【かるいお姫さま】数々のファンタジー作家に影響を与えた150年以上前の古典ファンタジー。重力の無い美しいお姫様の物語【小学校高学年以上】

2024年2月13日

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かるいお姫さま ジョージ・マクドナルド/作 脇明子/訳 岩波少年文庫

むかしむかし、あるところに王様とお妃様がおりました。おふたりのあいだに、待望の赤ちゃんが生まれたとき、王様はうっかりある人をパーティーに招待し忘れてしまいました。そのせいで、お姫様はとんだ呪いをかけられてしまいます……

この本のイメージ 幻想的☆☆☆☆☆ かわいい☆☆☆ 純粋☆☆☆☆

かるいお姫さま ジョージ・マクドナルド/作 脇明子/訳 岩波少年文庫

<ジョージ・マクドナルド>
ジョージ・マクドナルド(George MacDonald, 1824年12月10日 – 1905年9月18日)は、スコットランドの小説家、詩人、聖職者。代表作は『リリス』『お姫さまとゴブリンの物語』など。

 たいへん古い少女漫画に、「ふんわり狩人(ハンター)」というのがありまして、主人公がハイジちゃんというかわいらしい女の子なんですけど、心がときめくと文字通り身体が舞い上がってしまうという、超設定のお話でした。

 ヒロインは本当にかわいらしいんですけど、少女読者たちに人気はギネヴィアさまっていうかっこいいお姉さまで、颯爽としてて素敵だったんですよ。まあ、古い少女漫画の話は、さておきまして、この漫画の元ネタはたぶんこの童話だろうなと思います。

 ルイス・キャロルや、トールキン、C.S.ルイスなど、多くのファンタジー作家に影響を与えた、ジョージ・マクドナルドの短編ファンタジーです。ウィキペディアによると、後年、マーク・トウェインとも親友になったというのですから、この時代の作家たちの話は、そのままドラマにしても面白そうですよね!

 訳の文章がすばらしく美しい。わたしは英語が不得手なので、原文がどうなのかはわからないんですけども、すいすいと読めてしまうテンポのいい文章です。

 最初、作者は女性なのかな?と思ったくらい、女性心理というか女性の苦労をつかんでいて、ファンタジーなのにリアリティがあります。もと牧師さんだというので、たくさんの悩みを聞いてきたのでしょう。

 子供のいない王さまとお妃さまに、待望の赤ちゃんが生まれます。生まれたのはかわいいお姫さまでした。 ところが、王さまは洗礼式の招待状を全部自分で書いたため、ついうっかり、自分の姉を招待し忘れてしまったのです。
彼女は魔女でした。怒った彼女は、仕返しに、お姫さまにある呪いをかけました。

 このあたりは、「眠れる森の美女」と似ています。

 でも、この呪いは15年後とかじゃなくてすぐ発動しました。お姫さまからすべての「重さ」が消えてしまったのです。

 深刻すぎたり真剣すぎたりすると「重い」と言って好かれませんが、このお姫さまは逆に身体も心もすべてが軽く、いっさいの「重さ」がない子にされてしまいました。

 赤ちゃんの頃から、なにかにつなぎとめられていないとふわふわ浮いてしまいますし、どんな深刻なものや悲しいものを見てもきゃっきゃと笑ってしまいます。明るくて、かわいらしいお姫さまでしたが、すべてにおいて現実味がないのでした。

 ある王子さまが、このお姫さまに恋をして、命をかけて愛の力で呪いを解くというとても短い短編です。これ以上書いてしまうと、ネタバレになってしまうくらい短いお話なので、あらすじはこのあたりにしておきますね。

 ただ、王子さまが恋に落ちてしまうくだりが、女の私にはわりとわからなくて、
 お姫さまがかんかんに怒っているときに出会ったから、なんです。

 かんかんになったおかげで、お姫さまはついぞないほど魅力的に見えていましたし、王子さまにわかる範囲では、なんの欠点も見つからなかったからです。(引用)

 いや、待って。
「重力が無い」ってものすごい欠点じゃない?
(ちなみに、このときお姫さまは頭上に浮いてます)

 そもそも、この王子、いままで出会ったお姫さまには様々な欠点を感じ、ひとつも欠点のないお姫さまを探して旅をしてた人なんですよ。

 わからない。

 もしかしたら作者は、「女性は怒っている時がいちばん美しい」と思っていたのかもしれません。
たしかに、150年以上前ですと、いまよりもずっと女性は抑圧されている時代ですから、女性は人前では喜怒哀楽をあらわにせず、常にほほえみをたたえ、控えめにしているのが常識だったはずです。

 この「かるいお姫さま」は、身体の重さだけでなく心の中にも哀愁や苦しみ哀しみもないため、きゃっきゃと軽く笑うことはできても「ほほえむ」ことができなかった、と書いてあります。だから、きゃっきゃと笑ったり、かんかんに怒ったりと、ふつうの女性が見せないたくさんの表情を見せたのが魅力的だったのかもしれませんね。

 ルイス・キャロルとは親交があったことから良い影響を与え合っていたらしく、「不思議の国のアリス」との共通点もあります。「不思議の国のアリス」とあわせて読んでみるのも楽しいと思います。

 この本の後半には「昼の少年と夜の少女」と言う、かなり後年に書かれた別の短編が収録されています。
これは、訳者の方も「どうすれば日本の読者のみなさんに楽しんでいただけるだろうと、ため息をつくばかり」と書いているように、非常に難解なファンタジーです。けれども、とても幻想的で、映像的に美しいので、深くを読み取れなくてもそれだけで楽しめます。

 「かるいお姫さま」のほうは短いお話なので、読み聞かせにもおすすめ。
子どもから大人まで楽しめる王道ファンタジーです。休日の午後にお楽しみくださいね。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素は無いと思います。とても読みやすい短編なので、ちょっと時間が空いたときにおすすめです。文章が美しいので、小さなお子さまへの読み聞かせにも。
おいしい紅茶とビスケットをお供に、ぜひどうぞ。

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