、開拓農家の暮らしに耐えられなくなった奥さんが精神的に不安定になっており、まだ幼さの残るローラには激しい衝撃でした。
 どんなに貧しくても家族の結束で乗り切ってきたローラにとって、常時ギスギスした空気が充満しているブルースターさんの家での時間は耐え難いものでしたが、教科書を広げ勉強に専念することで乗り越えようとします。

 学校では、新任教師のローラはうまく教室を切り回すことができず、苦労します。
 当時のアメリカは、勉強の進み具合も、年齢もばらばらな子どもたちを1人の先生が面倒みるシステムなんですね。子どもの人口を考えたらそうするしかないのはわかるのですが、これは大変そう。

 想像を超えた状態に、ローラはホームシックになってしまいますが、週末になるとアルマンゾ・ワイルダーがそりで迎えに来てくれ、家まで送り届けてくれました。本当は、とうさんが行くと言っていたのですが、アルマンゾが自分が替わりにいくと言って来てくれたようです。とうさんじゃなくて、「とうさんの友達が来た」(ローラの認識)ことにびっくりするローラ。

 ローラは週末を自宅ですごし、そしてまたアルマンゾに送ってもらってブルースターさんの家に戻ります。アルマンゾは毎週来てくれました。

 ローラとアルマンゾはこのそりの道中、何の会話もせず無言です。息が凍るほど寒いのもあるのですが、ローラは「何でこの人が来てくれるのだろう」とずっと頭が疑問符状態なのです。たぶん、事実もそうだったのでしょう。

 つらい二ヶ月がすぎ、最後の日に思いがけなく生徒たちがローラとの別れを惜しんでくれて、たくさんのプレゼントをくれるシーンは、じーんとします。

 そしてまたローラは学生に戻るのです。

 かなりボリュームのある内容ですが、物語は淡々とすすんでいきます。ローラとアルマンゾの関係も、ものすごく盛り上がるとか、感情の起伏があるとかではなく、とても淡々としていて、そのぶん、じんわりとやさしいシーンもあります。

 冬のあいだの学校の友達たちとの生活、夏の農場での生活がまた戻ってきて、大学から戻ってきたメアリと楽しい時間を過ごしたり、町に働きに出たりと、ローラはだんだん大人になってゆきます。

 古い物語なので、要所要所で「ああ、当時はこうだったのか」と、開拓史時代の日常を知ることができます。

 当時の「ドライブ」って、「そり」と「馬車」だったんですね。大人になって、ローラや友達たちがみんな「いい馬が引いている」馬車やそりに乗りたがるのを読んで、現代は馬車が車になったようなもんか!そりゃ、アメリカ人は車好きなはずだわ、と大納得しました。

 アルマンゾは、週末になると馬好きなローラのところへやってきて、馬慣らしのドライブに誘います。おてんばなローラは、暴れ馬の引く馬車に乗ってみたいので、一緒に乗ることに。当然、そんな「ドライブ」だから、会話なんてほとんどなし。
 そんななかで、いつしかローラはゆっくりとアルマンゾと心を通わせ、婚約し、結婚することになります。

 現代とはかなり違うので不思議な感覚にとらわれるのは、ローラの婚約までの流れ。
 たとえば、アルマンゾがローラのことを好きなことや婚約を申し込もうとしていることはローラのとうさんチャールズは、かなり前から知ってるんです。
 だから、アルマンゾ側では自分は親公認の交際相手という気持ちなのでしょう。

 ところが、ローラのかあさんキャロラインとローラはそれを知らない。
 だから、ローラは、どうしてこんなにアルマンゾは自分によくしてくれるのだろう、とかなり長い間いぶかるのです。

 そして、インガルス家のきりもりをしているのは、かあさんことキャロラインなので、せっかく一人前に育ったからだの丈夫なローラが、こんなに早々に嫁に出てしまうのは、さぞかし不安だったことでしょう。残されるのは、盲目のメアリと身体の弱いキャリー、まだ小さなグレイスですから。

 うわー、お金の事や今後の生活のことなど、いっさい話し合わないのか!自立の国とは言え、すごいな!
と、かなり驚きました。

 ラスト近くは、実際そうだったのでしょうが、ワイルダー家の事情で、ばたばたと結婚することになります。あまりの唐突な流れに、母キャロラインも祝福しつつも不安げです。ウェディングドレスを仕立てている暇もないので、持っている服の中でいちばん上等な黒いドレスで結婚式を行うローラ。

 幸せな気持ちと、これからへの不安が入り混じった結婚となりました。まだ18歳。物語はこの後も続く予定だったようで、ローラの人生も、この後、さまざまな苦労があったようです。

 でも、ストーリーとしてはこの巻でハッピーエンドなので、開拓史物語としてローラシリーズを楽しみたい方には、この本までで良いと思います。

 印象的だったのは、ローラが「結婚するとしても、誓いの言葉に「あなたに従います」と言いたくない」と言うところ。
 アルマンゾは、「みんな言ってるけど口だけだよ」と気にしないように言いますが、ローラはそこは譲りません。

 そのまま引用すると、そんなにはねっかえりな事は言っていないのですが

 「いいえ」ローラは否定した。「あたしは選挙権を望んではいないわ。だけど、自分で守れない約束はしたくないのよ。あたしはね、自分でいいと思うことに反してまで、人に従うことは、たとえ努力してもできないと思うの」(p402)

 選挙権まではいらない、ただ家庭内のことでは自分の意思は大切にしたい、という事なんですね。当時は、女性に選挙権がなかった時代で、選挙権を求めないローラは保守的なほうだったのだと思います。それでも、意思に反して従う事はできないから、それを神様の前では誓えません、と言うローラは、誠実でありたいと思っていたのでしょう。

 結局、ブラウン牧師は、結婚式で「従う」と言う言葉を使わない人だとわかって一安心。

 二人は、小さな結婚式を上げ、小さなお祝いのパーティをして、新居に引っ越します。
 これから二人の新しい生活が始まるぞ、と言う希望に満ちたラストです。

 実際は、この後もたいへんな苦労があったようで、アメリカの開拓史時代の厳しさは、現代の我々の想像を超えるものだと思いますが、どんなつらいことがあっても、それを受け入れて立ち向かっていくローラの生命力は、現代の生活をしているわたしたちに勇気を与えてくれます。
 
 厳しくなりつつある現代の自然環境の中で生きていくわたしたちに、励ましをくれる作品でした。
 この長い長い物語をローラとともに旅するように読めたことに、感謝しています。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 前半、ブルースターさんの家での下宿生活の章で、ブルースター夫人が情緒不安定になるくだりは、繊細な方にはきついかもしれません。そのあたりを乗り越えれば、ネガティブな描写はほぼありません。「そんなシーンがあるのだな」と前もって身構えていれば読める人にはおすすめです。
 厳しい日常をたくましく乗り越えていく、生命力あふれる物語です。

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