【星をつなぐ手】本を愛する人たちが手をつなぐ。もっともっと本が好きになるヒューマンストーリー【桜風堂ものがたり】【中学生以上】

2024年3月17日

広告

星をつなぐ手 ━桜風堂ものがたり━  村山早紀/作 挿画/げみ PHP研究所

桜風堂で働き始めた月原一整。やりがいのある仕事だったが、大手の書店員だった彼には予想もしなかった困難に出会う。立場が変わることで、人の態度も変わる。けれど、もちろん、手を差し伸べてくれる人もいて……

この本のイメージ 再生☆☆☆☆☆ 出会い☆☆☆☆☆ つなぐ☆☆☆☆☆

星をつなぐ手 ━桜風堂ものがたり━  村山早紀/作 挿画/げみ PHP研究所

<村山早紀>
1963年長崎県生まれ。日本の児童小説作家。「ちいさいえりちゃん」で毎日童話新人賞最優秀賞、椋鳩十児童文学賞を受賞。主な作品は『シェーラひめのぼうけん』『新シェーラひめのぼうけん』シリーズ、『風の丘のルルー』シリーズ、『はるかな空の東』などであり、近年は風早の街を舞台にした『コンビニたそがれ堂』シリーズ、『カフェかもめ亭』シリーズ等が人気を博している。

<げみ>
1989年生まれ。兵庫県三田市出身。京都造形芸術大学美術工芸学科日本画コース卒業後、イラストレーターとして作家活動を開始。主に書籍の装画や挿絵、CDジャケットなど幅広い分野でイラストレーションを制作。

  「桜風堂ものがたり」の続編。初版は2018年。
 銀河堂書店を辞めて、桜風堂書店の書店員となり、あらたな人生を踏み出した月原一整と、彼を取り巻く人々の物語です。

 お話が完全につながっているので、「桜風堂ものがたり」が前編、「星をつなぐ手」を後編と思って読むこともできます。

 この話だけ読むとわからないことが多いので、まずは「桜風堂ものがたり」からお読みください。このシリーズは電子書籍もあります。

「桜風堂物語」のレビューはこちら↓

 お話は……

 銀河堂を辞め、晴れて桜風堂の書店員となり、充実した書店員ライフを送る月原一聖でしたが、大手書店の書店員だった頃にたやすくできたことも、地方の小さな書店の書店員では困難なこともあると気づき、苦戦していました。
 当然、入ると思い込んでいた、人気作家高岡源の新作「紺碧の風」が配本されないのです。

 そんなとき、銀河堂書店から、チェーン店にならないかという誘いをうけます。
 ふたたび銀河堂の仲間たちと、協力しあえるようになった一整。

 その高岡源との思いがけぬ出会いや、もと大手出版社の編集で現在は喫茶店マスターの藤森、美大生の沢本来生など、あらたな人々とのつながりで、桜風堂は桜野町に、新しい風をふかせようとしていました。

 ……と、いうのがあらすじ。

 
 わたしは、本屋さんも、図書館も、ネット書店もみんな、全部大好きです。

 ネットの書店はたしかにとても便利で、家にいながらにして翌日には本が届きます。けれども、書店で店内をめぐるときのわくわく感や、美しい装丁への一目ぼれ、偶然の出会いみたいなものはありません。

 図書館も、緊急事態宣言下だと、書架に入れないところもあるので、そうなると本との出会いのチャンスが大幅に減ってしまいそうで心配です。難しい時代になりました。

 本と人とがリアルに出会う機会が減ってきていることには、心からさみしく思います。

 月原一整は小さな町の小さな本屋さんを任されることになりました。
 「桜風堂ものがたり」は人間・月原一整の再生物語だとしたら、「星をつなぐ手」は桜風堂の再生物語です。

 それと並行して、前作から登場している三神渚砂、卯佐美苑絵、そして、今回初登場の沢本来生らの心の再生も描きます。

 心に傷を負った人々が、一整と桜風堂に出会うことで、回復し、ともに桜風堂を育ててゆくストーリーです。

 実際問題として、小さな書店の生き残りというのは、本当に厳しいものなのでしょう。一整は、桜風堂をブックカフェとして再生させようとします。本とカフェは相性がいいので、実際に、ブックカフェはあちこちに増えつつあります。

 この物語のなかでは、デジタルを愛するゲームクリエイターがリアル書店と対極の存在として登場しますが、実際のゲームクリエイターやプログラマーは、リアル書店好きがわりと多いんですよ。

 と言うのも、彼らが必要とする技術書は高額で分厚いので、手にとって確かめないと、購入に踏み切るのにはたいへん勇気がいるのです。
 なので、地方でも、プログラミング関係やテクノロジー関係の本の書店とコワーキングスペースの合体などは、活路があるのじゃないかと思います。(素人考えですが…… すでにやっていらっしゃるところがあったらすみません!)

