【ダーウィンと出会った夏】自然と科学に目覚めた少女の自己実現ストーリー。【小学校高学年以上】

2021年7月6日

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ダーウィンと出会った夏  ジャクリーン・ケリー/作 斉藤倫子/訳 ほるぷ出版

1899年、テキサスの田舎町で11歳のキャルパーニアは、変わり者のおじいちゃんの「共同研究者」となり、実験や観察の魅力を知って科学を学びたいと思うようになります。それは、キャルパーニアが自分で自分の人生を選び取った瞬間でもありました……。ニューベリー賞受賞作。

この本のイメージ 等身大の少女☆☆☆☆☆ 少女の自己実現☆☆☆☆☆ 多様性☆☆☆☆☆

ダーウィンと出会った夏  ジャクリーン・ケリー/作 斉藤倫子/訳 ほるぷ出版

<ジャクリーン・ケリー>
ニュージーランドで生まれる。幼い頃にカナダのバンクーバー島、熱帯雨林で育つ。その後、米国テキサス州の医学部へ進み、医者として長年働いたのち、テキサス大学法科大学院へ入学。弁護士として活躍後、小説を書きはじめる。2009年 『ダーウィンと出会った夏』(The Evolution of Calpurnia Tate)を出版して作家デビューする。

<斉藤倫子>
さいとうみちこ。1954年生まれ。東京基督教大学卒。訳書に「シカゴよりこわい町」(東京創元社)「ライオンとであった少女」(主婦の友社)「ホワイト・ピーク・ファーム」(あすなろ書房)など多数。

ダーウィンと出会った夏  ジャクリーン・ケリー/作 斉藤倫子/訳 ほるぷ出版

 ニューベリー賞受賞作品です。表紙がかわいくて、つい手にとってみたのですが、良作でした。原書初版は2009年。原題は、The Evolution of Calpurnia Tate. 日本語版初版は2011年です。
 11歳の女の子の成長物語です。「少女の自己実現の物語は、男性には読み取りづらい」というのが、最近わかってきたので、これがツボにはまって面白いと思うのは女の子かもしれません。

 強力な敵が出てきて倒すとか、生きるか死ぬかの困難に立ち向かうとか、そういう話ではありません。そろそろ1900年代に突入しようとする時代の、120年前の女の子の等身大の物語です。

 最初の立ち上がりは、どんな話かわからなくてもどかしかったのですが、「赤毛のアン」「魔女の宅急便」のような、少女の自己実現がテーマなのだとわかったら、どんどん面白くなってゆきました。

 これを「うんうん、わかるよ」と思って読むか、または「昔は、そうだったのか!」と思って読むかは年代しだいだとは思いますが、好きな人には面白く読めるでしょうし、わからない人には山も谷もないつまらない話に感じられると思います。そう言う本です。ちなみに、わたしは面白かったほうの人です。

 ストーリーは……

 1899年、テキサスの片田舎、11歳のキャルパーニアは一族の変わり者のおじいちゃんと仲良くなりました。おじいちゃんは、ペカンナッツ農場で財を築いた人でしたが、引退して、「書斎」と「実験室」で、なにやら不思議な研究をしているのです。

 キャルパーニアは、おじいちゃんの「共同研究者」になり、一緒に森へ行って、変わった植物を採取したり、芋虫を育てたり、標本をつくったりするうちに、科学の面白さに気づき、のめりこむようになりました。

 でも、お母さんは、キャルパーニアを自分が夢見てかなわなかった社交界デビューさせるという夢があったのです。

 自分がやりたいことと、家族の事情のなかで揺れるキャルパーニア。そんなとき、キャルパーニアとおじいちゃんは、森で変わった植物を見つけます。それは……

 ……と、いうのがあらすじ。

 基本的に、小さなエピソードの連続で話がすすむ、日常系のお話です。大きな事件は一つ、二つ、ありますが、事件解決系の話ではないので、そういうのがお好きな方には、つまらないかも。(わたしはどっちも好きです)

 ただ、それぞれのキャラクターはとても考えられて配置されており、「ああ、こういう価値観のすれちがいってあるよね」と、一度でもこの種のことで苦しんだ人なら共感できるように書かれています。

 主人公のキャルパーニアは、男ばかりのきょうだいの中で、三人の兄と三人の弟にはさまれた、たった一人の女の子。お母さんは、自分が若い頃、戦争などの事情でかなわなかった社交界デビューをさせたいと望んでいます。それが娘の幸せだと信じているのです。

 キャルパーニアはおてんばで、おしゃれに興味はなく、本が大好き。変わり者のおじいちゃんと仲良くなってからは、植物、昆虫採集や、おじいちゃんの不思議な実験が大好きになって、一緒に「研究」を始めます。

