【アリーテ姫の冒険】助けを待たない! 元祖・困難を自力で解決してしまうお姫様の物語。【小学校中学年以上】
あるところに、お金持ちの王様がいました。王様は宝石を数えるのが大好きで、自分の娘アリーテ姫をたくさんの宝石と引き換えにお嫁にもらってくれる王子様を待っていました。けれど、アリーテ姫は、とてもかしこいお姫様だったのです……
アリーテ姫の冒険 ダイアナ・コールス/著 ロス・アスクィス/絵 グループ・ウィメンズ・プレイス/訳 大月書店
<ダイアナ・コールス>
イギリス在住。教師として働くかたわら『アリーテ姫の冒険』を執筆。
<ロス・アスクィス>
イラストレーター、漫画家。アメリカで数多くの絵本や若者向けの本を描き、「ガーディアン」紙で20年以上漫画を連載。邦訳書に『いろいろいろんなかぞくのほん』(少年写真新聞社)。
<グループ・ウィメンズ・プレイス>
横浜市主催の海外セミナーの参加者が結成した女性グループ。1984年に同セミナーに参加して訪れたロンドンで『アリーテ姫の冒険』の原作である「The Clever Princess」と出会い、翻訳を手がけた。
強いお姫様の物語の元祖「アリーテ姫の冒険」。原題は、THE CLEVER PRINCESS.原作初版は1983年。日本語版初版は2001年のようです。2018年に復刻しました。
フェミニズム、と一口で言ってしまうと、この国ではこの言葉が使い古された上に成果が出てこなかったゆえに、あまりいいイメージが沸いてきません。「政治的に正しい」と言う表現も、どこかしっくり来ず、心に響かないのです。
女性の自己実現のために必要なことがアニメキャラクターを否定することだったり、ポスターのデザインにクレームを入れることではないように思うわたしには、これらの言葉が遠く感じられます。(もしかしたら大切な意味がある行動なのかもしれませんが、いまのところ、わたしにはわかりません)
なので、「アリーテ姫の冒険」は、このブログではシンプルに「自力で困難を乗り越えるお姫様の物語」と表現したいと思います。
お話は……
あるところに宝石の大好きな王様がいました。お妃様は亡くなっており、小さな姫がひとりいらっしゃいました。
王様は、姫を育てることより宝石を数えることに夢中だったので、姫はお城で賢い召使に育てられて、賢く育ちました。
姫は年頃になりましたが、賢すぎて王子様たちがお嫁にもらってくれません。あるとき、悪い魔法使いがたくさんの宝石と引き換えにアリーテ姫をもらいにきます。宝石に目がくらんだ王様は、魔法使いの出す三つの試練をアリーテ姫が解決できなければ殺してもいい、という条件で魔法使いに姫を引き渡してしまいます。
さて、アリーテ姫は、この困難を乗り越えられるのでしょうか……
……と、いうのがあらすじ。
この物語では、王子様の助けはありません。王様はまったく頼りになりません。けれど、アリーテ姫は賢い魔女や、優しい料理番のおばさんの助けで、困難を乗り越えます。
この物語が書かれた1980年代は、こういったお姫様の物語はたいへん珍しく、新鮮に感じられました。ストーリーとしては、ステレオタイプの童話の逆を行くお話であり、セオリーをひっくり返して書かれているため、最初に出版されたときはセンセーショナルでした。
最近復刻されたので、もういちど読み返し、今となっては古典ともいえる童話だけれど、あらためて読むと新鮮な発見もあり、ご紹介しようという気持ちになりました。
再読するにあたり、ネットの感想も読んでみたりもしましたが、女性キャラにくらべて男性キャラがダメすぎるのでそのあたりは不評のようです。
これは、それまで「都合よく」書かれていた、「おとぎ話」へのアンチテーゼなのです。
お姫様が薄倖の身の上ながら「都合よく」美しかったり、高度な教育を受けさせてもらえていないながら「都合よく」賢者が知恵を授けてくれたり、身なりを整えることができなくても「都合よく」魔法使いが美しく着飾らせてくれたり、身動きの取れない状況に陥っても「都合よく」王子様が助け出してくれたりしない、そういう、「都合のいい」ことがまったくおきない世界の物語です。
お金や宝石に目がくらんでアリーテ姫を悪い魔法使いに売り飛ばしてしまった王様は、もともと彼女をまともに育てていません。優しかったお母様が死んだあとは、召使にまかせっきりです。
この召使が賢い魔女だったため、アリーテ姫はたくさんの本を読んで賢く育ちました。また、お裁縫や乗馬も教えられたため、自分で服を創ることもできるし、自力で馬に乗ることも出来る、なんでも出来る子になりました。
そのおかげで、アリーテ姫は、数々の困難を自分の知恵と勇気で解決します。魔女のくれた指輪の魔法は、結局は、困難の解決のためには使いませんでした。
昔読んだときは、困難を解決するために魔法は使わないのに、どうしてこの物語には魔女がでてくるのだろう、と不思議だったのですが、いまなら、これが何を象徴してるのかがわかる気がします。
アリーテ姫は、困難を自分の知恵で解決する賢い姫だけれど、だからといって、魔法のような超自然的な不思議を否定してはいないのです。
彼女は、物理的な困難を解決するためには自分の知恵を使い、そして、自分の心を満たすために「魔法」を使ったのでした。
閉じ込められている牢屋に、画材とか、お裁縫道具とか、小説を書くための道具とかを呼び出して。魔法で絵を描いたりドレスを創ったりするわけではなく、あくまで描くため、創るための道具を呼び出すところが大切なのだと思います。
令和の時代、様々な漫画や小説に、「強いヒロイン」が登場するようになり、アリーテ姫はさほど珍しいお話ではなくなりました。けれども、1980年代に生まれた、強くはつらつとしたお姫様の冒険物語、その荒削りだけれど前向きでさわやかな魅力に触れてみてください。
新時代のおとぎ話が生まれようとしていた時代の息吹を、少しでも感じていただければと思います。
文章は平易で読みやすく、難しい漢字には振り仮名が振ってあるので小学校中学年から。内向的な女の子におすすめの物語です。
この作品は、「この世界の片隅に」の片淵須直監督によって映画化されたことでも知られています。(ちょっと原作とは違っています)
この機会に、元祖・強くて賢いお姫様の物語をどうぞ。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ネガティブな要素はありません。セオリーをひっくり返しまくるおとぎ話です。もはや古典と言うくらいの作品なので、いまとなっては、そんなにものめずらしさはないかもしれませんが、時代を切り拓こうとしていた当時のパワーに満ちています。
アンプルさんの料理がどれもおいしそうなので、読後はおなかがすくかもしれません。おいしいコーヒーを淹れておきましょう。
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