【アリ・ババと四十人の盗賊】「ルドルフとイッパイアッテナ」の作者が描く、アラビアンナイト第三弾。アリ・ババの冒険。【アラビアン・ナイトシリーズ】【小学校中学年以上】
ペルシャの貧しい商人アリ・ババは、ある日三頭のロバを連れて森にたきぎを拾いに行き、偶然、怪しげな盗賊団のアジトを見つけてしまいます。そこは、岩の扉で閉ざされた洞窟で……
この本のイメージ スリル☆☆☆☆☆ 金銀財宝☆☆☆ 女は強い?☆☆☆☆☆
アリ・ババと四十人の盗賊 アラビアン・ナイト 斉藤洋/作 一徳/画 偕成社
<斉藤洋>
日本のドイツ文学者、児童文学作家。亜細亜大学経営学部教授。作家として活動するときは斉藤 洋と表記する。代表作は「ルドルフとイッパイアッテナ」「白狐魔記」など。
「ルドルフとイッパイアッテナ」「白狐魔記」の斉藤洋先生がリメイクしたアラビアンナイトシリーズ四部作の第3巻、「アリ・ババと四十人の盗賊」です。
アラビアンナイトは、アラビアのシェヘラザード姫が王様に聞かせた物語と言う設定の物語です。
実は大人向けのファンタジーですから、残酷なシーンやセクシーなシーンもたくさんあります。
斎藤先生は、そこのところを子供向けにリメイク、オリジナルの味付けをしてわくわくする冒険話に仕上げました。けれども、残酷なシーンやお色気シーンは、全面カットではなく、ぎりぎりのラインでちゃんと描かれており、そういうところも魅力です。
斎藤先生のお話は、独特の『斎藤節』のようなものがあります。
黒でも白でもない、黒と白のあいだの様々なグレーのグラデーションを描くのです。
「善悪、白黒はそんなに簡単に区別できるものではない」と言う、清濁併せ呑む物語を描きつつ、ハッピーエンドに落とし込むスタイルは、いつもながら名人芸。「アリ・ババと四十人の盗賊」も、そんな斎藤節が炸裂していました。
わたしは、オーソドックスな正統派で勧善懲悪のお話も大好きだし、こういう白と黒のあいだのグラデーションのお話も好きです。
ただ、黒と白の間のグレーな世界を、子どもの夢を壊さずにわくわくドキドキのハッピーエンドにするのは、なかなかできることではありません。斎藤先生の作品を読むと、いつも絶妙のさじ加減に舌を巻きます。
今回、収録されているのは、「アリ・ババと四十人の盗賊」「バスラのりんごと大臣ジャアファルの災難」「ふたりの詐欺師」の三本。
子どもの頃に「アリ・ババと四十人の盗賊」を読んだとき、モルギアナのかっこよさにしびれた記憶があります。賢く冷静沈着で、美しくて強いのです。完璧ではありませんか。
斎藤版アラビアン・ナイトのモルギアナは、彼女の美しさより、強さ、賢さ、機転や度胸のよさなどが魅力として描かれています。とにかく、度胸がすごい。勇気があると言うよりも、肝が据わっています。
「アラジンと魔法のランプ」の美しすぎるバドル・アル・ブズル姫も強い姫でした。(この方の場合は、「美」が強すぎて誰も太刀打ちできないと言う描写でしたが)
斎藤版アラビアン・ナイトでは、「女は美しい」と「女は恐ろしい」のあいだを常にいったりきたりするのです。でも、ふたりとも、実はすごくまっすぐで芯が強い。だから魅力的なのです。
美しく賢く冷静で機転がきき勇気もあり、そして武芸にも秀でるモルギアナですが、いちばんの美徳はアリ・ババへの忠義です。超弩級に美しいバドル・アル・ブズル姫ですが、彼女の美徳は愛するアラジンのためになりふりかまわずがんばるところ。
これは斎藤先生の和ファンタジー「白狐魔記」の雅姫(つねひめ)も同じで、美しく恐ろしいのに一途なところもある、黒でも白でもないミステリアスな存在として描かれています。こういうヒロインを描かせたら天下一品ですね。
美女と金銀財宝、陰謀と冒険、そしてエキゾチックなアラビアの世界観と言う、ゴージャスでスリリングなファンタジーです。
寒い冬には、熱い国のファンタジーはいかがでしょう。
この魅力的なシリーズも、あと一冊です。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
アラビアン・ナイトの物語は、残酷シーンや流血シーンもあります。人はわりと簡単に死に、悲惨な不幸といつも隣り合わせのような世界観です。ですので、そういうシーンが苦手な方は要注意です。また、健康的ですがお色気シーンもあります。
でも、最近の少年漫画が大丈夫なお子様なら大丈夫なレベルでしょう。
大人が読むにはマイルドですが、子どもが読むとちょっと大人っぽい、そんな雰囲気の物語です。
スリルに満ちたファンタジーなので本好きのお子様にはおすすめ。寒い季節はお部屋をあたたかくして、暑い国のファンタジーをお楽しみください。
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