とぼけたおばあさんのとぼけたお話。長いお話の読みはじめに。読み聞かせにもおすすめです。【小学校中学年以上】
むかし、むかし、あるところに、小さなおばあさんがいました。おばあさんは、困ったときにもあたまを使って考えるので、万事うまくいったのです。
この本のイメージ おとぼけ☆☆☆☆☆ ほのぼの☆☆☆☆ 強靭メンタル☆☆☆☆☆
あたまをつかった小さなおばあさん ホープ・ニューウェル/作 松岡享子/訳 山脇百合子/画 福音館書店
先が見えない時代になりました。でも、こんなときでも、できることを工夫して、明るく生きている日本人って、すごいと思います。考えてみたら、大地震、津波、火山の大噴火、台風、伝染病とフルコースじゃありませんか。それなのに、みんな、日常を守ってコツコツ生活しているんですから……。
「よくよく考えたら、わたしたちって、すごいんじゃないの……」と、そんな気持ちにさせてくれる、素敵な童話です。
主人公は、片田舎に住んでいる、小さなおばあさん。
おばあさんは、困ったことがあると、頭にタオルをまいて、うんうん考えて答えを出します。そして、身の回りの問題を解決していくんですけど、それがちょっと間が抜けてるんです。
うまく解決したつもりでも、実はうまくいってなかったり、「そうじゃないだろう」ってこともしばしばあるんですよ。
これねえ、子供の頃だったら、「あははは!このおばあさん、ばかじゃないの!」って笑っちゃってたと思います。実際、そういうナンセンスギャグみたいな要素はあって、かる~く楽しく笑えるお話ではあるんです。
でも、自分が歳とってくると、そうもいかない。うへえ、キョーレツだなあ、自分もこういう「考えたぶんだけ無駄」なことをしていそう、って考えちゃいます。
でも、そのどちらも、作者は想定して書いているんだと思います。
児童文学には二つの側面があって、子どもが読んだときの感想と、大人になってから読むときの感想は違ってきます。そして、そのどちらにも味わいがあります。人生で、何度読んでもその都度楽しめるのが、児童文学です。
わたしは、自他共に認めるHSPなので、子供の頃から考えこみがちな内向的な子でした。家の中で本を読んでいるほうが、砂場で遊ぶより好きだったのです。
それでも、子どもの頃にこの本を読んだら、ふつうに「おばかさんなおばあさんの話」って思って、ゲラゲラ笑いながらそれなりに楽しんで読んだだろうなと思います。当時、わたしが親にしょっちゅう言われてたことは、それこそ「下手な考え休むに似たり」だったんですけどね。
(ちなみに、「下手な考え休むに似たり」と言うのは、あれこれクヨクヨ考えてる暇があったら、どんどん行動に移しなさい、という意味で、物思いにふけるなんて無駄なので家のお手伝いでもしなさいっていう意味ではないんですが、おかあさ~ん!……まあそれはそれで!)
読んでいただけたらわかるのですが、ナンセンスギャグというか、土曜のバラエティコメディーショーというか、寸劇コントみたいに、頭を使ったおばあさんのやることは、ズレてるんです。
でも、なにがすごいって、最終的にこの小さなおばあさんは、何が起きても万事「これでよし!」と笑って、「わたしはなんてあたまがいいんだろうねえ」と自画自賛して楽しく暮らしていることなんですよ!
何か騒動が起きるたびに、がちょうやねずみなど、同居人(人じゃないけど)も増えていって、だんだん家もにぎやかになっていくのです。
この小さいおばあさんの真にすごいところは、ずば抜けたポジティブシンキングと、強靭なメンタルなんですね。
ひとつだけ、確かにおばあさんが頭を使って問題をスッキリ解決したお話があります。
寒い冬、家の外で凍えているがちょうたちを助けるために、夜の間、家にがちょうを入れ、自分はは羽根布団をもってがちょう小屋で寝る話です。
他の話はどこか手抜かりがあって「ぜんぜん解決して無いじゃん」と思うのだけど、これは「たしかに合理的だなあ」と思ってしまいました。でも、出版された当時には、おそらく、「なんで温かくすごそうと思って作った上等の羽根布団で、汚いがちょう小屋で寝なけりゃならないの」っていうギャグだったと思うんですよ。
小さなおばあさんにとって、かわいいがちょうたちはもう、自分と同じか、自分の孫みたいなものだったんでしょうね。だから本人にとっては、自分には羽根布団があり、がちょうには温かい部屋があるんだから、万事解決じゃないのっていう、純粋な気持ちだったんだと思います。
このおばあさんのいいところは、こういう、飛びぬけておおらかなところ。周囲にはおばかさんに見えていたとしても。
わたしに足りてないのは、こういうとこだよなあと気づかされました。ないんですよ、本当に。
でも、おおらかじゃないからと言って繊細で緻密なわけもではなくて、たんに雑でガサツなおばさんなんですけどね!(いいとこないだろ)
次から次へとたいへんなことが起きて、いつまで続くんだろうって不安になる怒涛の時代ですけれど、うまくいこうが大失敗しようが、このおばあさんみたいに受け止めることができたら、それこそ「万事よし」だなあ、と思ったわけでした。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
英語圏特有のナンセンスコメディなので、もしかしたら一部の内向的で内省的なお子様には、この童話のどこが面白いか理解できないかもしれません。そういうときは、最後のポジティブシンキングのところを「すごいね~」って言って読んであげてください。
字が大きくて読みやすく、小さなエピソードに分かれているので、読み聞かせに向いています。吉本新喜劇とか、コントとかがお好きな方なら、「あのノリか」って楽しめると思います。
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