【マラマンダー】海辺の街の大冒険。少年と少女のファンタジック・ホラー冒険譚、開幕!【イアリーの魔物】【小学校高学年以上】

夏は避暑地で賑わい、冬は霧に包まれる街、イアリー。イアリーの「魔海ホテル」の忘れ物係ハービーのもとへ、自分自身が「忘れ物」だと言って転がり込んできた謎の少女バイオレット。二人は海の怪物マラマンダーの卵をめぐる陰謀に巻き込まれてゆく……
この本のイメージ ファンタジー☆☆☆☆☆ ちょっぴりホラー☆☆☆☆☆ 冒険☆☆☆☆☆
マラマンダー イアリーの魔物 1 トーマス・テイラー/作 代田亜香子/訳 長砂ヒロ(ゴキンジョ)/装画・挿絵 小学館
<トーマス・テイラー>
イギリス在住のイラストレーター兼児童文学作家。「ハリー・ポッター」シリーズのイギリスでの挿絵を描いたことで知られる。本作は作家としてのデビュー作。
<代田亜香子>
翻訳家。訳書に「スチュアート・リトル」「屋根にのぼって」「マインド・スパイラル1 スクランブル・マインド」「マインド・スパイラル2 ミッシング・マインド」(共訳)「家なき鳥」などがある。
<長砂ヒロ>
アニメ美術背景マンとしてキャリアをスタートしたのち渡米。元ピクサーアートディレクター、現トンコハウスの堤大介、ロバートコンドー監督作品「ダムキーパー」(アカデミー賞ノミネート)にリードペインターとして参加。現在はフリーランスとして自身のプロジェクトの立ち上げ、アーティストの育成、プロデュースなど精力的に活動中。
トーマス・テイラーのデビュー作「マラマンダー」。原題はMALAMANDER.イギリスでの初版は2019年。日本版の初版は2021年10月です。
作者のトーマス・テイラーはイギリスでの「ハリー・ポッター」の挿絵を担当していたイラストレーターで、本作が作家としてのデビュー作だそう。非常に映像的で、摩訶不思議な雰囲気のする、ゴシック・ホラー・ファンタジーです。
ストーリーは……
夏は避暑地として賑わい、冬は不気味な霧に包まれる街、イアリー。
イアリーの「魔海ホテル」の忘れ物係として働くハービーことハーバート・レモンのもとに、正体不明の女の子バイオレットが転がり込んでくる。彼女は、自分自身のことを「忘れ物」だ、と言うのだ。
成り行きでバイオレットを保護したハービーは、その街に伝わる海の魔物マラマンダーの伝説と、そして、「どんな願いも叶えてくれる」と言う伝説の「マラマンダーの卵」をめぐる陰謀と冒険に巻き込まれてゆく……。
はたして、バイオレットの両親は? そして、マラマンダーは実在するのか? マラマンダーの卵の行方は?
……と、いうのがあらすじ。
主人公のハーバートは、「魔海ホテル」のオーナー、レディー・クラーケンが全幅の信頼を置くほどの正直者。ちょっと気弱だけれど善良で誠実な少年です。
そこへ、おてんばなバイオレットが助けを求めて飛び込んできます。正体不明でミステリアスな女の子、バイオレット。
ふたりは、伝説の怪物マラマンダーの卵をめぐる冒険に巻き込まれてゆきます。
イラストレーターの方が書かれた小説ということで、かなり描写が映像的で、映画にしたら面白そうなシーンが満載です。
たとえば、レディ・クラーケンの「月光カメラ」。これは、レディ・クラーケンが街のことを知るために作った特殊な監視システムですが、自室のテーブルの上に三次元で映像が展開されるしくみになっています。この三次元の小さな街が幻想的。
また、「イアリー書方箋局」のシステムも面白い。ここは図書館のような本屋のような、でもそのどちらでもない不思議な場所です。
入り口のところに設置してある「マーモンキー」と言う、上半身が猿で下半身が魚のカラクリ人形の帽子にコインを入れるとカチャカチャ動き出し、「彼」がその人のための本を選んでくれるのです。
このマーモンキーのカラクリ人形がどんな仕組みでどうやって本を選んでくれるのかはまったくの謎。けれど、病院のような、占いのような、図書館のような、本屋のような書方箋局は本が好きな人なら、誰しもわくわくしてくる場所だと思います。
バイオレットはここで、行方不明の両親の手がかりを掴むのでした。
この物語の鍵となるのは、「天空の城ラピュタ」の飛行石のような、不思議な力を持つ、マラマンダーの卵。卵を求める亡霊や、卵を狙うムスカみたいな男も登場します。
これ、実写も面白そうですがアニメーション映画になっても盛り上がりそう。自分の脳内では、かなり序盤からスタジオ・ジブリの絵で再生されていまして……小学館の本なのでジブリでの映像化は難しいかもしれませんが、あの、ジブリの「ほのぼのしててかわいいけれどちょっぴりホラー」な雰囲気を彷彿とさせるものがあるのです。
デビュー作とは思えないほど展開がスピーディで、最初からぐいぐい読ませます。ハーバートの純粋さとバイオレットのたくましさがとってもいいコンビ。ふたりとも生い立ちに秘密があるので、冒険を続ける中で少しずつ解き明かされてゆくのでしょう。
字は少し細かめで、ボリュームがあります。総ルビではありませんが、難しい漢字には振り仮名がふってあります。小学校高学年から。読み応えがあるので本を読み慣れているお子さま向き。しかし、文章がハービーの一人称で展開がスピーディなので読みやすいです。大人も楽しく読めます。
ジャンルとしてはゴシック・ホラー・ファンタジーでしょうか。ハービーとバイオレットの関係や、ちょっぴり怖くて不思議なイアリーの街の雰囲気など、「ルイスと不思議の時計」に似ています。「ルイス」のシリーズがお好きなら、おすすめです。
「イアリーの魔物」シリーズは、すでに第二巻も出版されています。続きを読むのが楽しみです。
繊細な方へ(HSPのためのブックガイド)
ちょっぴり怖い、ゴシック・ホラー・ファンタジーです。しかし、残酷なシーンは気をつけて書かれているので、それほどではありません。流血シーンもほとんどありません。
「そういうシーンがあるのだな」とあらかじめ身構えていれば大丈夫な方なら、楽しく読めると思います。
読後は、フィッシュ・アンド・チップスが食べたくなるかもしれません。または、ホットチョコレートでひとやすみもいいですね。
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