【クリスマス・キャロル】ディケンズの名作を村岡花子の翻訳で。色あせないクリスマス物語【小学校高学年以上】

2024年3月19日

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クリスマス・キャロル ディケンズ/作 村岡花子/訳 新潮文庫

けちで冷酷で、金の亡者のスクルージは、クリスマス・イブの夜、相棒だったマーレイの幽霊と出会う。そして、彼の予言通りに、第一、第二、第三の幽霊とともに、知人の家を訪問するのでした……

この本のイメージ クリスマス☆☆☆☆☆ お金とは☆☆☆☆☆ 人生とは☆☆☆☆☆

クリスマス・キャロル ディケンズ/作 村岡花子/訳 新潮文庫

<チャールズ・ディケンズ>
チャールズ・ジョン・ハファム・ディケンズ(Charles John Huffam Dickens、 1812年2月7日 ~1870年6月9日)は、ヴィクトリア朝時代を代表するイギリスの小説家。下層階級を主人公とし弱者の視点で社会を諷刺した作品を発表した。代表作は「クリスマス・キャロル」「二都物語」など。

<村岡花子>
村岡 花子(むらおか はなこ、1893年〈明治26年〉6月21日~1968年〈昭和43年〉10月25日)は、日本の翻訳家・児童文学者。児童文学の翻訳で知られ、モンゴメリの著作の多くと、エレナ・ポーター、オルコットなどの翻訳を手がけた。基督教文筆家協会(現日本クリスチャン・ペンクラブ)初代会長(在任、1952年〈昭和27年〉6月~1958年〈昭和33年〉10月)。

 以前、岩波少年文庫版のレビューを書いた「クリスマス・キャロル」です。クリスマスシーズンになったので、また読みたくなり、今回は村岡花子版をチョイス。

 あまりにも有名なストーリーですが、かいつまんで説明しますと、

 けちで強欲で狭量な商人スクルージは、明日がクリスマスという日にも、誰とも祝いあおうとしません。
そんなとき、彼は死んでしまった共同経営者マーレイの幽霊の訪問を受けます。

 マーレイは死後苦しんでおり、スクルージに明日からやってくる三人の幽霊の訪問を予言します。

 そして、マーレイの予言通り、彼は三人の幽霊に、過去、現在、未来の幻を見せられ、大きなショックを受けます。反省したスクルージはいままでの生き方を変えて、新しい自分になることを選ぶのでした……

 ……と言うのがあらすじ。

 この新潮文庫版は村岡花子女史の翻訳を、彼女の義理の娘、美枝、恵理姉妹が加筆、修正したものとなっています。
 原文の古風な言い回しなどを現代風に修正した版とされていますが、村岡花子の文章のもつ歯切れのよさ、小気味のいいテンポなどはそのままになっていますので、とにかく読みやすい。

 冒頭からすいすいと読めてゆき、ページをめくる手が止まらぬ吸引力なので、1952年に書かれた「あとがき」も含めて、彼女の並々ならぬ実力に舌を巻きました。村岡花子の文章には、時を超えた魅力があります。

 翻訳した村岡花子自身が、一年に一度は読み返すという、クリスマス・キャロル。わたしも今年読み返してみて、たくさんの新たな発見がありました。

 物語は、金の亡者スクルージが、クリスマスイブに死んだ親友の幽霊の訪問をうけ、金に囚われていた人生を見つめなおし、新しい人生を選択すると言うストーリーです。

 ところが、今回、わたしが読んでいて、冒頭でぎくりとした箇所があるのです。

 それは、クリスマス前にスクルージのもとに、寄付金をもとめる慈善団体の紳士が現れたシーン。
 そこでスクルージは言います。

 「監獄と救貧院が活用されているならば、怠け者が浮かれ騒ぐためにびた一文出しはしない。わたしは監獄や救貧院のために税金を出しています。その税金だって相当なものです」。(要約)

 これは、最近、ずいぶんと頻繁に聞かれるようになった言葉ではありませんか。
 もしかして、わたしたちは、みな、スクルージになりかけているのでは……。

 冷水を浴びせられた気分でした。

 その価値観を貫いた結果、スクルージの人生は、ひどくさみしいものになりました。貧しくても幸せな家庭もあるなか、その何百倍も冨を蓄えても、死んだあとに誰にも惜しまれない人生です。

 スクルージは努力していないわけではありませんでした。
 がんばって、がんばって、がんばりぬいて大金持ちになりました。他人のことを思いやらないわけでなく、親切にした相手もいました。ただ、損得勘定で人を選んでいたので、仕事の取引先や、自分に利益になる人たちに対して親切にしてきたのでした。そして、彼らは、スクルージのことを好きでなんでもなかったのです。

 三人の幽霊の導きで、スクルージは誰を大切にすべきか、そして大切な人になにをすべきかを知ります。

 スクルージが人生を選びなおしたとき、スクルージだけでなく、周囲の貧しい人々の人生も明るくなり、命を落とすさだめだった少年の人生も変わったのでした。

 村岡女史が、この本を毎年一度は読んでいると言うのは、とても意味深いことだと思います。

 わたし自身、今年読み返すまで、こんなに危機感を感じることはありませんでした。つまり、去年の今頃は、世の中の雰囲気もそこまで深刻でなかったのではないかと思うのです。

 この本のあとがきが書かれた年から、70年近くが経とうとしています。
 しかし、人間にとって大切なテーマは不変のものなのかもしれません。

 令和の今、ふたたび、名作「クリスマス・キャロル」の価値と出会ってみませんか。一度読んだことがある人でも、きっと新しい発見があるはず。

 子どもが読んでも、大人が読んでも、新しい発見がある、不朽の名作です。

繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)

 ネガティブな要素はあるにはありますが、教訓的な意味合いを持っており、最終的にはハッピーエンドなので、読後感はさわやかです。しみじみとしたヒューマニズムあふれる物語です。

 令和の今だからこそ、読みたい物語です。

 読後は、この季節ならではの、リンゴのフレーバーやスパイスたっぷりの紅茶を。

 

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