【そばかすの少年】深い森に包まれて。天涯孤独な少年が家族を手に入れるまでの物語【中学生以上】

2024年2月12日

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そばかすの少年 ジーン・ポーター/作 村岡花子/訳 河出文庫

片手のない、孤児の「そばかす」は、木材会社の支配人に見込まれてリンバロストの森の番人として働くことになりました。そして、その誠実さで、信頼を勝ち得てゆきます。ある日、「そばかす」は、偶然、美しい少女に出会い……

そばかすの少年 ジーン・ポーター/作 村岡花子/訳 河出文庫

 多くの作家が愛した「そばかすの少年」です。恥ずかしながら未読でした。河出文庫版は、かつて漫画化した竹宮恵子先生が解説を書かれています。

 「そばかす」と呼ばれる、孤児院の前に捨てられた、自分の名前すらない天涯孤独の少年が家族を得るまでの物語です。

 いっさいのネタバレなしで、すっきりとあらすじを説明すればそういうお話なのですが、村岡花子の訳がすばらしく、舞台となるリンバロストの森の色彩あざやかな描写を、豊かな日本語で伝えてくれています。

 また、主人公「そばかす」の、頑固なまでに誠実でまっすぐな気持ちが、周囲の人たちをどんどん惹きつけてゆく様子に、読んでいるほうも引き込まれます。

 とくに、「そばかす」のがんばりを評価し、我がことのように誇るマックリーン支配人さんがかわいい。それも、「そばかす」のいないところで「うちの子はすごいだろう」と言わんばかりにいばっていると言うのが、あまりにもかわいらしい。

 また、中盤から登場する「鳥のおばさん」と呼ばれる博物学の博士も、かっこいいキャラクターです。働く女性なら、絶対あこがれてしまうタイプ。
 ふだんは、泥だらけで森に潜み、研究対象の鳥の写真を撮影するために何時間でもやぶ蚊に刺されながらカメラを構える彼女ですが、パーティーのときにはドレス姿できりりと装うのです。

 「あら、そばかす、戦闘服を着たわたしを知らないの?」と言い放つ彼女、ちょっと古典文学のキャラって感じではありませんが、これは1904年に書かれています。 (100年以上前の女性も、パーティーのときのドレスを「戦闘服」って言ってたんですね。気持ちはわかります)

 ゲートルを巻いて、カメラを抱えて森の中を分け入るときの服ではなく、美しく着飾った礼装を「戦闘服」と言うあたり、しびれます。

 しかし、この物語で最も特筆すべきは、ヒロイン。
 このすばらしいヒロインには、時代を超えた魅力があります。

 16歳の愛らしい少女は、「そばかす」に「エンゼル」と呼ばれ、作中に名前は登場しません。しかし、物語の中盤で彼女が登場するや否や、あっという間に無双状態で、ものすごい勢いで物語を動かしてゆきます。それだけの吸引力がある少女なんです。

 ガラガラ蛇がうじゃうじゃいる森にかわいい短靴で踏み込んでくる無鉄砲さで、まず「そばかす」の度肝をぬいたエンゼルですが、それは無知からの行動ではなく、充分承知していての度胸からだというのだから驚きです。
 そして彼女、細くて可愛らしいのに銃も撃てるのです。

 危機に際しての彼女の大胆行動のあとの発言がこちら。

 「あたしが射った高さはあれで十分だったこと?」エンゼルは愛らしくたずねた。「あたし、腹這いになるのをすっかり忘れちまったのよ」(p156)

 この、可憐さの殺傷力よ!

 「そばかすの少年」は少年版シンデレラのようでもあり、貴種流離譚のような要素もあり、そして、サスペンスやアクションの要素もあり、盛りだくさんの魅力にあふれています。時を超えて多くのファンの心をとらえて放さないのも頷けるお話です。

 少し難しい漢字が多いので、中学生以上から。かしこい子なら小学校高学年から読めると思います。
 現代のライトノベルや漫画に通じる魅力も多く、若い方でも読みやすいでしょう。もし読書感想文の題材にお困りのようなら、「そばかすの少年」はおすすめです。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 描写に気をつけて書かれていますが、暴力シーンはあります。ただ、言葉を選んで書かれているので、さほどではありません。「そういうシーンがあるのだな」と身構えていれば大丈夫な方にはおすすめです。ちなみにハッピーエンドです。大丈夫です。

 読後は緑の多いところで、お茶がしたくなるかもしれません。食卓に花を飾るか、公園に散歩してみましょう。
 ハーブティーをお供にぜひどうぞ。

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