 そのほかにも、不思議関係の本の売り場と占いスペース、園芸本売り場とお花屋さんの合体など。その場に行かないと手に入らないものを売っているお店と本屋さんとの合体は、まだまだ可能性がありそう。

 書店の形が変化しても、これからも書店や図書館での素敵な本の出会いは、続いてほしいと思うばかりです。

 それとは別に、デジタル世界での本との出会いの、最大の醍醐味はロングテール。
 はるか昔に小部数出版されて忘れ去られていた本との偶然の出会いや、細く長く売れている知る人ぞ知る本との出会い。それは、インターネットならではのものです。

 わたしは、このサイトでは、そのような本を中心にご紹介しています。書店には書店のよさ、ネットにはネットのよさがあります。

 感受性のするどい芸術家の苑絵ちゃんや来生ちゃんが、過去の傷から再生してゆく過程も、このお話の見所の一つ。
 とくに、漫画家志望の来生ちゃんが、相性の悪い編集さんとのやり取りで疲弊してゆくところは胸が潰れそうになりました。

 自分ごとでたいへん恐縮ですが、わたしたちは普段、小さなチームで手づくりの女の子向けオンラインゲームを細々と運営しています。吹けば飛ぶような小さなゲームですが、ささやかなりとも自分たちなりのポリシーをもって運営しており、現在も続けています。

 それは、「戦いや争いのないゲーム」というコンセプト。
 インターネットの海に、やさしいコミュニティを創出するというのがわたしたちの願いです。

 しかしまあ、これは商業化するのは苦戦しました。結局、現在はボランティアベースで続けているのですが、ネックになったのは、「ユーザー同士を競わせるシステム」と「ガチャ」の導入です。

 大きな資本が入る場合、このふたつは必須だったのですよねえ。

 けれども、わたしたちは逆に、こんな時代だからこそ、「ユーザー同士が争わない」「ガチャ以外で運営を可能にする」オンラインゲーム運営の可能性を探りたかったのです。(現在のゲームシステムとガチャの相性がよくなかったこともあります)

 もちろん、競争や勝負、ガチャを全否定するつもりはありません。「かけっこのときに手をつないでゴールしたい人ですか?」と聞かれたことがありますが、そんなことは考えていません。
 わたしたちは、スポーツやレースも大好きですし、抽選や宝くじなども、適度な範囲での楽しみならわくわくして大好きです。
 「何かが嫌いだから」「否定するために」しているのではなく、「新しい可能性を探している」のです。

 争いのないゲーム……そんなゲームの成功は可能でしょうか? 不可能かもしれません。けれど、それがわたしたちの選んだ挑戦でした。

 だから、苑絵ちゃんの気持ちも、来生ちゃんの気持ちも、痛いほどわかります。お金を儲けられないと「アマチュアだ」って言われてしまいます。けれど、プロであるために心を殺すあまり、生きることも難しくなってしまうなら、それは本来の創作の目的とは違ってしまう。

 わたしは、苑絵ちゃんと来生ちゃんが自分の感受性を生かす選択をしてくれたことに、本当にうれしくなりました。

 時代が変化してゆくとき、手探りでしか前に進めないときがあります。マニュアルなんてなく、先達者もいなく、誰もが初心者で、誰もがチャレンジャー。わたしたちは、そんな時代に生きています。

 それは、もしかしたら幸せなことなのかもしれません。

 「星をつなぐ手」を読みながら、わたしは、そんなことを考えていました。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 おすすめします。本がお好きなお子様なら、もしかしたら小学校高学年でも読みこなせるかも。本と本屋さんが好きなら、子どもから大人まで、おすすめです。
ただ、お話が完全に続いているので、まずは「桜風堂ものがたり」からお読みください。

 読後は、ゆったりとした気分で、あたたかい緑茶を。

 

商品紹介ページはこちら

 

 

お気に入り登録をしてくださればうれしいです。また遊びに来てくださいね。
応援してくださると励みになります。

にほんブログ村 本ブログへ

広告