【あしながおじさん】孤児のジュディが謎の恩人に宛てた書簡集。少女小説の古典です【小学校高学年以上】
孤児のジュディは、名前を名乗らないとある慈善家の助力で大学に通えるようになりました。条件は、一ヶ月に一度、日常のできごとを手紙に書いて送ること。ジュディは、この親切な人を「あしながおじさん」と名づけて、せっせと手紙を送ります……
この本のイメージ 女性の自立☆☆☆☆☆ ラブコメ☆☆☆ ユーモア☆☆☆☆☆
あしながおじさん ジーン・ウェブスター/作 谷口由美子/訳 岩波少年文庫
<ジーン・ウェブスター>
(Jean Webster, 1876年7月24日 – 1916年6月11日)は、『あしながおじさん』、『続あしながおじさん』などで知られるアメリカの女性小説家。本名はアリス・ジェーン・チャンドラー・ウェブスター(Alice Jane Chandler Webster)。マーク・トウェインの姪の娘にあたる。(Wikipediaより)
100年以上前に書かれた、明るく楽しい少女小説「あしながおじさん」です。初版は1912年。原題は、Daddy-Long-Legs.
書簡集の形を取っており、すべて少女の一人称ですすむので、ほんのりしたラブストーリー要素も含め、現代のライトノベルの元祖と言った感じ。
作者のジーン・ウェブスターは、父はマーク・トウェインの「トム・ソーヤーの冒険」を出版した会社の経営者で、母親はマーク・トウェインの姪です。
そのような文学的環境で育ったジーンは、大学在学中から執筆活動をするような才媛でした。
若くしてこの世を去ったジーンですが、たくさんの作品を残しています。そのなかでも、一番有名なのはこの「あしながおじさん」です。
さてお話は、
ジョン・グリア孤児院で育った18歳のジュディことジェルーシャ・アボットは、引き取り手がいないため16歳までしかいられない孤児院に下働きをしながら暮らしていました。
そんな時、彼女の成績の優秀さと文章の面白さを評価した謎の評議員から、大学進学の援助の申し出があります。
「ジョン・スミス」(イギリスやアメリカにおけるあからさまな偽名。山田太郎みたいな)と名乗るその慈善家は、ジュディは作家になるべきで、ついては彼女が大学卒業するまでの必要な費用と毎月のおこずかいを全額支援してくれると言うのです。
この夢のような申し出に対して、ジュディがする義務はたったひとつ。それは、月に一回、日常のことをできるだけ詳しく書いて、彼に手紙を送ることでした。
ジュディは、この評議員さんが車のライトに照らされた時に地面に落ちた、背の高い足の長い影以外、顔も本名も知りません。
彼女は、この親切な慈善家を「あしながおじさん」と名づけ、心のままに感じたことをほとばしるように書き続けます。
孤児院の生活しか知らなかったジュディが、上流階級の娘たちに混じってわくわくの大学生活が始まりました。
そこで出会う、様々な人たち。驚きと喜びに満ちた体験。そして、謎に満ちたあしながおじさんの正体。
さて、「あしながおじさん」とは一体、何者なんでしょうか。
……と、言うのがあらすじ。
この本のおすすめの読み方は、まずはネタバレなしで全部読んでから、今度は「あしながおじさん」の気持ちになってもう一度読むこと。二度目はなかなか面白い発見がありますよ。
このお話は、ジュディから「あしながおじさん」への書簡集と言う形をとっているので、ジュディが見聞きしていないことは書かれていません。
お話が進むなかで、様々な謎を解き明かすヒントがちりばめられていて、謎解きを楽しむ要素もあるのです。
あしながおじさんは、毎月ジュディが自分に手紙を書くことだけをふんだんな援助の条件としました。
手紙を書くことが、ジュディの文章上達の近道だと言うわけです。
恩義を感じたジュディは、マシンガンのように膨大な手紙を送り続けます。昔の人はペンと紙で手紙を書いていて、書き損じの手直しが難しかったのを考えると、この物量攻撃はすごい。しかも、なんと挿絵付き。
しかし、最初の意図通り、手紙はジュディの文才を育てることになり、大学での学習とあいまって、彼女は文筆家としての実力を開花させてゆきます。
それと同時に、ジュディは女性の自立についても考えるようになります。自分のペンで稼いで生きてゆくことや、自分のような生い立ちの子供たちを助けることなど、大きな夢を抱くようになるのでした。
突然のシンデレラストーリーとして始まる物語ですが、そのなかで青春あり、友情あり、女性の成長や自立、ラブストーリーありの、盛りだくさんな少女小説です。
当時、女性には選挙権が無く、公民として認められていませんでした。
そんな時代に、孤児院で育った、なんの後ろ盾もよりどころも無いジュディが、とびきりの明るさと地道な努力で、ユーモアいっぱいに困難を乗り越え、ついには、あしながおじさんの援助が無くても立派にやってゆける自立した女性に成長します。
わたしの好きなくだりは
大きくなるにつれて、いろいろ問題をかかえるにせよ、人はだれでも、あとで振り返ったときに幸せだったと思える子ども時代を過ごす権利がある (148p 引用)
これは、孤児院で育ったジュディが、いつか自分がお金持ちになって孤児院を作ろうと決心するところで書かれている、彼女の想いです。
また、教会の説教師から「女らしい感情を犠牲にしてまで知性を高めようとするのはよくない」と言う説教を聞いて、「あの人たちはどうして、男子の大学に行って、男らしさを損ねるから、あまり頭をつかいすぎないように、とすすめないんでしょう?」と大憤慨するところも大好きです。
これが100年以上前に書かれた小説とは思えない、瑞々しさを保っているのは、作者の筆力や主人公ジュディの魅力だけでなく、現代にも通じる普遍のテーマを取り扱っているからでしょう。
まだまだ貧富の差があり、女性に公民権がなかった時代だと思うと、ジュディの芯の強さはおどろくべきものです。
それなのに、ぜんぜんツンツンした感じではなく、鼻息の荒いじゃじゃ馬といった感じで、はねっかえりなのに、とってもかわいい。
女の子の夢と希望と強さが詰まった少女小説です。
100年経っても色あせない、ときめきに満ちた物語を、未読の方はぜひどうぞ。電子書籍もあります。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はいっさいありません。明るくゆかいな少女小説です。ラブ要素はあるにはあるのですが、恋愛中心のお話ではなく、少女の自己実現のお話です。
男女どちらでも読めると思いますが、女の子や女性のほうがより楽しめるでしょう。
疲れてるとき、気持ちが落ち込んでいるとき、元気がもらえる小説です。
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