 そして、このおじいちゃんは、昔は偉大な事業家で、ペカンの農場を経営して財を築いた人でしたが、いまは経営は引退し、研究者となって、周囲の森の生態系の研究をしています。でも、こういうまともな研究のほかに、ライフテーマとして取り組んでいるしょうもない研究もあって、それは「ペカンからウイスキーを造る」と言うものなのでした。真面目と不真面目が共存しているおじいちゃんなのです。

 いちばん上の兄、ハリーは父親からは家をついで立派な事業家になることを、母親からは都会の大学に進学することを望まれています。優秀でかっこいいお兄さんなのですが、わりと恋愛優先の人で、しょっちゅう好きな人がいます。

 弟、トラヴィスは、繊細で心優しい男の子。動物が大好きで、夢見がちですが、すごくいい子です。

 お母さんがキャルパーニアを社交界デビューさせるべく、行儀作法や刺繍、ピアノを教えたり、お料理をおぼえさせようとしたりすればするほど、彼女はおじいちゃんとの絆が深まってゆきます。
ただ、女の子が「学問すること」とくに、科学を学ぼうとすることには、この時代、たいへんな壁がありました。

 何も知らないキャルパーニアは、好奇心だけで図書館に行き、ダーウィンの「種の起源」を読みたいとたずねますが、司書さんに「とんでもない」としかられてしまいます。
 当時、ダーウィンの進化論は、聖書の天地創造のお話に反する本として、一部では「禁書」になっていたこともあるのです。非常に不届きな本だったのです。

 「女の子なのに、神様に反する本が読みたいなんて、なんて子だろう」というわけですね。ところがこの本、おじいちゃんの書斎にあるのですが。

 お母さんは、キャルパーニアがお裁縫や刺繍、お料理ができないことに危機感をおぼえ、特訓しようとします。でも、それはつまり、おじいちゃんと一緒に「研究」する時間を犠牲にすることになります。

 この「大切な時間を何に割り振るか」問題、現代にも通じるものがありますが、11歳のキャルパーニアは、真剣に苦しみます。
 しかし、そこで「ほんとうに自分がしたいことは何か」に気がつくのです。

 ところが、お母さんは彼女を社交界デビューさせる夢に向かって、猛然と突き進んでいます。自分が叶えられなかった夢を、キャルパーニアに実現させてあげるのが、彼女の愛情なのです。もちろん、召使たちや、他の女性たちはみんな、お母さんに大賛成。だって、女の子なら誰もが夢見ることだから。

 お母さんの夢と自分の夢がぶつかり、苦しむキャルパーニア。そして、お母さんから都会の大学に進んでほしいと言う夢をかけられながらも、内心、大学なんてどうでもいいと思っていそうな長男のハリー。

 感謝祭で殺して食べる予定の七面鳥の世話を「女の子だから」と言う理由で免除されたキャルパーニアと、「男の子だから」と言う理由でまかされたトラヴィス。
 普段からおじいちゃんの助手として、生物標本をつくる手伝いをしていたキャルパーニアなら、おそらく問題なくできたはずの行為が、繊細で優しいトラヴィスがまかされてしまったために大騒動に発展します。

 基本的に、小さなエピソードの積み重ねの日常系の物語なので、ダイナミックな話が好きな人には、つまらないと思います。ただ、ひとつひとつのエピソードが「あるある」なので、共感できる人には、ずっしりと感じるものがあるはず。

 若い人には、昔の女の子の日常や悩みを知ることができて、新鮮かもしれません。でも、今でもやっぱり、まだまだこういう感覚はあるのではないでしょうか。

 これを「はいはい、ポリティカルコレクトネスですね」と一蹴してしまうのは、なんともさみしい気がします。
 そこにあるのは固定観念への批判ではなく、価値観のすれ違いの苦しみや哀しみであり、争いあうのではなく互いを尊重することで乗り越えてゆける問題だからです。

 わたしは最後まで楽しく読みましたが、わからない人にはほんとうに何がどう面白いのかわからない退屈な話だと思います。あまりにも淡々としているので。
 でも、「ああ、あるある」と思える人には、絶対おすすめなので、ぴんと来た方は、ぜひ、お手にとってみてくださいね。

 難しい漢字には振り仮名が振られているので、賢い子なら小学校高学年から読めると思います。キャルパーニアが11歳なので、共感できるかも。読み応えがあるので、大人にもおすすめです。

 続編もあるらしいので、キャルパーニアの成長が楽しみです。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はありません。淡々とした日常系の物語です。「赤毛のアン」の、リケジョ版と言ったところ。コメディ要素は少ないので、笑える物語ではないのですが、共感できるところはたくさんあります。
 ラストにむけて、キャルパーニアが自分の夢に気づいてゆく展開には、気持ちが高揚します。
 女の子におすすめです。

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